第84話 ロゼリカの友達
「フリード、本当に何でも買っていいの?」
「ああ、服を元通りにしてくれたお礼だ。なんでも欲しいものを言うといい」
オレはロゼリカとともに、王都の通りを歩いていた。
以前フーリオールで兵士に撃たれた際、穴だらけになってしまった服をロゼリカが修繕してくれたので、そのお礼として好きなものを買ってやろうという訳だ。
「それなら、織物が見たいかな。暖かくなってきたから毛糸を編むのもどうかと思うし」
「なるほど、織物か……。どこにあったかな」
いつもは意識をして見ていないので場所がぱっと思いつかないが、大通りに行けば何でも見つかるだろう。
とりあえずは王都の中心を練り歩くが、服が売っているところはあっても、布地となるとなかなか見つからない。
「こうしてみると意外と見つからないね」
「……ここは貴族や金持ちの住む地区だからな。自分で編むという考えが無いのかもしれないな」
有力な商人たちと繋がりでもあれば材料を買う事も出来るのだろうが、余りそっち方面には面識がない。
「よし、中流地区の方へ行ってみようか」
ロゼリカを連れて治安が悪い所にはあまり行きたくないのだが、まあオレが付いていれば問題ないだろう。
王都を背にしてまっすぐ歩き続け、中流地区へと向かう。街灯が無くなれば区画が変わった証だ。
「おっ、あれは目的の店じゃないか?」
「本当だ! カラフルな布がたくさんある!」
中流地区の端の方で、ついに目的の店を見つけた。早速中に入るとしよう。
*
「ふふふ、ふふふっ……!」
「……そんなに嬉しいか?」
こじんまりとした店の中で、隅から隅まで布地を眺めること2時間。気に入ったものを両手いっぱいほど買い込んだ。
大した出費ではないが、非常に買い物が長い。
そういえばエミリアも一緒に買い物に行くと、必要ないものまでじっくり眺めてたな。女の子は皆そうなのか?
「これでしばらくは退屈しなさそうだ!」
「それは良かったな。今日は帰るとしようか」
荷物が多くなってしまったので、帰りはゆっくりだ。オレもロゼリカも両手に手提げの袋を下げ、並んで歩く。
「お願いします、止めてください!」
「うるせー! 羊女!」
中流地区にある公園の横を通った時、少年少女の言い争う声が聞こえてきた。
「……なんだか騒がしいな」
面倒ごとは御免だが、好奇心は抑えられないので公園に入ってみる。中では、ロゼリカと同じぐらいの年齢だろうか、1人の少女の周りを少年が取り囲んでいた。ここからだとよくわからないが、声を聞く限り、少女が虐められているようだ。
「ねえ、フリード」
「みなまで言うな、お前の気持ちはわかっている。望み通りすぐに少年たちを冥府に送ってやろう」
「ちょっ、そこまでは望んでないから!」
荷物をロゼリカに預けると、少年たちの近くへ寄る。少年たちは4人だ。
「君たち、止めなさい。女の子が困っているだろう」
「はぁ? 誰だてめえ?」
少年たちは怖いもの知らずといった感じで、オレに対して凄んできた。
うーむ、正真正銘のクソガキだな。だがオレは平和主義者だ。お互いが傷つかない方法で解決するとしよう。
「どうだ、お金をやるからいじめを辞めてみないか?」
やはり大人の交渉とは金でやるものだ。
オレは金貨1枚を取り出し、爪で弾く。弾き飛ばされたコインは1人の顔に命中した。
「痛っ! ……てめえ、馬鹿にしやがって! ぶち殺す!」
おやおや、最近の若者ときたら、すぐに殺すとか言ってしまうのだな。良識ある大人として、"めっ!"としてあげないとな。
「喰らえ、『投石』!」
少年の1人が魔法攻撃を放ってきた。掌から小石が飛んでくるが、オレにとっては可愛らしい攻撃だ。
「小賢しいわぁぁぁっ!」
「うわあああ!」
オレは腕に鉄をまとわせ、小石を打ち返す。
帰ってきた小石のせいか、はたまたオレの絶叫のせいか。少年たちは一瞬で公園から逃げ出し始めた。
「ふう、問題解決だな」
「フリード、流石!」
ロゼリカがオレの下に駆け寄ってくる。
オレは虐められていた少女の方を向く。突然乱入したオレたちのことを当然知らない為、困惑した表情を浮かべている。
おとなしそうな少女だが、特徴的なのはその姿だ。髪は白いごわごわの毛で、癖毛というレベルではない。そして、立派なねじれた角が生えていた。
「あ、あの……」
「公園で話するのもなんだし、カフェに行こう」
オレは少女を強制連行し、近くの店に寄ることにした。
*
「まずは自己紹介をしようか。オレはフリード、王都の平和を守るために巡回していたところだ。危ない所だったな、お嬢さん」
「フリード、適当なこと言って……」
警戒を解くために言った嘘だが、少女はまだ困惑した表情を浮かべている。まあ、当然だな。
「いきなり現れてびっくりさせたら悪かった。なんで虐められていたんだ? 良かったら聞かせてくれ」
「その……私、魔法のせいで、こんな格好だから……。いつも皆にからかわれて……」
粘り強い問いかけに、少女は小さな声で話し始めた。からかわれるというレベルじゃなかった気もするが、羊みたいな見た目が原因らしい。
オレは、横にいるロゼリカをちらっと見る。こいつも悪魔みたいな見た目のせいで村八分にされていたな。その時はオレの天才的発想で、英雄と崇められるようになったわけだが。
「この『迷える子羊』の魔法さえなければ……」
「くっくっく、小娘が! そんな魔法がなんだ、我の姿を見よ!」
ロゼリカは突然立ち上がると、頭についていたリボンを取り去った。リボンで隠されていた、立派な角が露わになる。
「私と同じ、角……?」
「我も貴様と同じ、角を持つ者だ! この角は、我が魔王であることの証明なのだ!」
「魔王?」
恐らくロゼリカはこの少女を励まそうとしているのだろうが、何を言っているのかよくわからないな。
「あー、その、角は、えーと……そう、チャームポイントなのだ! だから、自分を恥じることはないのである!」
「その、何が言いたいかわかりません」
「……実は私も、昔この姿のせいで虐められてたんだ。だけど、それを格好いいって言ってくれる人もいてさ。受け入れてくれる人がいるってわかっただけで、ちょっとだけ幸せになったんだ」
結局、魔王の振りは辞めて、素の言葉で話し始める。まあ、気取った言葉よりも素直な言葉が響くこともあるよな。
「でも、私には友達なんて」
「何を言う、我が今日から友達だ! 我々は、『ツノツノ同盟』だ!」
「『ツノツノ同盟』……! 初めての、友達……!」
おいおい、のりで変な同盟まで組んでしまっているぞ。だが、本人たちが納得しているならそれでいいのだろうか。
*
ロゼリカの励ましによって気を取り直した少女は、やや笑顔を見せつつ、家に帰っていった。
オレたちは再びギルドホームへ歩き始める。
「くっくっく、『ツノツノ同盟』、ねえ」
「ばっ、馬鹿にするでない! 格好いいではないか!」
「ああ、格好良かったよ」
ロゼリカは馬鹿にされたと感じたのか、ぷりぷり怒り始める。まったく、少しは成長したと思ったが、やはり子供だな。
「それで、『ツノツノ同盟』を組んでどうするんだ?」
「私は学園に行ってないし時間があるから、たまにはあの子のとこに行って遊んであげようと思うんだけど……」
「そうだな、ロゼリカにとっても初めての友達だからな」
「なっ!? ギルドの皆だって友達だと思ってたのに!」
「いや、オレたちは家族だろう?」
「っ! ……また私をからかって!」
「からかってないさ」
ロゼリカは手に持った袋で、バシバシとけつを叩いてくる。
「はっはっは」
「お尻を叩かれて喜ぶな、変態!」
全く、これだからギルドマスターは辞められないな。
日常がこんなに楽しいのだから。




