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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
子爵令嬢の恋愛事情編
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第78話 今会いに行きます

 オレたちは報告の為、また館を訪れていた。

 今日は顔見せも兼ねているため、デット、ロゼリカ、フラウの4人だ。


「来週、ローズ様の誕生日……ですの?」

「ああ、しかも危険な所で記念日を過ごすらしい」

 トロロープ家のお嬢様コートニーちゃんに、調査結果を報告する。

 ……まあ、貰った予定表の中身を伝えただけだが。


「男と言えども、誕生日を祝われれば嬉しいもの。それも危険なところまでわざわざ会いに来たとなれば、5秒で即落ちだろうな」

「ほんとですの……!?」

「ああ、オレも男だからな、間違いなく惚れると断言できる」

「本当か……?」

 身内からも疑いの目を向けられる。まったく心外だな。


「そんなわけで、『亡者の墓場』に行く覚悟があるのなら、オレたちも全力でバックアップするぞ。史上最高速度に近い速さでCランクに駆け上がった、この天才率いる『ミスリルの坩堝』がな」

「まあ、頼もしいですの! ぜひお願いしたいです!」

 お嬢様は速攻で覚悟を決めたようだ。ここは腕の見せ所だな。


「そうと決まれば、お誕生日のおプレゼントを準備しないと……!」

「そうするといい。オレたちも準備をさせて貰うとするか。出発は誕生日の2日前にしよう」

 日程を決めると、館を去ることにした。


「フリード、『亡者の墓場』について詳しい情報はあるのか?」

「よく聞いてくれたな、実は全くないんだ。なにしろ最近見つかったらしいからな」

「……また行き当たりばったりか」

 デットは呆れ顔をする。


「ふん、この天才を舐めるな。いくつか予想はしているぞ。亡者が何かは見てみないとわからないが、魔法の仕業なのは間違いないだろう。そうなると何故洞窟に亡者の群れを放っているのかがを考える必要がある」

「それで、考えた結果は?」

「亡者を放っているのは人払いの為だと考えられる。だとすれば、何か大切なものが隠してあるに違いない。そう、お宝だ」


「お宝? 本当にそんなのあるのかな?」

「最近金が減って仕方がないからな。貴族に媚びつつ、ついでに宝もゲットする。完璧な作戦だ」

「……そうだといいけどな」

「お宝か……。珍しいものがあるといいね」

 亡者などに興味はないが、自分で言っていて少しテンションが上がってきた。宝探し、楽しみだ。


*


 ついに出発の時がやってきた。レッツ亡者狩りだ。


「よし、皆準備は良いか!」

「僕はオッケーだよ!」

「私も大丈夫」

「ああ、問題ない。……問題ないが、なぜこんな格好なんだ?」

 デットがオレたちの姿を見て呟く。オレたちはベージュの帽子と服で全身を包んでいる。下半身はパンツスタイルで白いハイソックスの、いわゆる探検家スタイルだ。


「服装は大事だろうが。お前は全裸で葬儀に出るのか?」

「それは極論が過ぎるだろう。……動きにくいから袖を切り落としていいか?」

「……折角ロゼリカが作ってくれたのに」

 オレの嘆きの声も届かず、デットはビリビリと服を引き裂き始めた。結局、ヘソ、腋、太ももは出したいらしい。


「……まあいいか。出発するとしよう」

「御主人様、お気をつけて!」

 お留守番たちに見送られながら集合場所であるトロロープ家の屋敷へ向かう。


「ヴァレリー様、お待ちしておりましたの!」

 コートニーちゃんは既に準備をしていたようで、ウェディングドレスのような純白のドレスを着て玄関に立っていた。


「おお、気合が入っているな。ドレスは女性の戦闘服という事か」

「そうですの!」

「……気合の入れ方を間違えてないか?」

 露出狂はそんなことを言っているが、クライアントの意思を尊重しよう。これは『媚び媚び作戦』なのだ。


「じゃあ向かうとしよう。場所はここから馬車で1時間ほどらしい」

「意外と近いね」

「何しろ突然見つかったらしいからな。穴自体も魔法で最近作られたと思われているらしい」

 この準備期間、オレも飯ばかり食べていたわけでは無い。朝から晩までルナちゃんに密着取材して奪えるだけの情報を奪ったのだ。


 最後はこの目で『亡者の墓場』がどんな所か確かめるとしよう。手配しておいた馬車に乗り込み出発することにした。


*


 しばらく軽快に進んでいた馬車が、ぴたりと止まった。どうやら目的地に着いたらしい。


「……草原のど真ん中だな。墓場というからには、てっきり石碑ぐらいあるかと思ったが」

 馬車を降り立っての感想はそれであった。辺り一面草原で、地平線が見えるほどだ。


「フリード、あそこにテントがあるよ」

「人がいないか調べてみるか」

 テントに近づくが、人の気配はない。テントは3つほど並んでおり、その後ろには巨大な穴が開いていた。縦に真っ直ぐ深くなっている大穴は、暗くて底が見えないほどだ。


「どのくらいの深さか見当がつかないな。ローズたちもこの中に入っていったのか?」

「この穴、隕石でも落ちたのかな?」

「いや、王都の近郊でこんな穴をあけるほどの隕石が落ちたら地面が揺れるほどの衝撃のはずだ。やっぱり魔法だろうな」


「それで、どうするんだ? 私たちも入るか?」

「いや、まずはテントを覗いてみよう。……これがローズのテントだな。あいつは自分の持ち物に名前をちゃんと書くからな」

「まあ、やはり立派な方ですの!」

 名前の書いたテントに侵入し、手掛かりになりそうなものを探す。だが、中には寝袋と、植物の種が入ったバッグがあるだけだ。


「まったく、食べ物さえもないじゃないか」

「……あっても勝手に食べるのはまずいだろう」

 やはり信じられるのは自分の目だけだな。とっととメインイベントに参加するとしよう。

 テントを出ると、大穴の側に近寄る。ローズたちが使ったであろう縄梯子が大地の奥底まで垂れ下がっていた。


「うう、暗いよ……。ほんとに入るの?」

「『穴があったら入りたい』。これは有名な冒険家の言葉だ。我々も習うとしよう」

「ちょっと、フリードさんが先に降りるの!?」


「……何か問題があるか?」

「いや、僕らは良いけど、コートニーさんはスカートじゃん……」

 ……仕方ないな。デットを先にしてお嬢様を間に挟み、最後尾がオレになった。


*


 ずーっと深い穴を降り続ける。体感1時間以上は縄梯子につかまっているが、いまだに下にはつかないようだ。上を見ると、オレたちの入ってきた入り口は小さく光っているだけだ。


「フリード、やっと地面についたぞ!」

 下からデットの声が響いた。やれやれ、やっと到着か。


「も、もう、疲れた……!」

「はあ、はあ。……ちょっと休憩にしたいですの」

 準備してきたランタンに火をともすと、あたりをうっすらと照らし始めた。到着した場所は広場になっており、そこからはいくつかの横穴につながっているようだ。


「まるで蟻の気分だな。デット、たき火をつけよう」

「私、お茶の準備をしてきましたの。用意いたします」

 彼女はそう言うと、小さなバッグからポットといくつかのカップを取り出した。

 ……もしかして、それしか持ってきてないのか?


「水はあるが、お茶の葉は持ってきてないぞ」

「大丈夫ですの! 私の魔法『ぱやぱや葉っぱ』で用意しますの」

 彼女は両手を広げると、その手の平に植物が湧いて溢れた。『亡者の墓場』でエレガントなお茶会の開始だ。

 彼女の入れてくれた緑茶を口に含んでみる。


「……ほう、なかなか美味いな」

「ほんとだ、美味しい!」

 1時間も縄にぶら下がって疲れたせいか、つい一気飲みしてしまう。


「面白い魔法だな。この魔法は何か嬉しい成分でも入っているのか?」

「はい、利尿作用がありますの! 体の毒素を流してくれますのよ!」

「……え?」

 この女、とんでもないものを飲ませてくれたな。ローズに会う前にお花摘みの準備が必要になってしまった。


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