第70話 ゴミ掃除
フラウと別れたオレたちは、夕食の為に街を歩き回っていた。
この街は海鮮料理も有名との事で、それをメインにした店に入っていくと、7人で大きな丸いテーブルを囲む。
……ん? 7人?
「極寒の荒波で揉まれた魚介類はぷるるのるん♪と身が締まってて絶品、とメニューに書いてあります! 楽しみですね、御主人様!」
「ぷるるのるん♪は結構だが、この中に招かざる客がいるようだな」
オレは、テーブルの反対側に座るうさ耳少女を見る。
「べっ別にいいだろ、食事を一緒にしたって!」
「そうです、お兄様! うさぎさんを虐めるのは良くないです」
「よく見ろステラ。うさぎ成分は耳だけで9割は人間だ」
「そこは争点ではありませんわ。別に食事を一緒にしてもいいのではなくて?」
ルイーズが話に加わる。2対1は不利と見たオレは、シェレミーにある条件を付けることにした。
「別に食事を一緒にするのは構わないが、少しぐらいはオレたちに協力してくれるんだろうな?」
「……内容による。私は第一ギルド所属だからな」
「お前の魔法は恐らく探知系で、遠くの音を拾えるんだろう? フラウの『耳打石』の会話を聞いていたはずだ、それを教えてくれ」
「……!? なぜ、私の魔法をっ!?」
「ひそひそ話をしているときに耳を動かしていれば誰でもわかる」
シェレミーは少し考えるそぶりを見せるが、オレの頼みを聞くことにしたようだ。
「言っておくが、大した話ではなかった。妹を心配する言葉と、会議が終わった報告だけだ」
「それで十分だ。この国で完全アウェイのオレたちは、誰を信用すればいいかわからないからな。必要なのは情報だ、次に会話するときもしっかり盗み聞きしてくれ」
フラウの姉は妹を大事にしている、うさ耳少女の魔法は間違いなく音を拾う探知系。この一連の会話でも2つの情報が得られた、十分な成果だ。
「お、食事が来たぞ。つまらん話はやめて、共犯同士仲良く食事にしよう」
運ばれてきた海鮮料理の数々に、早速手を付けることにした。
*
翌朝。天気も良く、朝日が窓から差し込む。
カーテンを全開にし、窓からの清々しい朝日の光を体に浴びるが、この北国ではオレの体を暖めるまではいかないようだ。
「おはようございます、御主人様……って何で裸なんですか!」
「オレの寝泊まりする部屋だから別におかしくないだろう」
エミリアは勝手にオレの部屋に入ってきながら、変態扱いしてくる。まったく心外だ。
「こんなに寒いのに、裸なんて……」
「服を着て日光浴したら顔だけ焼けてしまうだろうが。オレは常にバランスを意識して生きているからな」
「だからといって、堂々とし過ぎです!」
「オレは露出狂ではないからな。裸を見られて興奮などしない」
しかしながら、人がいるのに裸のままでいるほど常識知らずではない。仕方なく服を着始めるが、そんなオレの背中には熱い視線を感じる。
「よし、準備完了だ」
服を着ると、フラウが来るのを待つことにした。
*
「おはよう、フリードさん。昨日はどうだった?」
「夜もしっかり食べたし、睡眠もばっちりだ。早速仕事にとりかかろうか」
「わかった。たっぷり魔法を使えるように、お姉ちゃんが広い場所を用意してくれてる」
フラウに連れられ、街を歩いていく。町の中心から少し離れたところに案内されると、広場には違いないが、大きな廃棄物がたくさん捨てられていてゴミ処理場のようだ。
「ここにあるのは全部金属ゴミだよ。使わなくなった工作機械や、折れた剣やその他の武器とか」
「つまり0から金属を生み出すのではなく、ここにあるやつをきれいにすればいいという事か?」
「うん……。お姉ちゃんは、その方がゴミも減って一石二鳥だって。確かに合理的だけど、やっぱり失礼だよね」
「いや、オレにとっても好都合だ。あんまり他国の為に魔法を使うと、あそこにいるうさ耳少女が小姑の様に国に告げ口するからな。金属を操るだけなら資源が増えるわけでもないし言い訳が立つ」
「うん、ありがとう」
噂の小姑は耳を動かしながらこちらを睨みつける。聞こえているな、あれは。
「では早速仕事に取り掛かるとしよう。皆広場から離れてくれ」
他の者が退避したことを視認すると、広場の中心で金属を生み出し始める。生み出した金属はまるで自分を中心とした津波の様に、周囲のゴミへと波及し、覆っていく。ゴミとゴミの隙間にも水が染み込むように金属を広げる。
ゴミ広場を一旦隙間なくオレの金属で埋めたあと、こんどはそれを全て回収していく。オレの体に戻っていく波は、ゴミの中から金属だけを引き潮の様に攫っていき、あとには金属以外のゴミと、錆だけが残った。
「これぞ錬金術奥義・呼び水だ」
「お兄様、凄いです!」
「金属が一瞬でなくなっちゃいました!」
「まあ待て、今度は回収した金属をもりもりと出すぞ」
体から回収した金属を、ブロック状にして並べていく。
「金属のレンガがたくさんです!」
「これはレンガではなくインゴットと言うんだ。こうしておけば使いやすい」
「凄いよ、フリードさん! こんなことまで出来るなんて……!」
アルミニウムと鉄が多かったが、金、銀、銅など他の金属もあったようで、それらも小さなインゴットにして並べていく。
「金属って、こんなに種類があるんですね……」
「ニッケルや亜鉛、タングステン等も使ってたみたいだな。オレでは生み出せない金属だが、操ることはできる」
「ちなみに、生み出せるのは何があるんですか?」
「折角だし教えてやろう。金、銀、銅、鉄、アルミの5種類は創造できる。他のは体に貯めておくこともできるが、貯めている分しか使えない」
昔は鉄を少し生み出すのがやっとだったが、天才故にここまで成長した。
話しながらも作業を続け、先ほど回収した金属全てをインゴット化し終える。
「さすがだ、フリード殿。途中から見ていたが、素晴らしい魔法だ」
「あ、お姉ちゃん!」
フラウの姉、シビルが両手で大きく拍手しながらゆっくりと近寄ってきた。黒幕みたいな登場は止めろ。
「喜んでもらえて何よりだ。錆びやすいものもあるから保管に気を付けた方がいい」
「ああ、ありがとう。フリード殿のおかげで、この広場だけでも大量の資源が確保できた」
シビルは部下らしき者たちを呼ぶと、回収を命じる。
「今日の所はこれだけか?」
「ああ、こんなに早く済むとは思っていなかった。しばらく仕事はないから、ゆっくり観光してほしい。……それと、採掘ギルドとの会合の件。明後日の昼、彼らの本拠地で行うことに決まった」
「明後日か……。しばらくはぶらぶらと過ごすか。一応は仕事をしに来たわけだし、何か困ったことがあったらいつでも呼んでくれ」
「わかった、感謝する」
シビルは懐から時計を出すと時間を確認し、オレたちに一礼すると足早に去っていった。
「相変わらず忙しそうですね」
「彼女はギルドマスターだからな、食事をゆっくり楽しむ暇もなさそうだ」
「御主人様もギルドマスターではありませんでしたっけ?」
「フリードさん、今からどうするの? 行きたいところがあれば、今日も僕が案内するよ!」
「昨日の夜、オレも本を読みながらいくつか観光地をピックアップしておいた。毛皮博物館、氷結湖で釣り、ケーキフォレスト、ウエポンホール。これらを明後日までに楽しむつもりだ」
「毛皮博物館……面白そう!」
「釣りよりも私は狩りの方がしたいが」
オレの上げた観光地の数々に、他のメンバーもテンションが上がっているようだ。
「何を目的に来たかわかりませんね……」
「まあそう言うな。他国を楽しめるなどめったにない機会だ、骨の髄までしゃぶりつくす勢いで楽しもうではないか」
「僕はどこにでも付き合うよ! 折角だし、この国のことを好きになって欲しいからね!」
フラウも覚悟を決め、オレと運命を共にするようだ。
「ここからだと、毛皮博物館が一番近いね」
「よし、今日はそこを攻略だ」
オレたちは意気揚々と歩き出した。




