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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
死者を操る少女編
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第87話 曇り空

 ハレミア国内でも外れの方、馬車が通れないような舗装されていない道。

 そこを旅する、3人の男女の姿があった。


「それにしてもラッキーでしたね! まさか私たちに『巡礼』の仕事が回ってくるなんて〜」

「Cランクギルドまでこんなにおいしい依頼が回ってくることは少ないからな。だが油断するな、ハルピア。無事に帰りつくまでが任務だ」

「ウォルター隊長は真面目ですね〜。もうあと1つか2つ村を訪れれば任務完了ですよ!」


 3人は『巡礼』の任務を受け、各地の村を回っている最中であった。

 隊長と呼ばれた男は黒髪に黒い衣装という闇に溶け込むような姿、その男に話しかける少女は、背中に白い羽が生えており、パタパタとその翼で空を飛びながら移動している。

 もう1人は犬耳の生えた女性で、無言で2人の会話を聞いていた。


「あっ、見えてきましたね〜! あれが次の目的地の村で間違いないですね」

 3人は遠くにある村を視認すると、その方向へと進んでいく。

 だが、途中まで近づいたところで、犬耳が2人を手で制した。


「2人とも、止まって。……匂いがする。人間の血と、腐ったような匂い」

「……!? どうしましょう〜、ウォルター隊長。私が様子を見てきましょうか?」


「役割を見失うな、ハルピア。探知役が少しでも異常を発見したら、伝達役が王都に第一報を入れに行く。残りの2人が異常を調べ、1週間以内に王都に帰還し最終報告する。この動きを遵守しろ」

「わ、わかりました。では、早速報告に行きますね!」

 伝達役であるハルピアは空高く飛ぶと、王都の方に全速力で向かっていく。


「よし、ジルジル。我々は村を調べるとしよう」

「わかった、隊長」

 残された2人は、警戒をしながら村へと歩いて行った。


*


 オレは仕事を探す為に、またギルド管理局を訪れていた。


「そろそろ大金を稼がないとな……」

 ギルドメンバーもお金を稼げるようになって一安心……とはいかず、家計を支えるために大黒柱であるオレは働きづめだ。


「おや、アルトちゃんの窓口に客がいるな」

 いつも無人の窓口に、今日は少女がいる。羽が生えており、それをはためかせてほんのわずかに浮いている。

 室内では歩けばいいのにな、と思いつつ近づいてみることにした。


「お嬢さん、そこはオレ専用の窓口なのだが?」

「え? 誰?」

「ハルピア様、そちらの方は無視してください。では、『巡礼』の第一報、確かに受け取りました」

 巡礼という事は、この子は伝達役として特急で報告しに来たわけか。

 羽の生えた少女は報告を終えると、すぐにギル管を飛び出していった。


「何か異常があったみたいだな」

「ええ、現時点で何があったかまではわかりかねますが、一週間後の報告で明らかになるでしょう」

「報告があれば良いがな」


 『巡礼』は必ずしも無事で済むわけではない。異常を調査して1週間後に再連絡という流れになっているが、調査隊が帰ってこないこともあり得る。

 1週間後に報告がない。つまりそれは命を脅かすほどの危険がある、という報告なのだ。


「まあ、『巡礼』の生還率は何もない場合を含めて9割以上です。現時点では誰もまだ心配していないでしょう」

「それもそうだな。ところで、第一報の内容はどんな感じだ」

「人間の血と何かが腐った匂いを感じたそうですよ」

「腐った匂い……」

 少し気になるな。最近そんな感じの匂いを嗅いだ気がする。


「どうだ、アルトちゃん。もし1週間後報告が無かったら、再調査の依頼をオレに任せてくれないか?」

「構いませんが、今回の依頼は第1ギルド主導の依頼ですので、その下に付くことになりますね」

「……悩ましいな」

 第1ギルドとは敵対しているわけではないが、あまりいい思い出が無いのも事実だ。


「やっぱりやめておこう。代わりに別のことを教えてくれ。さっきの羽の生えた女の子はどのギルドに所属しているんだ?」

「……そのくらいは自分で調べて欲しいのですが」

 アルトちゃんはそう言いながらも、1つのファイルを取り出す。いろいろなギルドの情報が記されたファイルのようだ。


「先ほどの方は『白き翼(エンジェルウイング)』の魔法を持つハルピア様です。Cランクギルド『ハンサムボディ』に所属しています。構成員50名ほどの中堅ギルドですね」

 ……凄いギルド名だ。


「へえ、ファイルには魔法の情報も載っているんだな」

「っ!? ……ええ、その通りです。本来は魔法の情報までは聞きませんが、情報のあるものはこうして記載しています」

 アルトちゃんは一瞬驚いたように見えたが、すぐにいつもの無表情に変わった。何だったのだろうか。


「オレの情報もあるのか?」

「ええ、『錬金術』のフリード・ヴァレリー。年齢や特徴までちゃんと載っていますよ」


「オレの情報がばれたらなんだか恥ずかしいな。他の人には見せないでくれ」

「……それはどうでしょうか」

「まあいいか、情報ありがとう、アルトちゃん」

 オレはアルトちゃんに礼を言うと、次の目的のためその場を後にすることにした。


 次の目的は、さっきの羽の生えた少女だ。


*


「ここが『ハンサムボディ』のギルドホームか」

 オレはアルトちゃんに貰った情報を頼りに、ある建物にたどり着いた。突然の来客なので、礼儀としてお土産も持ってきている。


 王都の中心からは離れているものの、大きさはうちのギルドホームより大きい。やはり少し離れた方が土地が安いのだろうか。

 とにかく中に入ることにしよう。オレは玄関の呼び鈴を鳴らす。


「はいはい〜。あれ? さっきの」

 玄関から出てきたのは、目的の少女であった。白い羽を使ってやっぱり低空飛行している。


「オレはフリード・ヴァレリー、『ミスリルの坩堝(るつぼ)』というギルドのマスターだ。少し話をさせて貰えないか?」

「……?」

 少女は警戒しながらも、オレをホームへ上げてくれた。

 来客用と思われる席に案内され、紅茶を出してくれた。


「それで、話ってなに〜?」

「ああ、『巡礼』のことを聞きたくてな。これを見てくれ」

「うわっ、グロっ!?」

 オレはお土産として、ペットである亡者の生首を持ってきていた。周りから見えないように包んでいた布を取り除くと、予想通りの反応が返ってくる。


「これは亡者の首『エリザベス』だ。血と腐った匂いがするだろう?」

「……!? 血と、腐った匂い……」

 少女はオレの言葉に驚いた表情を見せる。ちなみにエリザベスはオレのつけた名前だ。名前がないと可哀想だからな。


「分かっただろう? オレは異常のあった村には、この亡者に繋がる何かがあると考えている」

「それで、私に何を求めてるの?」


「1週間後に報告が無かったら、再調査に行くだろう。その時オレも連れて行ってくれないか?」

「……! ウォルターもジルジルもちゃんと帰ってくるよ!」

 少女は怒りだしてしまった。名前を呼んだのは、今調査をしているはずのメンバーだろうか。

 まあ、彼女の怒りはごもっともだ。仲間が無事じゃなければ、なんて他人に言われたくないはずだ。


「そうか、悪かった。もし気が変わったら声をかけてくれ。ただ一つだけ言っておきたい。この亡者は放っておいたら危険だ、何とかして……」

「帰って!」

 やれやれ、仕方ないな。ここは退散するとしよう。


「……わかった、今日は失礼しよう。紅茶、御馳走様」

 オレは来た時のように亡者の首に布をかぶせると、無言の少女に背を向けこの場を後にした。


「……天気が悪いな」

 建物をでて空を見上げると、曇り空が広がっていた。雨は降っていないが、どんよりとした不快な空だ。


 オレが心配しすぎであればいいのだが。そう思いながら、ギルドホームへ帰ることにした。


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