第4話 初仕事
「おお……似合っているな」
オレは早速エミリアを連れてギルドホームに来ていた。軽くホームの紹介をした後、早速仕事開始ということで、エミリアはメイド服に着替える。
元同級生の新鮮な姿に、ついじろじろと眺めてしまったため、エミリアは顔を赤らめる。
「そんなに見られると恥ずかしいです……御主人様」
「な!? ぐはっ……!」
「ごっ御主人様!? 大丈夫ですか!?」
何という不意打ち。元同級生に御主人様と呼ばれる背徳感に、オレは血を吹き出しガクリと膝をついていた。
*
時刻は3時を過ぎた頃、気持ちを落ち着かせたオレは、本日2度目のギルド管理局を訪れていた。
「という訳で、新メンバーの登録と、仕事の紹介を頼む。楽だけど報酬ましましの奴で」
「……登録はしますが、そんな仕事は自分で見つけてください」
「つれないな。仕方ない、エミリアも探すのを手伝ってくれ」
「あっはい!」
「……何故そんなに時間がかかるのだっ!」
依頼を確認するため掲示板に向かおうとしたところで、突如建物内に男の怒声が響き渡る。
声のする方を見ると、別の窓口の前で口髭を生やした神経質そうな男が叫んでいる。歳は40ぐらいだろうか、薄い鉄の胸当てと細身の剣を腰に下げていることから、その男が兵士だとわかった。
男は噛み付かんばかりの勢いでまくし立てており、受付嬢が涙目になっている。
「ですがっそういう決まりですのでっ……。どんなに早くても明日の朝に……」
「それでは手遅れだと言っているのがわからんのかっ!」
ドンッと窓口を叩きながら叫ぶ。その勢いに受付嬢は肩をびくっと震わせる。
「うるさいぞ、何の騒ぎだ?」
見るに見かねて、オレは近付き声をかける。
「なんだ貴様は? 関係ない奴は黙っていろ!」
怒りの矛先がこちらに向く。間近で見る剣幕はなかなかのものがあり、思わず「済みませんでした」と謝ってしまいそうになる。だがそこは天才のオレ、すんでのところで耐えることに成功した。
「声がうるさくて周りの人間も迷惑している。市民を怖がらせるのが兵士の仕事なのか?」
男は周りを見渡し、やっと自分が注目を集めていることに気付いたようだ。少し落ち着きを取り戻す。
「む、すまん。しかし今は、一刻を争う時なのだ。近くの村がゴブリンの大群に襲われている」
「ゴブリン? それぐらい、兵士だけでもなんとかなりそうなものだが」
ゴブリンは小型の亜人種だ。猿のような体格と身体能力に、意地悪く狡猾な性格を持ち合わせている。とはいえ例え戦闘向きの魔法が無くとも、鍛え上げた兵士たちなら負けることはないと思うが。
「その通りだが、今は動かせる兵士がほとんどいない。隣国が国境付近で怪しい動きを見せているらしくほとんどがそちらの警戒に回されているのだ」
「……話は分かった。オレが手を貸そう」
「む、貴様がか!? 戦えるのか?」
「こう見えてもギルドマスターだ、腕に覚えがある。お嬢さんもそれで構わないだろう?」
成り立ての肩書を語り、説得力を持たせる。涙目の受付嬢に話しかけると、藁にも縋る思いなのか、コクコクと頷く。
「……わかった、力を貸してくれ。私はハンス、王都の衛兵隊長だ」
「フリードだ。人はオレを"天才錬金術師"と呼ぶ」
「錬金術師……? まあいい、早速向かおう。急いでくれ」
少々地味だが、ついにギルドの初仕事だ。気合を入れるとしよう。