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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
冬休み編
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第64話 大人の時間

「ご、御主人様、お酒をお注ぎしますね……」

「ああ……」

 エミリアが、小さなグラスに酒を注ぐ。少し動くだけでエミリアの肌が俺に触れ、緊張感が体を駆け巡る。


 なぜ、こんなことになってしまったのか。

 オレは、エミリアと一緒に温泉に浸かっていた。


*


 約1時間前。


「くっくっく、今日は酒を飲みながら温泉を楽しむとするか」

 オレは夕食の後、1人で酒を買いに来ていた。小さな器と酒をいれた木製の桶を湯船に浮かべ、風呂に浸かりながらお酒を飲む楽しみ方があるのだとか。今夜はそれを楽しむつもりだ。

 温泉で血行を良くしながら体中に酔いを巡らせる凶悪な飲酒。これを考えた奴は相当な極悪人だろうな。


 店に入ると一番いい酒を購入する。リュウゼツランという植物から作られた度数の高いお酒らしい。

 酒を買うと急いで宿に戻る。自分たちの宿泊部屋に駆け込むと、ロゼリカがベッドの縁に腰掛け休憩していた。


「お帰りなさい、フリード」

「ああ、今帰ったぞ。そしてそのまま温泉に入らせてもらう」

「あ、ちょっと!」

「用事があるなら風呂上りに聞く」


 ロゼリカに呼び止められたが、今はまず酒だ。冬にしか味わえないガンガンに冷えた酒がぬるくなる前に温泉に入ることにする。

 脱衣所に入った瞬間、錬金術奥義・3秒脱衣で全裸になる。あらかじめ用意しておいた木桶と小さなグラス、手拭いを持ちいざ温泉へ突撃だ。


「きゃあ、御主人様っ!?」

「うおおぉ、エミリア!? わ、悪い!」

 温泉には何故かエミリアがいた。湯船の傍で体を洗っていたようで、体中に泡がついている。髪の毛を頭の上にまとめタオルで固定している姿は、普段と雰囲気が違いドキッとしてしまう。


「ごめんなさい、遅くなるかもと思って先に入ってしまいました」

「いや、オレも確認しなくて悪かった」

 お互い全裸のまま謝ると、オレは一旦温泉を出ようとする。だが、エミリアに呼び止められる。

 エミリアはオレの体をまじまじと見ている。


「御主人様、胸を怪我しています!」

「ああ、盗賊にナイフを突き立てられたからな。服の内側だし血が垂れないようにしてたから目立たなかったかもしれないが」

「……今すぐに治療しますね」

「え?」

 エミリアは泡だらけの格好のまま、こちらへ近づいてくる。まずいぞ、こっちは全裸だ。じりじりと近づくエミリアの圧力に押されこちらも後ずさりするが、温泉の壁に背中が当たり、逃げ場を失う。


「大丈夫です、すぐに終わりますから」

「ちょっと待て、まだ心の準備が……」

 エミリアはオレの体に腕を回す。少し頭を下げると、オレの胸に刻まれた傷跡に舌を這わし始めた。

 舌の感触がオレの背筋をゾクゾクとさせる。


「ぐおおおぉぉっ!」

 耐えろ、耐えきれ、理性を失うんじゃない。オレは天才だ、自分を制御しろ。

 永遠にも感じる時間が終わり、舌の動きが止まった。


「はい、これできれいになりました」

 エミリアはオレの胸から顔を離すと、にっこりとほほ笑む。


「……それは結構だが、解放してほしい」

「え……? き、きゃあぁっ!?」

 エミリアは一瞬ぽかんとした顔をした後、オレの傍から飛びのいた。

 きゃあぁっと叫びたいのはこちらの方なのだが。おっぱい舐められたし。


「治療が終わったのなら、一旦出るぞ。……風呂を上がったら教えてくれ」

「御主人様、ごめんなさい! ……その、泡をつけてしまったので洗い流した方がいいです。お詫びにお背中、流しますね」

「え?」

 まだこの羞恥プレイを続ける気か? この女、天使の様に貞淑なメイドと見せかけて、実はサキュバスなのでは?

 よく考えれば普段の甲斐甲斐しいメイドの仕事も、オレを堕落させようとする作戦なのかもしれない。


「さあ、こちらへどうぞ」

 考え事をしていると、小さな椅子が湯船の傍に準備され、その近くでエミリアが待機している。

 これはもう完全に言う事を聞くまで動かないスタイルだ。諦めて椅子に座り、エミリアに背を向ける。


「失礼します」

 後ろをできるだけ見ないようにするが、背中にタオルと泡の感触が広がり、時々柔らかい手が触れる。


「御主人様の体、結構筋肉がすごいですね」

「頭が良くても、自分の考えを実行できる体が無いと無意味だからな」

「……私も少し鍛えた方がいいでしょうか。今日もロゼリカちゃんが御主人様を助けた時、私は何もできませんでしたし」

 どうやらエミリアはエミリアなりに悩んでいるらしい。まあ、目の前で仲間が戦っているときに何もできないのは歯がゆい思いかもしれないな。

 返事に困っていると、洗い終わったようで体にお湯がかけられる。


「じゃあ湯船に浸かりましょうか。持ってきているのはお酒ですよね? お注ぎしますよ」

「え?」

 いつの間にかオレは湯船まで一緒に入る羽目になってしまった。


*


「ふう……」

 湯船に入って数分後、エミリアも体を洗い終わり隣に入ってくる。

 今は並んで温泉に浸かり、2人でゆっくりしているところだ。エミリアの注いでくれた酒を少しずつ口に運ぶ。

 いつもより熱く感じるのは酔いのせいだろうか。


 それにしても、今日のエミリアは異常だ。

 オレはギルドマスターとして、仲間には対等に接したいと考えている。だが、裸で迫られていて、こちらから何も行動しないのはいかがなものか。

 拒否するにしても受け入れるにしても、あいまいな態度は失礼だ。

 1人の男としてはっきりと意思を伝えるべきか?


 酔った頭で思考していると、エミリアが話しかけてくる。


「御主人様、お代わりはどうですか?」

「ああ、ありがとう。……今日はやけに積極的だな」

「私も少しは力になりたくて……」

「気にしなくてもちゃんと助けられている。怪我だっていつもきれいに治してくれるしな」

「……そうですか」

 助けられているのは本心なのだが、エミリアは浮かない顔だ。


「家事は完璧、怪我も治せる、おまけに美女。オレはエミリアが側にいてくれて本当に感謝してる。オレの言葉が信じられないか?」

「ご、御主人様……! いえ、その、私は……。はい、ありがとうございます」

 褒めちぎると恥ずかしそうに下を向く。


 やれやれ、エミリアがギルドメンバーとして俺のことを考えて行動していたのに、オレは変なことを考えていたようだ。

 危うく勘違い男になるところだった。危ない危ない。

 もう少し、ギルドマスターとしての威厳と落ち着きが必要だな。


「では、先に上がりますね」

「ああ」

 しばらく湯船に浸かった後、エミリアが先に風呂を出る。

 オレはもう少しゆっくり酒を楽しむと、のぼせきる前に風呂を上がることにした。


*


「ちょっと、フリード」

「……どうした?」

 風呂を上がり、髪を乾かしているとロゼリカがこそこそと耳打ちをする。


「さっき、2人で長く温泉にいたみたいだけど、変なことしてないよね?」

「安心しろ、オレは紳士だ。肉体を理性で制御している。ちょっと胸を舐められただけだ」

「な……!? 貴様、我が眷属でありながら浴場で欲情するなど、恥を知るがいいっ!」

 いつ眷属にされたかは不明だが、顔を真っ赤にしたロゼリカに怒られる。よくじょうだけにね、なんて言える雰囲気ではない。


 どうやら勘違いしているようなので、上着を少しずらし、怪我の治った胸をみせる。


「きゃあっ!? おい、乳首を見せるな! 我の目が腐る!」

「……怪我が治った所を見せているだけだ。エミリアに治療してもらったからな」

 せっかくのサービスシーンも子供には通用しない。オレは上着を戻すと、ロゼリカを残し自分のベッドに向かうことにする。


「ふう、だいぶ酔ってしまったな。もうオレは寝るぞ」

「はい、お休みなさいませ」

 肉体的にも精神的にも、今日はだいぶ疲れた気がするな。ベッドに飛び込むと、瞬く間に眠りに落ちてしまった。


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