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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
冬休み編
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第63話 フリード、ちょっとだけ挿入される

 オレたちは不快な『フコイ団』を殲滅するために、火山のふもとに来ていた。


「大分地面が荒れてきましたね」

「も、もう既に疲れちゃった……」

 街を抜け、完全に山道に入ったようで、じめんはゴツゴツとして歩きにくくなってきた。

 そのまましばらく歩くと、人の気配がした。岩陰に隠れると、遠くに男たちが見えた。


「あれが『フコイ団』でしょうか? ……結構人数がいますね」

「無意味に群れる奴は魔法に自信がない奴らだけだ、どうせ大したことはない」

 男たちは洞窟を根城にしているようだ。火山に空いた横穴のような場所の前でたむろしている。

 そして、その場所には見覚えがある。オレが幼少のころ、修行の時に寝泊まりしていた場所に違いない。

 つまり、その奥には……。


「よし、作戦を伝えるぞ。オレが突撃するのでカバーを頼む。以上だ」

「雑!」

「シンプルと雑を履き違えては困るな。天才故にたどり着いた答えを信じろ」

 オレが物陰から飛び出し、男たちのいる方向へ向かう。

 エミリアとロゼリカも慌てて後ろについてきた。


「だ、誰だ!」

 男の一人がこちらに気付き、周囲の奴らもこちらを見る。

 オレは『錬金術』で、おなじみの鎖攻撃を周囲に放つ。じゃらじゃらと音をたて拡散する鎖は、瞬く間に男たちを吹き飛ばした。


「ぎゃあああっ!」

「凄い、一瞬です……!」

「よし、晩飯までに帰りたいし、さっさと洞窟内も制圧するぞ」

 数秒で洞窟前を掃除し終わったオレたちは、すぐに洞窟内へと入っていく。


*


 洞窟内にも男たちがいたが、まだ洞窟前の騒ぎには気づいていないようで、バラバラに点在していた。


「何だてめぎゃあっ!」

「くそっ、オレの『幻想正拳』でぐほっ!」

「おのれ、我が魔法『月からの交信』でげぇっ!」

「わしの『百年の孤独』を食らがはっ!」


 男たちが魔法を使う前に、出会い頭で各個撃破していく。

 正直、どんな魔法か見てみたくなったが、今は時間優先だ。


 それほど広くない洞窟内を奥に進んでいく。そろそろオレの作った墓場が見えるはずだ。

 流石に暴れすぎたためか、別の奴らは奥へ逃げていったようだ。


「あ、兄貴、助けてくれ!」

「ボス、やべぇ奴が入ってきた!」

「リーダー、何とかしてぇ!」

 オレたちが追いつくと、男たちは最深部に鎮座する男に助けを求めていた。


「全く使えねぇ部下たちだぜ」

 兄貴であり、ボスであり、リーダーでもある男が現れた。長い髪を後ろに掻き上げた、鋭い顔の男。

 生意気にもオレの黄金の棺桶に腰かけ、こちらをじろりと睨みつける。


「その黄金から退いてもらおうか」

「てめえもこの黄金の宝箱が目的かぁ? 好き勝手暴れてくれたみたいだが、『フコイ団』をまとめる団長、フコイ様が相手をしてやるぜ!」

 ……兄貴でもボスでもリーダーでもなかった。


「オレの魔法を見せてやらぁ!」

 団長は手の平を上に向けると、その手の上にナイフが現れた。ナイフを見せびらかすように手の上で弄ぶと、にやりと笑みを浮かべる。


「オレの『どこでもナイフ』は体から自由にナイフを生み出せる。さあて、どこからズタズタにしてやろうか?」

 ……完全にオレの下位互換ではないか。

 せっかくだし一つぐらい魔法を見てみるかと思えばこれだ。やはり今日のオレは運勢が悪いらしい。


「どやってるところを悪いが一撃で……!?」

 しゃべっている途中で口が動かなくなり言葉が途切れる。いや、口だけではなく体さえも動かない。何だこれは。


「兄貴、今のうちでゲス!」

「くっくっく、油断したな侵入者。オレに見とれて、部下の接近に気付かないとはな。オレの部下マッコイの魔法『影踏み』は影を踏んだ者の動きを完全に止めるんだよっ!」

 どうやらオレの後ろに奴の部下が接近していたらしい。首を捻ることさえ許されないが、蝋燭で照らされたオレの影をこっそり踏んだという事か。

 体を動かさなくても使えるはずの魔法さえ使えない、かなりのピンチだ。


「御主人様、早く魔法を!」

「もしかして、魔法も使えないの!?」

心配する声が届くが、返事ができない。


「オレに見とれるとは間抜けな奴だな!」

 2回も言うな。そもそも見とれていない。そんなツッコミも許されないこの状況、非常にまずいぞ。


「ゲスススススッ! さあ兄貴、とどめをさすでゲス!」

「よっしゃぁ、死ねオラァッ!」

 顔を見なくてもゲス野郎と分かる笑い声を合図に、長髪の男がナイフを構えこちらへ向かってくる。こんな下位互換の魔法で、この天才がやられるっ!


「ゲスーッ!?」

「痛っ! ……フリード、大丈夫っ!?」

 突如後ろから爆発音とゲス野郎の悲鳴が聞こえた。そして同時に、体に自由が戻る。


「痛いな、この野郎」

「な、てめぇ!?」

 男のナイフはオレの胸に届いていた。だがギリギリで魔法が間に合い、肌に生み出した鉄で男のナイフを食い止める。

 ナイフは小指の第一関節ぐらいの深さまでは刺さっていそうだが、命に別状はない。胸筋に感謝だな。


「ぐっほぉっ!?」

 男の顔面に拳をぶち込むと、洞窟の壁まで吹っ飛んでそのまま気絶した。


「あ、兄貴ーっ!?」

 驚いている部下たちも、鎖を放ち一瞬でぶちのめす。全員ボコボコにすると、洞窟内にやっと静寂が訪れた。


「ふう、危ない所だった……」

「御主人様、大丈夫ですか!?」

「ああ、ナイフの先がちょっとだけ挿入(はい)ったが、命に別状はない」


「良かった、間に合わないかと思った……。直接『ダーク★フォース』を叩きこまなかったら危なかったね」

 ロゼリカはゲス野郎に直接魔法を当てたようだ。そのせいで至近距離で爆風に巻き込まれたのだろう、しりもちをついている。

 オレが手を伸ばすと、その手を掴み起き上がる。


 全く、油断大敵だな。仲間に感謝しつつ、しっかり反省しなくては。

 胸から血が垂れそうになるが、鉄で皮膚を覆い服に染みないようにする。

 一呼吸着くと、男たちを街に突き出すために鎖で縛ることにした。


*


「御主人様、ところでその黄金の箱は何でしょうか?」

 気付かないふりをしていたが、流石に隠し通せなかった。人が一人入れるほどの黄金の塊だ、当然最初から存在に気付いていただろう。


「……これはオレの恩人が眠る棺桶だ。昔、ここで修行していた時、土砂崩れに巻き込まれてな。オレの身代わりになって死んだんだ。赤の他人を助けるために、馬鹿な話だろう?」

「……!?」


「嘘か本当か知らないが、その恩人は未来予知の魔法でオレの未来を視て、世界を救う男だと言っていた。いまだにその言葉を信じているのだから、オレにも馬鹿が移っているのかもな」

「その方のいう事は正しいと思います。だって御主人様はいつも私たちのことを助けてくれていますから!」

「そうだよ! 私のことも助けてくれたじゃん!」

 2人はオレのことを励ましてくれる。言葉にすると、オレも少し感傷的になってしまったようだ。


「……変な形になってしまったが、墓参りできて良かった。次に来るのは世界を救った後だな」

 オレは棺桶の前で数秒黙とうする。生み出した鉄のスコップで土をかけ、その場を後にすることにした。


「フリード、この『不快団』はどうするの?」

「……鎖に縛ったまま適当なところに放置しよう。オレたちがやったと思われたくないからな」

 洞窟の外に引きずりだすと、外で気絶していた奴らもまとめて鎖で縛っておいた。匿名でこの場所を教えればあとは街の者たちが何とかしてくれるだろう。


「うわ、よく見たらもう夕方だね!」

 ロゼリカの言う通り、もう昼を通り越して日が傾き始めている。


「最悪だ、昼飯抜きになってしまった」

「……今日の出来事で一番最悪なことがそれですか?」


 やはり今日のオレは運が悪い。これはもう残りの夕食と温泉タイムで心を癒すしかない。

 気を取り直すと、3人で街の方へと歩き出した。


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