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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
子爵令嬢の恋愛事情編
80/198

第79話 お嬢様の失恋

 前回のあらすじ:オレたちはクライアントの卑劣な罠によって利尿剤を飲まされ股間がピンチであった。


「ふう、やはりオレの『錬金術』は最高だな。トイレが無ければ作れるのだからな」

「皆さま、申し訳ありませんの……」

「構わないさ。デトックスは大事だからな」


 錬金術で仮設トイレを作り、前代未聞のピンチを何とか切り抜けたので、洞窟の奥に進むとしよう。


「さて、休憩も終わったし先に進もう。ローズに会ってしまったらサプライズの誕生祝いが無駄になってしまう」

「……そこにいるのはヴァレリーか?」

「なっ!? ろ、ローズ……何故ここに!」

 しまった、洞窟の入り口で時間を潰してしまったせいで、ローズが普通に帰ってきてしまった。後ろには、顔は知らないが同業者らしきものたちが見える。


「ローズ様……! あ、あの!」

「ん? 君は確か……」

 コートニーちゃんが意を決してローズの前に飛び出す。『亡者の墓場』にそぐわない純白のドレスがひらひらと動きに合わせて揺れている。


「わ、私、コートニー・トロロープと申しますの! ローズ様、お誕生日おめでとうございますの!」

「ちょっと、誕生日は明後日なのに、もう祝っちゃったよ!?」

「誕生日を誕生日に祝う必要はないという事か。オレも見習いたいものだ、この柔軟性」

「……柔軟性で片付けていいのか?」

 予想外のローズの登場に、誕生日を2日繰り上げる羽目になってしまった。ここはクライアントに合わせるとしよう。


「ん? あ、ああ、そういえば明後日は私の誕生日だったな」

「はい、誕生日プレゼント、受けとって下さい! プレゼントは私ですの!」

 まあ、なんて大胆なのでしょう。彼女はローズの分厚い胸板に飛び込む。


「ちょっと待ちたまえ。……ヴァレリー、これはどういうことだ?」

「おめでとう、ローズ。結婚式には呼んでくれよ?」

 オレは困惑した表情のローズに拍手を送る。感動した、純愛とはこんなにも尊いものなのだな。


「……大体想像はついた。お嬢様、少し聞いてほしい。私には実は許嫁がいるのだよ」

「な!? そ、そんな……!?」

「おい、ローズ! 聞いてないぞ、そんなこと! おのれ、オレというものがありながら……!」

「フリードさん、ちょっとその言葉は怪しいよ」

 くそ、オレたちは親友ではなかったのか? こんな大事なことをオレに教えないなんて。


「……わかりましたの。申し訳ありません、急に押しかけて、こんなことを言ってしまって」

「済まない、お嬢さん」

 その場にしんみりとした空気が流れる。


 『亡者の墓場』入り口、黄金の仮設トイレの前。そこでお嬢様の恋は、綺麗に終わった。


*


「では、ヴァレリーよ。私はもう仕事を終えたところだ、王都に帰らせてもらうとしよう。……このお嬢様も連れてな」

「ああ、悪かった、ローズ」

「気にするな、私と君の仲だ。……これを渡しておこう」

 ローズは小さなメモらしきものを渡してきた。これは、洞窟の手書きの地図か?


「私の仕事はこの『亡者の墓場』に溢れる亡者たちを封印することだったのだよ。バツがついているところは既に対処済みだ」

「この、髑髏マークがついているところは?」

「ここは今の我々では対処できないと判断したところだ。お前たちはそこに溢れる亡者たちを殲滅しに来たのだろう?」

 どうやらローズはオレたちが依頼を受けてここに来たと思っているようだ。

 誕生パーティーが主目的だとは思わなかったのだろうが、残念ながらそっちがメインなのだ。


 ローズたちは縄梯子を昇って行った。コートニーちゃんも涙を拭き、オレたちに頭を下げた後、同じように縄梯子を昇って行った。


「フリードさん、僕たちはどうする?」

「折角来たんだ、髑髏マークのところに行ってみるか」

「ええ、こんな暗い所入っていくの……?」

「おいおい、危険なところには大抵お宝が眠っているものだ。様子を見たって罰は当たらないさ」

 ロゼリカは乗り気じゃないが、王都近郊に溢れる亡者の正体、自衛のためにも見ておいた方がいいだろう。

 小さなランタンの明かりを頼りに、洞窟の奥へ向かっていく。


「うわっ!? ……今、唸り声みたいなのが奥から聞こえたよ!」

「いちいち怯えるな、この世で魔法使いより恐ろしいものは居ないのだからな」

 奥からは確かに低い唸り声が聞こえている。亡者とはどのような姿をしているのだろうか。


「……! 皆、ストップだ。また、穴がある」

 ここがローズのメモに書いてあった、髑髏マークの位置だろう。落ちれば昇ってこれないような穴が目の前に広がり、唸り声は下から聞こえてきている。

 暗くて全く見えないが、この声は1人や2人ではない。相当な数の亡者がいそうだ。


「行き止まりなら帰るしかないね。ざ、残念だなー!」

「馬鹿を言うな、宝を見つけるまで帰れない。フラウ、ナパーム弾の用意を」

「う、うんっ!」

 フラウが背中に背負っていたバッグを下ろすと、大砲を取り出した。ついに『フラウランチャー』の初お披露目だ。


「よし、ぶっ放すよ!」

「ああ、死の淵を彷徨う者どもに本当の地獄を教えてやれ!」

 フラウの腕に貯まっている液体燃料が、大砲へと供給される。十分に供給された後、大砲のレバーを引くと爆発音とともにナパーム弾が発射された。


「うわっ、凄い音だな……!」

 ナパーム弾は穴の底に着弾したようだ。どうやら穴は3階建ての建物程度の深さだったようで、割と近い位置で燃え上がると、亡者たちの姿を映し出した。

 亡者は大体イメージしてた通りで、歩く死体といった感じだ。何を考えているのかわからず、体が燃えながらも気にするそぶりを見せずに地の底をうろうろしていた。


「む……? おい、見てみろ。亡者どもは服を着ているようだ」

「それがどうしたんだ……?」

 服を着てない奴が、どうでもいいだろと言わんばかりの表情をするが、これは非常に重要なことだ。


 相手の魔法の正体を知ることは勝利につながる。亡者を操る魔法、これは『干渉型』の魔法と予想されるが、『創造型』で生み出された生命体の可能性もあった。

 だが、魔法は1人1つの原則があるため、生命体を生み出す魔法は服までは作れないのだ。


 亡者は魔法で操られた死体であることが分かった訳だが、『干渉型』の魔法は魔法使い自身が死ぬと消滅するという特徴がある。

 つまり、この大陸のどこかに死体を操る魔法使いが今も生きているという訳だな。


「よし、あらかた片付いたみたいだよ」

 フラウの言葉で意識を視界の先に戻す。ナパーム弾で引き起こされた火の海はだいぶ鎮火しており、黒焦げの動かない死体がうっすらと見える。


「下の様子を見てくる。お前たちはここで待っていろ」

「ちょ、ちょっと!」

 オレは穴に飛び込み、足に鉄のスプリングを発生させ美しく着地する。

 穴の底は人の焦げる匂いと、むわっとした熱気が充満していた。火のせいで酸素が薄いのか、やや呼吸が苦しい。


「ぐぉぉ……」

「おっと、まだ生き残りがいたか」

 たまたま穴の隅で火を逃れたのだろう、生き生きとした死体がオレに襲い掛かってきた。

 生み出した剣で首を叩き落すと、体の方は動かなくなったが、頭の方は顎を動かしており眼はオレの方を睨みつけている。


「ほう、首を落としただけでは動きを止めないのか」

 せっかく燃えてないきれいな死体なので、何か手掛かりはないか服をまさぐる。

 死体は生きていれば15歳ぐらいの女性だろうか。土気色の体は可愛らしい服装に包まれていた。


「死体とはいえ、女性の体を探るのは気が引けるな……」

 服のポケットをごそごそしてみるが、何も入っていない。こんな変態行為をして収穫なしとは、やるせないな。

 横をちらっと見ると、女性の顔だけがこちらを睨み続けている。オレは噛みつかれないように髪の毛をむんずとつかむと、そいつとともに上に戻ることにした。


 これは、お土産として持って帰ろう。


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