第73話 フルメタルフリード
Ⅰを待たずして登場した『フラウランチャーMKⅡ』がついに火を噴きそうだ。
「見せて貰おうか、『フラウランチャーMKⅡ』とやらの力を!」
「……貴様はどっちの味方なんだ?」
オレに代わって前に出たフラウが、大砲のような銃口をエルヴァンに向ける。
銃の形状を見るに玉は一発だろう。失敗したときにいつでも助けられるように『錬金術』の準備をしておく。
「銃じゃ魔法に勝てねえな! 喰らえ!」
「それはどうかな? ……発射!」
発射された巨大な玉と、エルヴァンの放った『チクチクバンバン』が空中でぶつかり合う。だが、巨大な玉はぶつかったと思った瞬間、中から網が飛び出した。網目の広いそれはエルヴァンの魔法をすり抜け、直接人を襲う。
「何っ!? ……くそ、ネット弾か!」
「へへーん、これで身動き取れないでしょ!」
エルヴァンとその周囲の軍人はネットに絡めとられ、逃げ出そうともがく。だが、動けば動くほど網は絡まっていく。金属のワイヤー製らしく、刃も通さないようだ。
「フラウ、危ない!」
「え? ……うわぁ、さっきの『チクチクバンバン』が僕の服に!」
広い網目で魔法を避けたのだから当然だ。だがこんなに至近距離だとまずいな。
「ネット弾のお返しだ、吹き飛べ!」
エルヴァンが魔法を爆発させる。
「……いてて、危ない所だったな」
「フリードさん!」
オレはフラウの服ごと魔法を引きはがし、鉄でそれを覆い緊急回避する。完全に発射されたトゲを防ぎきることはできず、フラウの間に体を入れて魔法を遮った。勢いが殺されたとはいえ背中に傷を負ってしまった。
「怪我はないか?」
「うん、大丈夫だけど、ちょっとこの体勢は……」
「おい、貴様! いつまでフラウの上に乗っているつもりだ!?」
ロウウェンの怒声が浴びせられる。よくオレの姿を見ると、服を破ったフラウに覆いかぶさるような姿勢だ。
「おっと、悪いな。緊急事態だったから」
オレは飛び退くと、網に絡まった男の方に向き直る。
男は網の中からこちらを睨みつける。他の兵士も、こちらにまだ銃を向けていたり、網を外そうとしたりと統制が取れていない。
「さて、その恰好ならもうオレの魔法を避けようがないな。素直に降参したらどうだ?」
「くそっ!」
できれば諦めて欲しい所だ。強い魔法使いは殺す以外に止めるのが難しいからな。流石に他国の軍人を殺すとまずいだろう。
「……? 赤い霧?」
「!? この魔法は……!」
上の階層の方から、赤い霧のようなものが流れてきた。すると、兵士たちが突然バタバタと倒れ始めた。
「この毒ガス! あの女、オレたちを騙しやがったなぁぁぁ!?」
エルヴァンが激高する。この赤い霧は毒ガスだと?
「フリード殿、まずい!」
「分かっている、軍人たちの救助を!」
*
フリードたちの会合場所から一つ上の階層。
本来であればここはドワーフたちの居住区であり活気があるはずだが、今は静かだ。
赤い霧が充満し、地面にはドワーフたちが倒れている。
「ふふ、私の『死への誘い風』は洞窟だと逃げられないわね。地下にいるギルドの長たちの所にも届いたかしら?」
赤い霧の中でも平然と立っている女がいた。女はナイフで腕に傷を入れると、そこからは血ではなく、あたりに充満しているものと同じ赤い霧となって広がっていく。
「……レグリンド、早く"竜の双翼"の場所を教えろ。空気の悪い所にいつまでも居られん」
「私の血を飲んだから耐性があるはずさ」
「時間がないと何度言わせるつもりだ」
「わかった、わかった。……こっちにあるドワーフの宝物庫に目的のものがあるはずさ」
レグリンドはユリアンを連れ、洞窟の隅の方へ歩いていく。そこには大きな錠前のついた扉があった。
「ここが宝物庫さね」
「……鍵はどこだ?」
「ドワーフの長が持っているだろうさ。部屋を探しておいで」
「……ふん」
ユリアンは無言で、洞窟内の各部屋を探し始めた。
「まったく、愛想のない男。……さて、私は下階層の様子でも見てくるかねえ」
レグリンドは宝物庫を離れ、下の階層への階段に向かって歩き始めた。
*
「御主人様、ひとまず応急処置はしましたが、ここだと治療が難しいです……」
「そうか、何とかして脱出しないとな」
オレたちは完全に下の階に閉じ込められてしまっていた。とりあえず鉄の壁で上への階段を密閉し毒ガスを防いでいるが、ここでは毒ガス治療も食事もできない。
一応倒れた兵士たちは横に寝かせて安静にさせているが、エミリアの魔法でも毒ガスの治療は難しい。
「くそ、あの女め! 最初からオレたちをまとめて殺すつもりだったか!」
「……エルヴァン、女とは誰のことだ?」
1人で激高するエルヴァンをシビルが尋問している。あいつも多少なり毒ガスを吸ったはずだが、割と元気だな。
「最近現れた毒ガスの魔法を持つ女だ。素性は知らねえが、優秀で美人だったからよ。……ここでの会合の情報を漏らしたのもあの女だ」
「呆れたな、そんな女を信用するとは」
「……うるせえ、くたばりぞこないが」
エルヴァンはロウウェンにも噛み付いている。見境なしだな、全く。
「しかし、何が目的なんでしょうか? 突然ギルドマスターたちがいなくなれば間違いなく混乱がおきますが」
「素性も知らないのなら、他国の人間かもな。国を荒らすのが目的なら無茶苦茶もできる」
わざわざ大国を混乱させても得られるものは少なそうだが、判断するには今は情報が足りない。
「そんなことよりも、ここから脱出するのが先決ですわ! 何かいい手はありませんの!?」
「魔法の解決策はいつも一つだ。魔法使い自身を叩く。……創造型以外の場合だがな」
オレの生み出す鉄みたいな創造型の魔法は、魔法使い自身が死んでも残ってしまう。そうなると面倒くさいな。
「魔法使いを叩くにしても、ここから出る必要がありますわ!」
「安心しろ、オレが出る」
オレは生み出した金で自分の全身を覆う。鎧というよりは全身タイツの様に、隙間なく体を覆う。ガスに触れなければ何とかなるはずなので、この金を操りながら移動する作戦だ。
「どうだ、この姿は? 名付けて、錬金術奥義・フルメタルフリードだ」
「お兄様、ちょっとダサいです……!」
……見た目がダサいのはこの際仕方ない。オレは変装用の眼鏡をかけると、レンズだけを残して頭も全て覆う。これで視界も確保できるな。
「よし、これで万全だ。上の階に向かうとしよう」
「え? 御主人様、良く聞こえません!」
……密閉したせいで声がうまく通っていないようだ。
「フリード殿、この『耳打石』を持って行ってくれ。私たちとこれで会話しよう」
シビルが2つ石ころを生み出し、投げ渡してきた。とりあえず口と耳の位置にセットして、金で固定する。
「よし、これで上の階に……!? 何だ、急に息苦しく……!」
「御主人様、呼吸用の空気穴が必要です!」
しまった、大誤算だ。空気が無ければ戦えないではないか。
「これを使え。洞窟内は空気が悪いから、このチューブで地上から空気を供給している」
ロウウェンが巻かれたチューブの端を投げてきた。かなり長さには余裕がありそうなゴムチューブだ。
これがあれば何とか空気は確保できるか。お尻のあたりにチューブの端を差し込み、また金で固定する。
「なぜお尻に?」
「よし、これで今度こそ準備万端だな。……出撃だ!」
オレは密閉した鉄の壁をすり抜けるように通ると、上の階層へ向かった。




