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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
妖精王の伝説編
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第57話 妖精島の墜落

「オロベン! 人間たちの横暴にはもう我慢できません! 妖精の王として、決断ください!」

「ティアーニタ、我々が戦っても勝てはしない。無駄死にになるだけだ」


「たとえ全滅したとしても、私たちの誇りを見せるべきです!」

「人間に魔法の使い方を伝えたのは我々だ。人間を捨てては、我々の行いが間違っていたと証明するようなものだ」

「では、戦わずに同胞が狩られるのを黙ってみているのですか!」


「……今は人間たちと距離を置こう。私の『旅人(ペネトレイター)』でこの森ごと場所を移す」

「そんなことをしては、あなたが……!」

「ティアーニタ、私の代わりに待ち続けて欲しい。人間に魔法を教えたことが間違っていなかったとわかる日が必ず来る。この大陸を食い荒らす竜を、人間が追い払った時の様に……」


*


 オレが鉄を生み出し続けた結果、ついに浮遊島に変化が現れた。

 一瞬体がふわっと浮く感覚。間違いなく、島が落下を始めている。


「ローズ、島が落ち始めた! 早くキャンプ地に戻り、フェオドラの雲で衝撃を受ける体制を取るぞ!」

 空を飛べる妖精たちはまだしも、オレたちがこのままでは落下の衝撃で間違いなく死んでしまう。

 オレの鉄のおかげで辺りは真っ暗なため、暗がりに声をかける。


「……墜落まであとどのくらいだね」

「まあ、数分だろうな」

「では無理だろう。私は足を怪我している。早くは移動できない」

「置いていくわけないだろうが」

 オレはローズの方向へ鎖を放ち、手繰り寄せる。本来であれば美少女専用の背中に背負ってやり、おんぶの体制で移動する。


「……重いぞ、ダイエットしろ」

「冗談はやめて、早く1人で逃げるんだ! 私のことは放っておけ!」

「オレの魔法で起きた結果だ。それはできない相談だな」


「……人間、私の近くに来なさい。再び『旅人』で元の場所に戻します」

 文字通りお先真っ暗のオレたちに救いの手が差し伸べられる。こいつは妖精女王ではなく女神だったか。


 暗がりの中、声のする方へ移動する。良く見えないが、目の前が歪み始めたと思ったところで、たき火が視界に移った。


「お兄様!?」

「フリード!」

「ステラ、デットも! ……無事だったか!」

 ステラがオレに抱き着く。両手が塞がっているので撫でてやることはできないが、無事で本当に良かった。


「ローズ様!」

「ローズ、無事でありんすか?」

「ルナ、フェオドラ、話は後だ。数分でこの島は地面に激突する。お前の魔法で衝撃から身を守るのだ」

 彼女は頷くと、周囲に雲を出し始めた。オレたちは次々に雲に飛び乗る。


 全員が雲に飛び乗った瞬間、轟音が鳴り響いた。森の木々が大きく揺れ、地面がざわつく。


「きゃあぁ!?」

「ぐっ……! 凄い振動だ!」

 空気の震えのせいだろうか、雲の上まで振動が伝わってくる。

 数分の間、ゴゴゴと音が鳴り続けた後、ついに辺りが静かになった。


*


 オレは元・浮遊島を覆う鉄に手を触れる。少しずつ鉄を操り、数分後、ドーム状の鉄はすっかりオレの体に戻っていった。


「うっぷ、もうお腹いっぱいだ」

「……その鉄はお腹に入れていたのか?」

 久しぶりに太陽がオレたちを照らす。空を眺めると、美しい青空に白い雲、そして風をまとい浮かぶ男がいた。男はいつの間にか傷ついた女性を抱えている。

 さっきまで怒っていたはずだが、今は冷静になっているようだ。


「あの男は……?」

「ヴァレリーと戦った男だ」


「おいおい、まだいたのか。……このハレミア領内で、まだ戦うつもりか?」

「……ここは引くとしよう。鉄を操る男よ、名を聞いておこうか」

「天才錬金術師、フリード・ヴァレリーだ」

「……覚えておこう」

 男は風に乗り、北西の方角へ飛行していった。

 ……お前も名乗って行けよ。


「お兄様っ!」

「ぐっは! 死角からの一撃は止めろ……」

 オレは斜め後ろからステラタックルを食らう。


「お兄様、私も頑張って戦いました!」

「フリード、ステラは頑張っていたぞ。魔法を使ってしっかり時間を稼いだんだ」

「そうか、よく頑張ったな」

「えへへ……!」

 オレはさっき撫でてやれなかった分、頭を撫でてやると、照れたように笑った。


「ローズ様、怪我は大丈夫です?」

「ああ、大した傷ではない」

「……あちきが帰りも雲を出してあげさんすから、ゆっくり体を休めなんし」

「済まないな、フェオドラ」

 ユグドラシルの面々もお互いに無事を確かめ合っているようだ。


「ちょっと、そこの男!」

 可愛らしい声が響く。妖精の女王が怒りの表情でこちらを見ていた。


「オレの事か?」

「ええ、妖精たちを助けてくれたことは感謝します。貴方たちを疑ったことも謝罪しましょう。……ですが、私たちの森は地上に落ち、森もボロボロです」

 彼女の後ろを見ると、確かに森は無事とは言えず、木々が倒され地面も荒れている。無事なのは半分もあればいい方だろうか。


 何を言おうか思案していると、ローズが前に進み出る。


「女王様、この度は手荒な真似をして本当に申し訳ありません。……妖精たちと人間の確執は存じております。だが、どうか贖罪のチャンスを頂きたい。我々『ユグドラシル』が必ずあなた方の土地を守りましょう」

「そうです! 人間たちは悪い人ばかりではありません!」

 どこに隠れていたのか、プッカが飛び出して女王の前に現れた。


「わかりました。私には人間を見続けるという使命があります。人間がこの男のような野蛮な者ばかりなのか、そうでないのか……。地上で見させていただきましょう」

「女王様、この男は確かに強引な奴ですが、決して悪い男ではありません」

「……そんなこと、わかっています。この行動が、仕方なかったという事も……」

 オレの目の前でオレについて口論されると、なんともむず痒い。


「あなた方の名前を聞いておいても良いですか?」

「私はゲイリー・ローズ。この男はフリード・ヴァレリーだ」

「女王よ、オレもこんな解決策で悪かったと思っている。お詫びに今度、金の豪邸を立てて差し上げよう」

「……いりません」

 ……どさくさに紛れてのお詫びのプレゼント作戦は空振りになってしまった。


 まあ、とにかく問題は解決した。妖精たちの住処問題は『ユグドラシル』に任せよう。彼らの権威があれば、妖精たちもそう簡単に危険にさらされることはないだろう。


「ローズ、あとは任せた。野蛮な男は先に帰るとしよう」

「……お前たちも雲に乗って帰るといい。我々を、そして妖精たちを無事に護衛した勇者を労わないとでも思っているのかね」

「オレは別に勇者ではないが」

 断ろうとするが、ステラはまた雲に乗れると聞いて嬉しそうな表情をしている。


「分かった、甘えさせてもらおう。ついでに帰りにお土産を買わせてくれ。エミリアたちのことを忘れていた」

「調子に乗るなです!」

 ルナはプンプンだが、フェオドラは笑って了承してくれた。


「フリード・ヴァレリー! これを持っていきなさい」

 女王様が何かを投げてきた。これは、指輪か? 銀のリングの先端に、金属の花がついている。この材質は何だろうか、金属でありながらどこか透明感があり、水晶のような輝きを放っている。


「それはかつて、人間と妖精の交流の証として作られた指輪です。そのミスリルで作られた花は、知性を意味します」

 ミスリルとは、とても貴重な金属ではないか。初めて見たが、金属でありながらまるで宝石のようだ。


「……オレに怒っていたんじゃないのか? こんな土産までくれて」

「それは、他の妖精たちの命を助けてもらったお礼です。島を落とし、森を荒らした罪を許したわけではありません」

 きっとこれはツンデレというやつだな。お土産に最適だし有難く貰っておくとしようか。


「さあ、王都に一旦帰るとしようか。私も報告が必要だ」

「ああ、そうだな」

 皆で雲に乗り込むと、少しずつ動き出す。オレは女王様に手を振ってみたが、そっぽを向かれてしまった。


「ふう、疲れたな……」

 兵士に襲われ妖精に嫌われたが、とにかくオレたちは無事だ。生きてさえいれば、妖精たちとは時間をかけて仲良くなることもできる。

 まずは生きていることが、最も大事なのだ。


 今までのことを整理しながら寝そべっていると眠気を感じてきた。

 オレは一度思考を止めることにした。


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