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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
冬休み編
63/198

第62話 火山に住む山賊

 温泉街ジェロの近くにある火山。

 街を荒らす『フコイ団』は、そこを根城にしていた。


「兄貴ーっ!」

「……なんだ、うるせえな」

 街でフリードにやられた男たちが、リーダー格の男の下に駆け寄る。男は大きな黄金の箱に座っており、長い髪の毛をめんどくさそうに掻きむしる。


「ま、街に強い男が現れたんだ! 見かけねえ面だったし、中央から派遣された討伐隊かもしれねぇ」

「馬鹿か、真冬にわざわざこんなところに来るかよ。まあ仮にここに来たとしても、俺に勝てるわけがねえがな。……それよりもとっとと、この黄金の宝箱を開ける方法を考えろ。棺桶ぐらいの大きさで、わざわざ金で作ってあるんだ、かなり凄いもんが眠ってるに違いねぇ」


「でも兄貴、その金の箱、継ぎ目がありませんぜ。本当になんか入ってるんすか」

「俺の目に間違いはねぇよ。わかったら早くこれを開ける方法を考えやがれ!」

「ひいっ!」

 リーダーの怒声に、男は慌ててその場を離れた。


「まったく、使えねえ奴らだ。早くこいつを開けて、この場を早く離れてえのによ。それにしても、たまたま雨宿りで入った洞窟にこんなでかい金の宝箱があるとはな。俺はついてるぜ」

 男は金の箱をにやにやと眺め続けた。


*


 早朝、オレは宿のカーテンを開け、朝日を浴びる。


「温泉良し、食事良し。以前は気付かなかったが良い街だな、ここは」

 オレは宿泊した宿から、外を眺める。目の前には、昨日歩き回った街と、大きな火山が見える。

 15年ほど前に1度噴火したっきりで、ここ最近は全く活動していない所謂休火山というやつだ。


「御主人様、以前ここに来たことがあるんですか?」

「……聞こえてたか」

 どうやらオレの独り言が聞こえていたらしい。いつの間にか起きていたエミリアがオレの横に並び、窓から同じ方向を見る。


「ここというか、あそこに見える火山にいた。オレは7歳の時に実家を飛び出して、学園に通える12歳になるまであそこで修行していたんだ」

「7歳から!?」

 エミリアはオレの言葉に驚く。まあ年齢一桁の子供が修行するなど、驚いて当然だが。


「何故そんなことを?」

「オレは当時から天才だったからな。自分の魔法の有効性に気付き、多少魔法を使っても大丈夫な様にスタミナを鍛えていた」

 スタミナが無くなって気絶するまで魔法を使い続けるという荒い特訓を5年間続けた結果、今では島を落とせるほどに成長したわけだ。


「……つまらない話をしてしまったな。ロゼリカを起こして朝食にしよう」

「いえ、御主人様のことが聞けて良かったです」

 寝癖が悪くお腹丸出しのロゼリカを起こすと、朝食をとることにした。

 朝から遠くまで歩きたくないので、近くのカフェで朝食をとることにした。


「うむ、コーヒーの匂いが硫黄の匂いにかき消されて、実に不味い」

「オープン席は失敗でしたね……」

 近くに流れる温泉川から漂う匂いがカフェを包み込み、食事を不味くさせる。たまにはこういう失敗もあるな。


「今日はどうするの?」

「上流の方に滝みたいになっている温泉があるらしい。そこに行ってみないか?」

 長い休暇なので、一日に一つのペースでこの街を楽しむ作戦だ。昨夜はサボテン料理を食べたが、他に気になっている店もいくつかある。しばらくは退屈しなさそうだ。


「上流側だと火山に近づきますね」

「……ああ、そうだな」

 エミリアにはいっていないが、あの火山にはオレの恩人の墓がある。噴火した火山による土砂崩れからオレを助けてくれた『未来視』の魔法使いだ。

 実は名前さえ知らず、彼の故郷に送ることもできなかったので、錆びない黄金の棺桶を作り眠らせてある。


「御主人様、どうかしましたか?」

「ああ、悪い、ちょっと考え事だ。宿にいったん戻って準備したら向かうとしようか」

 げろまずコーヒーを一気飲みすると、3人で宿に戻る。


*


 準備を終え、再び宿を出る。昨日は下流側に店を捜し歩いたので、上流に向かうのは今日が初めてだ。


「上流はあんまり温泉宿がありませんね」

「ここら辺はお湯がかなり熱いらしい。だから上流側は直接お湯を使わずに、熱源として温室に利用している」

 オレの言う通り、大きめの密閉された建物が並んでいる。太陽の光を得られるように天井や側面はガラス張りだ。


 更に進んでいくと、温室も少なくなってきた。ここら辺はもう街のはずれのようだ。


「フリード、まだなの? もう結構歩いたよ」

「もうすぐのはずだ。魔王ともあろうものが弱音など情けないぞ」

 川沿いをずんずんと歩いていく。上流方向は当然上り坂なので少し疲労を感じてきた。

 我慢して歩き続けると、やっと看板を見つけた。矢印型の看板に、『温泉の滝はこちら』と書いてある。


「ついに来たな。わざわざ看板まで用意してあるんだ、立派に違いない」

 はやる気持ちを抑え、看板の示す方向へ歩くと、ついに温泉の滝にたどり着いた。


「これが、温泉……滝ですか?」

「……滝なの、これ?」

「な、何だこれは……!」

 オレたちの目の前に広がる温泉滝。だがそれは名ばかりで、膝の高さぐらいから温泉が流れ落ちているだけだ。一応街全体に温泉を供給している川なので水量はあるが、見ても何も面白くない。


「あれだけ歩いてこんながっかり観光スポットを見せられるとはな。2度と滝を名乗れないようにオレの魔法で(なら)してやろうか?」

「御主人様、怒りを鎮めてください!」

 エミリアの言葉にハッとする。危ない危ない、こんなことでこの天才が理性を失うところであった。

 やれやれ、朝のカフェの件といい、今日は運勢が悪そうだ。


「へっへっへ、そこの兄ちゃん、観光か? オレたちに少し金を恵んでくれよ」

「美人の姉ちゃんも連れてるじゃねえか。女で我慢してやるよ」

 ……どうやら不幸は続くようだ。昨日に引き続きチンピラたちが現れる。


「フリード、また『不快団』が出たよ!」

「『不快団』じゃねぇ、『フコイ団』だ! ガキがなめんじゃねえぞ!」

 ロゼリカの発言にチンピラが切れ始めるが、ロゼリカが正しい気がするな。


「ボコボコにしてやらぁ!」

 チンピラたちがこちらに突撃してきた。


*


「畜生、覚えてろ!」

 描写は省くが、チンピラはオレにボコボコにされ、捨て台詞を吐いて山の方に逃げていった。


「御主人様、かっこいいです! あんな必殺技を持ってたなんて!」

「まさかここで新技を使うなんてね」

 2人がオレを褒めたたえる。あえて描写は省くがオレの必殺技は彼らを一瞬でボコボコにしたのであった。


「男たち、山の方に逃げていったね」

「あの火山を根城にしているんでしょうか?」

 これは面倒なことになったな。オレの墓参りも山に行かなければならないが、このままだとチンピラたちに会う確率が高いという事か。


「ギルド活動停止中でなければ、依頼を受けて討伐することもできると思いますが……」

「いや、今日のことでオレは怒り心頭怒髪天だ。くだらん滝を見せたあいつらは徹底的に殲滅してやろう」

「完全に八つ当たりじゃん」

 どちらにしろ邪魔が入るなら、こちらから攻めていこう。依頼を受けず金を貰わなければ、ギルド活動に入らないだろう、多分。


「国にばれて怒られたりしませんかね……」

「やってみればわかるだろう。考えるだけで行動しないのが2流、行動して確かめるのが天才だ」

「大丈夫かな……」

「偶然にも上流に来て、山に近づいたんだ。このまま流れに乗って殲滅戦だな」

 オレは怒りを胸に、2人を連れてチンピラを追うことにした。


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