第54話 妖精女王
妖精と別れて1時間ほどたっただろうか、デットが突然声を上げる。
「皆っ、何者かに見られている! ……それも全方向、かなり沢山の数だ!」
オレはステラを抱き寄せ、周囲を警戒する。ローズとルナちゃんも一か所に集まり、背中合わせになって全方向を警戒できる体制を取る。
すると、森の奥から妖精たちが現れた。兵隊なのだろうか、木の枝でできたような簡素な木製の槍を持っている。
「……交渉決裂か?」
「希望を捨てるな。これが彼らの歓迎スタイルかもしれない」
妖精の兵隊たちが2手に分かれ隙間を作ると、その間から1人の妖精が現れた。他の者とは違い、花をふんだんにあしらったドレスを着ている。かなりの美人だが、小さいので可愛いが優先してしまうな。
「私は妖精たちの女王、ティアーニタです。手荒な歓迎で申し訳ありませんが、これ以上の侵入は許しません」
丁寧な言葉遣いではあるが、言葉の端々にトゲがあるように感じる。まあ、人間との因縁を考えれば当然か。
「……わざわざ会いに来たという事は、交渉の余地があると見受けますが?」
「直接断りを入れるのが礼儀かと思ったので来たまでです。これ以上私たちの森の奥へ立ち入るというのであれば、それなりの行動に移りたいと思います」
完全に宣戦布告に近いな。正直戦闘になればオレたちが勝つだろうが、力で訴えるのが正しいとは限らない。
そもそもオレは平和主義者だしな。
「……わかりました。フリードよ、ここは一旦引こう」
「ああ、そうだな」
「……」
後ろから無言の圧力を感じながら、オレたちは再び森の入り口の方へ向かっていった。
*
「ふう、やはり彼女たちは人間を憎んでいるようだな」
「妖精は1000年は生きると聞くし、かつての人間とのいざこざを覚えている者もいたのかもな」
森の奥地に入るなという事は、奥に妖精たちが住んでいるのだろうが、それでは奥地の調査もできないな。
「……フリード、私たちを追ってきてる者がいる。人数は一人のようだが」
「ふむ……ステラ、お前の魔法で捕まえよう。鎖だと変態扱いされかねないからな」
「わ、わかりました……!」
ステラはこっそり分身を作り、片割れだけが木に隠れて待ち伏せする。追ってくる者からすれば、何も変わったところはないように見えるはずだ。
「捕まえましたっ!」
「きゃぁっ!?」
無事、ステラが妖精を捕まえたようだ。後ろから両手で抱きしめて逃がさないようにする。
その妖精は、先ほどローズが花束を上げた妖精であった。
「君はさっきの妖精君だね?」
「はい、先ほどはたくさんの花をありがとうございました。……ごめんなさい、昔からいる他の妖精たちは人間を憎んでるみたいで」
「君が気にすることはない。……我々も妖精たちの思いを尊重し、森の外周を調査することにするよ」
「あの……宜しければ少し話をできませんか? 私は生まれた時からずっとここにいるので、下界のことを全く知らないのです」
「大歓迎だ! 私も色々聞きたいことがあるのだよ」
どうやらこの妖精は比較的若いようだな。人間のことを知らないのであれば他の者との温度差もうなずける。
「ちなみに、名前と、ついでに年齢も教えてくれないか」
「はい、名前はプッカで、年齢は67歳です」
……人間の常識で考えてはいけないのだろうが、何とも微妙な年齢だな。
オレたちは、小さな妖精を加え、再び歩き出した。
少し歩くと、出発したテントが見えてきた。
「あら、お可愛いおきちゃでありんすこと」
プッカちゃん(67)を見て、フェオドラが話しかけてくる。
何て言ったかわからないが、歓迎しているんだろう、多分。
「よし、早速プッカ君にいろいろと話を聞きたい。そちらも聞きたいことがあるだろうし、交互に一問一答といこうではないか」
ローズはプッカと話をするようだ。オレも話を聞くだけ聞くとするか。
*
……もうどれだけの時間話しているだろうか。オレの数え間違いでなければ、次の質問が丁度100問目だ。
「よし、次は私の番だ。妖精は睡眠時間がだいたい10時間というのは本当かね?」
「うーん、やっぱり個人差がありますね。私は12時間ぐらい寝ています」
ローズよ、それを聞いてどうしようというのか。
「……ローズ、そろそろ夕食にしないか? もう月が見え始めている」
「む、確かにその通りだ。プッカ君もどうだね? 果物でよければ何でもだせるぞ」
「私、パイナップルというものが食べてみたいです! この森にはなくて……」
「ふっ、承知したよ」
ローズはいつものように種をまくと、それが急成長する。
全方向に尖った草が放射状に生え、真ん中に店で見るような橙色の実がなる。
「お兄様、パイナップルってこういう風になるんですね!」
「オレも初めて知った。国内ではパイナップルは栽培していないしな」
パイナップルを含む南国の果実は、美食の国ビストリアで栽培されている。我が国にあるのは全てが輸入品だ。
国内ではローズに頼らないと食べられないだろうな。
「よし、ヴァレリー、いつものように頼むよ」
「……オレはいつからカット係になったんだ?」
オレはナイフを生み出し、実を切り取る。皮の固いそれにナイフを突き立て、芯と皮を取り除く。
銀の皿を生み出し、輪切りにした実を並べていく。
「ほら、できたぞ」
「美味しそうです!」
「す、すっぱーいっ!」
プッカとステラが口に運んでいき、酸っぱそうな顔をして味わっている。まったく呑気なものだ。
「フリード、なんだか不満顔だな」
「果物が嫌いなわけでは無いが、やはり肉が食いたい。そろそろ禁断症状が出そうだ」
「……鳥ぐらいならここにもいそうだし、明日探してみよう」
流石はデットだ。お言葉に甘えて明日は鳥肉パーティーを期待するとしようか。
「お兄様、星がきれいですし少し外周を散歩したいです!」
ステラが話に割り込んできた。たしかに、この高さから見る星空はとてもきれいだ。昨日は目の前の森や妖精ばかりに気を取られていたが、こういうのも貴重な体験だろう。
「よし、そうするか。落ちないように気をつけろよ?」
「はい!」
「……ルナもいくです」
突然後ろから声がし、振り向くといつの間にかルナちゃんが立っていた。
ルナちゃんも着いてくるようだ。手には小さな望遠鏡を持っている。
デットも含めて、4人でゆっくりと歩くことにした。
「……それにしても、風がすごいな。この島も風に吹かれて移動しているのか?」
「風のせいかわからないですが、ゆっくりと北西に進み続けてるです」
この島は魔法で浮いているのは間違いないと思うが、やはり謎が多いな。たまたま王都の近くに浮いていたのか、適当な周期であちこちを漂っているのか……
「やっぱり、妖精女王の話も聞きたかったな。人間のことを知っているなら何百年も生きているはずだしな」
「……仕方ないです。ローズ様が妖精たちを尊重するというなら、ルナもそれに従うです」
オレたちはどうするべきだろうな? あくまで護衛としてローズを尊重するのか、それとも……。
オレは外周から星空を眺めながら、今後のことを考えていた。
*
「ぎゃあっ!」
フリード達がキャンプをしている場所からちょうど島の反対側で、真夜中に妖精の悲鳴が響く。
妖精の死体のそばには、2人の男女が立っていた。
「ふふん、妖精というのは弱すぎますね、エシュロン様」
「フェリオス、殺すのは止めろと言っただろう。国王は妖精たちの捕獲をお望みだ」
「おっと、済みませんでした。……でも、奴隷やペットとして貴族のおもちゃになるぐらいなら、死んだ方が幸せかもしれませんよ?」
「……フェリオス」
「わかってます、ちゃんと役目は果たしますとも。といっても、エシュロン様の風で我が国の領土まで漂ってくるのを待つだけですけど」
「分かっていればいい。国境を越えたらこの島を落とし、地上に待機している軍で全ての妖精を捕獲する。簡単な仕事だが、だからこそ失敗は許されんぞ」
「了解です。……この死体はどうしますか?」
「……放っておけ。どうせ死の理由などわからん。この浮遊島に気付いたのはまだ吾輩たちだけのはずだからな」
2人は怪しげな計画を話しながら、妖精たちの森の奥を眺めていた。




