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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
妖精王の伝説編
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第56話 妹だって戦える

「ローズ、こいつは妖精を襲った魔法使いとは別だ! 他の者たちが危ない!」

「……! 早く戻らねば!」

 オレの言葉でローズも気が付いたようだ。顔に焦りがみえる。


 まずはこの魔法使いを止めるとしよう。胸から血を流し地面に膝をつく男に剣を振るう。


「ハァ……ハァ……図に乗るな、小僧!」

 男はその場から飛びのき剣をかわすと、再び空中へ舞う。まだ余力が残っていたか。


「空に飛んでしまえば、吾輩に届く攻撃はあるまい。……くくっ、何があってもこの島は必ず手に入れる。あと5時間もすれば、国境を越えメルギス領内だ」

「……!? まさか、この風も貴様が?」

 男は問いに答えず、笑っている。ルナちゃんが北西への風が吹いているといったが、それもこの男の仕業だったか。


「くははっ、領内に入ればわが軍が地上から攻撃を行い、貴様らごとこの島を落とす。貴様らの死体は返り討ちに遭った我が国への侵入者として、ハレミアに送り返してやろう。……安心しろ、妖精たちは我が国が丁重にもてなそう」

 男はそう言うと下品な笑みを浮かべる。


「……この、獣め!」

「お褒めに頂き光栄ですよ、妖精の女王様。くく、はっはっはぁ!」

 女王は憤慨するが、その表情を見て男は勝利を確信し、高笑いをしている。


「ふん、何故勝った気になっている? この天才に5時間も与えるなど驕りが過ぎるぞ」

「……負け惜しみを言おうと、我らの勝利は揺るがぬ!」

 愚かな男だ。この天才にヒントを与え過ぎたな。


 オレは体から全速力で鉄を生み出し始める。男は攻撃かと勘違いし、警戒を強める。

 だが生み出した鉄は男の方ではなく、自分の後方へどろどろと広がる。


「貴方、何をするつもりですか!?」

「女王様、一つ報告させていただく。この島は、今からオレが地上に落とす」

「なっ!? そ、そんなこと、認められませんっ!」

「……残念ながら、これは打診ではなく決定事項だ」

 簡単な解決策だ。どうせこの島が落とされるのなら、国境を超える前にオレが落とせばいいではないか。


「こ、小僧! そんなことはさせぬぞ!」

 男は風の攻撃を行うが、延々と生み出し続ける鉄の壁の質量で防ぐ。

 オレはこの浮遊島を覆うつもりで、生み出した鉄を島に広げる。


「やめろ、やめろ、やめろぉっ!」

「ふん、さっきの勢いはどうした? これだけの厚さの鉄の壁、もう風では貫けないぞ」

 男は何度も風を巻き起こすが、鉄の表面を傷つけるだけだ。それもすぐに『錬金術』で修復する。


 大量の鉄は、オレの視界から男を見えなくし、更に島の上空まで覆いかぶさり辺りを暗くし始めた。


*


「おかしいね、何でここに私たち以外に人間がいるのかな〜?」


「エルデットさん、あの人は誰でしょうか……?」

「わからんが、油断するな」

 ステラとエルデット、そして他の妖精たちも、皆が空中の一方向を見つめていた。


 視線の先には、緑色の翼を生やした女が、その翼をはためかせ飛行していた。

 女は空からキャンプを見下ろして、ぶつぶつと独り言を言っている。


「まあ、エシュロン様は妖精は殺すなって言ってただけだし、他の人間は殺そうかな?」

「……ステラ、気を付けろ!」

「フェオドラ様、どうするです!?」

「ローズたちが返ってくるまで耐えるしかないでありんすね」

 エルデットたちは臨戦態勢を取る。


「私の『雷鳥(サンダーバード)』が巻き起こす雷をまとった風撃、受け止められるかなっ!」

 女は翼を小さくたたむと、バチバチと強い静電気のような音が発生する。その翼を思い切り開くと、周囲に閃光が走った。


「うわぁっ!」

 放たれた閃光はジグザグに周囲に飛び散り、無差別にエルデットたちの周囲を襲った。

 テントに命中した光はそこを焦がし、固まっていた妖精の一人に命中すると火傷と共に体を傷つける。


「ああ、妖精さんたちが……!」

「お前たち、森に逃げろ! ……ステラ、とにかく時間を稼ぐんだ。この場所に戦闘系の魔法使いがいない以上、フリードたちが来るのを待つしかない」

 妖精たちは森の中へ飛んでいく。エルデットたち4人と翼の生えた女だけが残る。デットは矢を射かけるが、翼による風で簡単に防がれてしまった。


「やっぱり私の魔法は繊細な攻撃には向かないね。また妖精に当たっちゃった。……でも妖精は居なくなったし、今度は誰に当たってもストライクだね」

「来るぞ!」

 女は再び周囲に雷撃を放つ。フェオドラが周囲に雲を作り出し、視界を遮り的を絞らせないようにする。

 何度も雷撃が放たれるが、紙一重でかわし続ける。


「まったくちょこまかと……よし、直接電撃を流してあげよう」

 女は作戦を変え、雷をまとって直接接近する。


「ステラっ!」

「え……」

 女はステラに狙いを定めたようで、接近して抱き着くと直接雷撃を与えた。

 ドンっ! と大きな音がし、黒焦げの塊が出来上がる。


「なっ!?」

「ふふっ、幼い子供にはちょっぴりお仕置きがきつすぎたかな?」

 黒焦げの塊はその場にどさりと倒れる。……が、ポンッと消えてしまった。


「えっ!? き、消えた……?」

「そっちは偽物ですよーだっ!」

 近くの雲の影から無傷のステラが現れ、舌をべーっと出して女を挑発する。

 ステラの魔法で咄嗟に分身を作り出しており、無事に回避できていた。


「そっちが本物かっ!」

 女は再びステラを狙うが、ステラは二手に分かれ、雲を利用しながらバラバラに逃げる。


「正解は2分の1か……じゃあこっちだ!」

 女は躍起になってステラを狙い続けるが、どちらも偽物であり本物である『二つの真実』を見抜くことができず、時間だけが過ぎていく。


「すごいな、ステラ……」

「馬鹿な、2分の1をこんなに外すなんて……。まさか、両方とも偽物?」

「はあ、はあ、お兄様、早く……!」

 攻撃はかわし続けているが、逃げる体力は少しづつ奪われ、幼いステラは息が上がってしまう。


「……!? 空が、暗くなってきたです!」

「これは、鉄の屋根か?」

「お兄様!」

 4人と女が空を見上げる。北西の方から鉄の屋根が現れ、ドーム状に浮遊島を覆い始める。

 鉄の壁は太陽を遮り、あたりを完全に真っ暗にしてしまう。


「なんだこの魔法は!? まさかまだ他にも人間がいたのか?」

 女は動きを止め、周囲を警戒する。


「やあぁぁ!」

「ふん、生意気!」

 ステラは分身を利用して暗闇に攻撃をするが、女は雷を身にまとい、分身を払いのける。


「……え?」

「暗闇でその魔法は、攻撃を当ててくれと言っているようなものだな」

 女の足に矢が命中する。雷による光のせいで正確な位置がばれ、逆に暗闇からのエルデットの攻撃にまったく反応できずかわすことができなかった。


「くそっ!」

 女は雷を放つのを止め、その場を飛び退く。この暗闇では戦闘は不利と判断し、息をひそめる作戦に出たようだ。


「……!? うそ、何で……!」

 女に再び矢が命中し、その矢は腹部に刺さっていた。どさりと地面に倒れこむ。


「……今のうめき声、矢が当たったみたいだな」

「エルデットとか言ったです? なかなかの弓矢の腕です」

「魔法で正確な場所を教えてくれたおかげだ」

 ルナはとっさに魔法で女に”マーク”をつけていた。暗がりの中でエルデットに方向と距離を教え、弓矢での攻撃を可能にした。


「……こんなに暗いと行動できないでありんすね」

 フェオドラは手探りでたき火の準備を始めようとする。だが、浮遊島が急に揺れ始めた。


「なんだ、島が揺れている……?」

「いや、これは……下に向かって落ちているです!」

 重力がわずかに緩和されたかのような、体が浮き上がる気分。間違いなく、落下が始まっていた。

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