第6話 ギルドの名前は
「ふぅ。こんな感じか?」
「いい感じです。……申し訳ありません、助けていただいた上に、復興まで手伝っていただいて」
「構わないさ。何でもこなせてこその天才だ」
オレは、村人たちと共に柵を修復する手伝いをしていた。ゴブリンを追い払ったとはいえ、柵がボロボロの状態で夜を過ごすわけにはいかないだろう。
木製の柵を村人たちが支え、そこにオレが鉄で覆っていく。鉄は液体のように形を変えて広がり柵をコーティングしていくが、手を離すと元の鉄の性質を取り戻しガチッと固まる。鉄製の頑丈な柵の完成だ。
これぞ錬金術奥義・鉄めっきだ。
「……これであらかた終わったな。純鉄だから錆びやすいが、強度は木よりマシのはずだ」
「本当にありがとうございます」
オレは一息つく。周囲を見渡すと、当たりはすっかり真っ暗になっていた。
*
「どうだ、そっちは?」
村の中心に戻ったオレは、教会を覗き、中のエミリアに声をかける。
「あっ御主人様。怪我人の治療はあらかた終わりました。ハンス様もそろそろ戻られるかと」
オレが柵の修理をしている間、エミリアは治療の、ハンスはゴブリンの死体や血の処分を手伝っていた。
村人たちは教会前に集まり、夕食の準備をしているようだ。焚火に鍋を仕掛け、周りを囲んでいる。その様子を見ると、体に包帯を巻いている者が多く、まだ泣いている者たちもいる。
「怪我人は多かったみたいですが、奇跡的に死者はいなかったみたいです」
「そうか。……肌寒くなってきた、オレたちも火に当たろう」
オレたちは焚火の近くに移動する。
ちょうど自分の仕事を終えたであろうハンスも戻ってきたので、なんとなく固まって焚火前に腰掛ける。
「フリード殿、すまなかった。力を疑って偉そうな態度をとってしまって」
ハンスが口を開く。どうやら出発前のことを謝りたいようだ。
「別にいいさ。実力とは語るものではなく、示すものなのだからな」
特に気にしていないので格好いいことを言って切り上げようとしたが、ハンスはこちらに体を向け姿勢を正し、ガバッと頭を下げる。
「それではこちらの気が済まない。本当に済まなかった!」
「お、おい、別にそこまで……」
「この村には私の実家がある。……年老いた両親も無事だった。本当に感謝している」
「そうか、家族か……。それはよかったな」
「王都に帰ったら、ぜひお礼をさせてくれ」
「報酬はギルド管理局からたっぷり貰うさ」
「しかし……いや、わかった。もし今後力になれそうなことがあったら言ってくれ。衛兵隊長だから、軍には顔が利く」
「……また力を貸してくれ、の間違いじゃないのか?」
「フッ、生意気な。だが、そうかもしれないな」
オレが皮肉を言うと、ハンスはニヤリと笑いを返す。
それにしても、親か……。魔道学園に入るために実家を飛び出してから、一度も帰っていないな。飛び出したのが7歳だから、もう15年近くも帰っていないことになる。母や妹はどうしているだろうか。
感傷に浸っていると、立派な髭の老人が近づいてくる。どうやら村長らしい。
「フリード殿、村を救っていただき、本当にありがとうございました。大したお礼はできませんが、料理と酒を準備いたしました。どうか、くつろいでいただきたい」
手で示された方向には、皿と酒樽が用意されていた。大皿には野菜と米を鉄鍋で炊き上げたものが盛られており、おこげの匂いが食欲をそそる。
「おお、酒! やはり仕事終わりには、酒だよな!」
オレの思考は一瞬で目前の酒に奪われる。
「好きなだけ飲み食いしてくだされ。……ところでフリード殿、聞けばギルドマスターだとか。若いのに立派だ。差し支えなければ、ギルド名を教えていただけませんか」
「あっ、そういえば私も聞かされていませんでした」
……しまった、考えていなかった。
本来はギルド申請時に決めておかなければならないが、もうちょっと、もうちょっとだけ考えさせてとアルトちゃんに頭を下げて引き延ばしていたことを思い出す。
オレは、腕組みをして最強ギルドにふさわしい名前を考える。
今後、優秀なメンバーを集め、世界最高になる(予定の)ギルドだ、それにふさわしい名は……。
「決めたぞ。ギルド名は、『ミスリルの坩堝』だ!」
「なるほど、『ミスリルの坩堝』……。伝説の金属であるミスリルの名前を冠することで、
今後伝説になるギルドを作り上げるという意気込みを表しているんですね! 更に坩堝は、錬金術によく使われる器具でありながら、色々なものを受け入れるものという意味もあります! 各地から優秀な人々を集めるというダブルミーニングなんですね! 流石です、御主人様!」
「おっ、おう、そうだな……」
エミリアは、オレが想像していた以上のことを説明口調でまくし立てる。適当に考えたとは言いにくい。
……というか、そんな性格だったか?
「『ミスリルの坩堝』……。素晴らしい名前ですな。村を救った英雄のギルドとして、皆の心と石碑に刻みましょう」
「いや、恥ずかしいからやめてくれ……」
「では、伝説のギルドの誕生と、村の平和を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
村長の号令に合わせ、村人たちは酒の入った陶器を天に突き上げる。
「御主人様。『ミスリルの坩堝』ギルドの一員として、私も自分でやれることを頑張りますね。これからも、よろしくお願いします」
エミリアはそう言うと、オレの器に自分の器をキンッと当てる。
「ああ、これからも頼む。」
二人並んで腰を下ろすと、歓喜の声を上げ騒ぐ村人の声をBGMにしながら酒に口をつける。
……まだまだ始まったばかりだが、最強ギルドの滑り出しとしては悪くないな。
オレはギルドの今後に輝かしい未来が待っていることを確信しながら、目の前の食事にありつくのだった。