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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
死者を操る少女編
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第91話 威光

 やや弱くなってきた雨の中を逃げる少女が見える。死体を操る少女、アリスだ。

 もう辺りは夜の帳が下り、周囲の様子はほとんどわからない。

 足元には彼女を守るかのように、動く犬の死体が付き従う。


「やっと追いついたわ!」

「あっ、ミュゼーおばさん! どうしたの、その腕? もしかして負けちゃったの?」

「……いちいち癇に障る子ね。それで、この犬は?」


「折角集めた村人を置いてきちゃったから代わりに仲間にしたの! たまたま骨を見つけたから!」

「そう……」

 途中で吸血鬼ミュゼーが合流すると、並んで歩きだした。


「もうすぐユリアンとの合流地点ね。あんたのせいでこんな騒ぎになったんだから、しばらくおとなしくすることね」

「え〜! 亡者を失ったばかりなのに……」

「……追いついたぞ!」

 2人が合流してしばらくの後、馬で後を追いかけてきたフリードが追いついた。2人の背中に声をかける。


「……まったく、しつこい男ね」

「オレは狙った女は最後まで追いかける男だからな」


「ちょっと、私の亡者たちは!?」

「残念ながら大地に還ったよ」

「……! もう怒った、行け、わんちゃん!」

 アリスはフリードの言葉に怒り、周囲の犬をけしかける。犬の死体は、実際に狩りをするときのように、フリードの馬の周囲に散開する。

 じりじりと距離を詰めていくと、馬の後方にいた犬が飛び掛かってきた。


「くっ!」

 フリードは妹が狙われていると思い、庇うように抱き寄せる。だが、犬はその下の馬を狙い、牙を突き立てる。


「きゃあっ!」

「うおっ!」

 2人は馬の上から投げ出され、地面に倒れこむ。犬は馬に群がり、その肉をむさぼり始めた。


「よし、そのままそいつらも食べちゃえ!」

「ちょっと、放っておいて合流地点に向かうわよ!」

 アリスはミュゼーに急かされ、再び背を向けて逃げ出した。フリードも急いで後を追おうとするが、馬を食い散らかした後の犬に再び囲まれ、進路を阻まれる。


「くそ、早く追わないと……!」

 フリードはステラを庇いながら剣を振るうが、犬の死体はまだ本能が残っているのか、一気に襲い掛かることはなく、じわりじわりと追い詰めていく。

 間違いなく先の戦闘の疲労が残っており、剣に勢いが残っていない。


「お兄様……」

「心配するな、まだ大丈夫だ」

 そう発言するが、犬の処理に手間取っており2人を逃すのは時間の問題だ。


「……? 光?」

 突如、周囲を眩い光が包み込み、まるで真昼の様になったかと思うと、犬の集団が刃に倒れていく。


「お兄様、誰かが……!」

 フリードの目の前には、第1ギルド『王家の盾』のギルドマスター、セシリアが立っていた。


*


「はっ、第1ギルド様の到着か」

 オレは目の前に立つ女を見て、そう言葉を漏らす。夜にならないとこないと言っていた奴らがやっと到着したようだ。

 セシリアは一瞬にして、犬たちを光の刃で切り捨てたようだ。犬の身のこなしも、光の速さには通用しないな。


「まさか、貴方が来るとはね、第1ギルドのギルドマスターさん?」

「……この犬の死体を操る魔法はどちらの方の者ですか?」

「アリス、逃げなさい。この女相手では分が悪いわ」

 流石に奴らもセシリアのことは知っているようだな。オレの時とは露骨に態度が違い、完全に逃げるつもりらしい。

 死者を操る魔法の持ち主アリスは一目散に逃げだした。ミュゼーが時間を稼ぐつもりだろう、行く手を阻む。


「ふう、疲れた……」

「お兄様、大丈夫ですか?」

「ああ、あとはあいつに任せとけばいい。1対1なら負けないだろう」

 オレは休憩モードだ。約半日行動し続けて、正直すぐにでも寝たいぐらいだ。

 そう考えていると、後ろから馬の足音が近づき、横で止まった。

 馬の上を見ると、確か副ギルドマスターのフレデリックとかいう奴が乗っていた。


「君たちが足止めしていたのか? 平民にしてはよくやった、あとは私たちに任せておくといい」

「……は?」

 何だこいつは。第1ギルドは初対面で悪印象を与えるのがルールなのか?

 平民を代表してハンマーで殴ってやろうか。


「お兄様、始まりそうです!」

 おっと、こんな奴に気を取られている場合ではなかった。セシリアのお手並み拝見といこうか。


「私の速さについてこれるかしら!」

 ミュゼーは片腕を赤く硬化させると、一足飛びに間合いを詰め、セシリアに殴りかかる。

 だが、体に触れるかと思った瞬間にセシリアは後ろに瞬間移動する。


「なっ!?」

「光の速さを目で捉えられる者などいません。私の『威光(マジェスティ)』に耐えられますか?」

 セシリアは腰に携えた剣を抜く。その剣は太陽の様に光り輝いている。

 ミュゼーは慌てて硬化した腕で剣を防ごうとするが、無駄だろうな。


「……うあっ!」

 腕は光の剣を全く防ぐことができず、ボトリと切り落とされる。オレが既に片腕を落としていたので、もう両腕の無い状態だ。


「私が時間稼ぎさえできないなんて……!」

「勝負ありですね。残念ですが、生かしておくわけにはいきません」

 全く大した強さだな。楽ができて助かる。

 だが、もう文字通り手がないと思われたミュゼーが、不敵に笑い始めた。


「ふふっ、『吸血鬼』の最後の技を見せてあげるわ。血流爆発で辺り一帯を吹き飛ばすっ!」

「……! ステラっ!」

 まずい、あいつは最後に自爆するつもりだ。他の奴はともかく、ステラを守らないと。

 オレはステラごと、周囲に鉄の盾を作り姿を覆う。……だが、いつまでたっても爆発が起きない。


「……?」

「がはっ……!」

 鉄を解除して様子を見ると、吸血鬼は一瞬で体をバラバラにされてしまっていた。

 全く、できるなら最初からやって貰いたいものだ。


「あと1人ですね」

 吸血鬼はろくに時間を稼げなかったため、まだアリスの姿が見えている。セシリアは再び瞬間移動しアリスの前に立ちはだかった。


「ひっ……!」

 怯えるアリスに向けて、無慈悲に剣を振るう。だが、その剣は届かず、突如アリスの姿が地面の中へと消えていった。


「なっ!?」

「あの魔法は……?」

 あれは、フーリオールにいた、影を操る魔法ではないか?


「くっ! 逃がすわけには!」

 セシリアは珍しく焦った様子で、自身の体を輝かせ周囲を照らす。周りをキョロキョロと見渡すが、背の低い草が生い茂った草原は影も多く敵を見つけることは出来なかった。

 ……どうやら、完全に逃がしてしまったようだな。


*


 敵を逃がしてしまったドジっ娘セシリアちゃんは、諦めきれないのかしばらくピカピカ光りながら歩き回っていたが、やがてオレたちの所に戻ってきた。


「不覚です、シャオフーを連れてくるべきでした。……それで、何故貴方がここにいるのですか?」

 セシリアはオレを見て問いかけてくる。まさか、今気付いたわけじゃないだろうな。


「ハレミア国民がハレミア領内にいて何か問題があるのか?」

「いえ、咎めるつもりではありませんが……」

「貴様、セシリア様に向かってなんて口の利き方を!」

 フレデリックとかいうのがオレに対して馬の上から物申してきた。お前はまず地面に降りろと言いたい。


「オレも依頼を受けてあいつらを追っていただけだ。こう見えても愛国心の溢れる男なのでな」

「……そうですか」

 聞いてきたくせにあまり興味なさげだ。まあオレもドジっ娘よりかは、逃がしてしまった獲物の方が気がかりだがな。


「……セシリア様、どういたしますか?」

 フレデリックはやっと馬から降りて、セシリアに話しかけた。流石に目上には態度を改めるらしい。


「死体を放置するわけにはいきませんし、処理部隊を待ちましょう。村にもいく必要がありますね」

 2人はここに残るようだ。第1ギルドには後処理部隊もいるらしい。


 ……村のことも面倒見てくれるならオレはもう用済みだな。ステラも疲れているし帰るとしよう。


「では第1ギルドの偉大なるマスター、セシリア様。平民の我々はこの辺で失礼いたしますよ」

 オレは慇懃無礼にセシリアに挨拶すると、そばにあった馬にステラを乗せ、オレも乗り込む。


「……!? ちょっと待て、貴様! その馬は私の……!」

「では、良い夜を! ハイヨー!」

 オレは立派な馬を操り、王都の方へ向かって走らせた。後ろから何か言っているが、どうせ別れの挨拶だろう。


 いつの間にか雨は止み、月がオレたちの帰り道を照らしていた。


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