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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
雪の国フーリオール編
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第75話 新しい風

 オレたちはドワーフたちの洞窟を離れ、地上に出ていた。


「うおお、忘れかけていたが、やっぱり地上は寒いな!」

 地下は風が無くあまり気にならなかったが、地上に出ると冷たい風が打ち付ける。

 しかもオレの服は兵士の銃弾を受け穴だらけだ。素肌に風が直接当たる。


「まずは宿泊先に戻るぞ。こんな格好じゃ変態扱いされる」

 オレは急いで歩き出す。


*


「ふう、腹が減ったな。だがもうすぐ夕食だし、少し我慢するか……」

 オレは部屋の中で独り言を言いながら裸になる。脱いだ服を見ると、正面側は銃弾の穴、後ろ側はわずかに血が滲んでいた。


「そういえばフラウを庇った時『チクチクバンバン』を喰らったんだったな」

 背中に手を回すと、血は止まっているようだが少し痛みを感じる。


「御主人様!」

「うおっ、何だ急に……。ノックぐらいしてくれ」

「す、済みません……!」

 エミリアがオレの部屋に侵入してくる。最近はオレのプライベート侵害が著しいな。


「……やっぱり、怪我していますね」

 エミリアが背中を見て声をかける。服に血が滲んでいたので気付いていたのだろう。


「さあ、そこにうつ伏せになってください」

「……またする気か?」

 オレはベッドの上でうつ伏せになると、エミリアが馬乗りになってきた。


「ぐっ……!」

「ごめんなさい、重かったですか!?」

「いや、腰に体重が掛かって気持ち良い」

「じゃあ、折角だしマッサージもしますね! でもまずは怪我の方を……」

 オレの肩甲骨のあたりに、舌の感触がある。何のプレイだ、これは。

 治療が終わると、今度は両手で背中や腰の辺りをぐいぐいと押してきた。


 ああ、これは素晴らしいな。オレは夕食のことも忘れ、あまりの気持ちよさについウトウトとしてしまった。


*


 ドワーフの本拠地でいざこざがあってから数日後。

 毒ガスにやられた者たちは無事に回復したようで、今では採掘ギルドも元通りに活動を始めている。

 ……いや、いくつか変化もあったようだ。


 オレは街の外にある畑の様子を、白い城門の上から眺める。視線の先には、若い人間とドワーフたちが混じり合って、雪を掻き分けながらあれこれと土をいじっている。


「小僧、ここにいたか」

「……ロウウェンか。ドワーフたちも農業の勉強を始めたみたいだな。ここからだと何をしているかまではわからんが、努力していることはわかる」

「意外と農業もドワーフに合っているかもしれねえな。土をいじるのは採掘と通じる部分もあるし、ツルハシとクワは形も似てるしな」

 ……通商ギルドと思考回路は一緒らしい。


「そんなことより、少し話をしたい。シビルたちも待っている」

「わかった、向かうとしよう」

 オレはロウウェンと共に、城壁を降りて通商ギルドの部屋へと向かった。


「フリードさん!」

「おっと、これはオールスター勢揃いって感じだな」

 部屋に入ると、通商ギルド、軍事ギルドの面子も揃っていた。シビルは相変わらず真面目そうな顔で座っており、かたやエルヴァンは不貞腐れたように座っている。フラウもシビルの横に座っていた。

 ロウウェンが席につくと、とりあえずオレも空いている席につく。


「フリード殿、別に難しい話ではない。復興も無事に済みひと段落着いたので、改めてお礼をしたいと思った次第だ」

「ドワーフと和解できたのだから、元々の金属を生み出すという仕事は中途半端になってしまったがな」

「小僧、いちいちつまらん謙遜するんじゃねぇ! シビルがこうやってお礼を言っているんだから素直に受け取っておけ! ……まあ、オレも感謝してないわけじゃないがな」

 ロウウェンはオレの肩をバシバシと叩いてくる。もう少し手加減して叩いてほしい。


「……で、そちらの軍人は何のために座っているのか? 賑やかしか?」

「てめえ、けんか売ってんのか?」

「済まない、こいつは頭が悪いんだ。代わって私からお礼と謝罪をしよう」

 シビルは頭を下げる。エルヴァンはケッ、と息を吐くと顔を反らした。


*


 オールスターとの会合は、数十分ほどで終わった。話の中身は大体はお礼と、今後のドワーフたちや人間の在り方をやんわりと聞いたぐらいだ。

 大分足を踏み込んでしまったが、所詮は他国の人間だ、あとのことは任せるとしよう。


 会合の後、ロウウェンとエルヴァンたちは部屋を出ていったが、オレはフラウとシビルに用事があったのでその場に残る。


「……予想以上にここに長居してしまった。そろそろハレミアに戻りたいのだが、馬車の手配をお願いできないか?」

「わかった、私が手配しよう。聞けば、来るときにペチカ付きの馬車がとても気に入ったとか。最高の馬車を準備しよう」

 それは素晴らしい申し出だな。あれは正直ウチにも1台欲しいぐらいだ。


「馬車は丸一日あれば準備できるはずだ」

「分かった、ありがとう。帰る準備をしておくことにする。帰りはフラウはどうする?」

「うーん、僕はここに残るよ。いろいろと助けてくれてありがとう」

「そうか、では今日はこの辺で退散しよう」

 2人を尻目に、オレもその場を後にすることにした。


*


 会合の後、シビルとフラウの姉妹だけがぽつんと部屋に残された。

 シビルは会合の時のような厳しい表情ではなく、優しい表情でフラウに話しかける。


「フラウ、ハレミアの者たちはどうだった?」

「とてもいい人たちだったよ。優しくて、パワフルで、仲が良くて……。まるで家族みたいだった」

「そうか。……済まないな、お前の家族は私だけで」

「そんなことないよ! お姉ちゃんがいるだけで十分だよ! それに、ロウウェンおじさんやアマンダおばさんもいるしね」

 シビルは少し悲しそうな顔をするが、妹に励まされる。


「でも、欲を言えばもう少し一緒にいたかったかな? 楽しすぎて、時間が過ぎ去るのが早かったから」

「……フラウ、私たちはこれから農業に力を入れていくつもりだが、他の国に比べればまだ赤子同然だ」

「……? う、うん」

 シビルは突然仕事の話を始める。フラウは意図が分からず困惑するが、素直に頷く。


「そのため農業を学ぶ目的で、同盟国に留学生を送る計画がある。基本は農業先進国であるビストリアに送る予定だが、今回のことで、もっとハレミアでも学べることがあるのではないかと考えている」

「えっ! そ、それってつまり……?」


「フラウ、ハレミアに行ってみないか? 私たちとしばらく離れることになるが、それでも良ければ……」

「行く行くっ! ありがとう、お姉ちゃん! ……大好きっ!」

 話の途中でフラウが抱き着いた。シビルは一瞬呆気にとられるが、仕方ない子だ、と頭を撫でる。


「……帰る前にフリード殿に相談しよう。しばらく妹を預かってくれないか、ちょっと現金な子だけど、とね」

「もう、お姉ちゃん、ひどいよ!」

 2人だけの部屋に、小さな笑い声が響いた。


*


 出発の日の朝、オレはペチカ付きの馬車の中で、窓の外を覗きながら待機していた。


「ああ、やはりこの馬車は暖かいな。毛皮とか眼鏡とか買ったが、それよりもこの馬車を買うべきだったか?」

「御主人様、この馬車は買うと700万ベルするそうですよ」


「まあ、お得ね! ちょっと今月は厳しいけど、思い切って買っちゃおうかしら?」

「買いません! それに何ですか、その気持ち悪い口調は!」

 特売に釣られる主婦の振りをしてみたが、ダメだった。商人の振りはドワーフたちに通用したのに、やはりこのメイドは優秀だ。だからこそ、安心して家計を任せられるというものだ。


「フリード殿」

 馬車の外から声をかけられる。シビルとフラウが見送りに来たようだ。

 他国のギルドの長だ、直接会うのが礼儀だろう。オレは一旦馬車を降りる。


「言葉通り最高の馬車を準備してくれてありがとう。今日はわざわざ見送りか?」

「それもあるが、またお願いしたいことができた。少しだけ話をしても構わないか?」

「……? オレにできることであれば聞くが」

「実は……」

 シビルは、オレにフラウの留学の件を話した。約2週間後、ハレミアに来る予定らしい。


「わかった、責任を持って預かろう」

「本当!? ありがとう、フリードさん! たくさん工作機械も持っていくね!」

 ……まさか工房ごと来るつもりか? そんな広さ、うちのギルドで準備できるか?

 まあ、男に二言は無いので、何とか考えるとしよう。


「準備して待つとしよう。2週間後、また会おう」

「うん!」

 シビルに別れの挨拶をすると、馬車に再び乗り込んだ。馬車が動き出すと、窓越しに姉妹が手を振っている。


「御主人様、何の話でしたか?」

「……また家族が増えそうだ」

「え?」

 困惑するメイドをよそに、オレは外を眺める。白い街並みを通り、城壁を抜けると、また前方には雪ばかりの景色が広がっていた。


 来た時と同じ景色にしか見えないが、そこには間違いなく新しい風が吹いている。……気がする。


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