第37話 顔合わせ
「はっ!?」
オレが目を覚ました時、馬車は目的地へと到着していた。
「まったく、丸二日寝ているなんて気を抜くにもほどがありますわ!」
「いや、寝てたというか、気絶していたというか……」
危うくメイドに冥途に送られそうになるところであった。
エミリアを見ると、冷や汗をかきつつ視線を反らした。
……気を取り直して、降り立つとしよう。
*
オレたちが馬車を降りると、先の尖った丸太を組み合わせた防衛柵に囲まれて、いくつかのサイロや穀倉が見えた。
ここがオレたちの防衛対象らしい。
柵の外には他の馬車が止まっており、兵隊が荷物を拠点に運んでいた。
恐らく各地から前線の為の食料が運び込まれているに違いない。
「もう他のギルドは到着しているらしい。会いに行こう」
陣の中に足を運ぶと、白い軍服を着た男が兵隊たちに指示を出していた。
男はこっちに気が付くと声をかけてくる。
「お前たちが最後のギルドか?」
「ああ、よろしく頼む」
「我々の他にももう1つギルドが来ている。まずは一度集まって自己紹介をしよう」
男はそういうと他のものに指示を出し、別のギルドを呼ぶように伝える。
テキパキとした働きはリーダーシップを感じさせる。
ほどなくして、別のギルドメンバーも集まってきた。
*
陣中央の広場に3つのギルドが集まる。
他のギルドは数十人はいるようだ。オレたち4人が寂しく感じる。
「け、結構いっぱい居ますわね」
「この程度で気圧されるな。どうせ大した奴らじゃない」
「……仲間に言う言葉とは思えないな」
ごそごそとしゃべっていると、さっきの軍服の男が前に出る。
「まずは私から自己紹介しよう。Cランクギルド『白き城砦』のギルドマスター、ブライザだ。部下33名と共にここの防衛に全力を尽くす所存だ。短い間だがよろしく頼む」
真面目そうな言葉を紡ぎ、軽く頭を下げる。
後ろの部下たちも手を後ろに組み、ビシッと姿勢を維持している。まるで軍隊のようだ。
ブライザが下がると、もう一つのギルドから男が歩み出る。
高級そうな服を着た貴族風だ。……何故か薔薇を咥えている。
「次は僕が名乗らせてもらおう。Dランクギルド『薔薇華団』をまとめるシャルティオーネだっ! 僕たち20名がここを、そして王国を守るよっ!」
「きゃー! シャル様ーっ!」
男が名乗ると、彼のギルドから黄色い声援が飛んできた。
ギルドメンバーは女しかいないようだ。
「こう見えて剣の腕前は一流さっ!」
「きゃー! かっこいいーっ!」
「僕の魔法を受けて立っていられたものは居ないよっ!」
「きゃー! 素敵ーっ!」
「好きな食べ物はガレットさっ!」
「きゃー! 以外ーっ!」
……馬鹿か、こいつらは。
「……自己紹介はその辺でいいだろう。次、そっちの男、頼む」
ブライザは半ば強引に自己紹介を止めると、こちらを促す。
「Eランクギルド『ミスリルの坩堝』、フリード以下4名だ。よろしく」
オレは手短に自己紹介を済ませる。
すると、一拍置いてさっきのおバカギルドから笑いが巻き起こった。
一方ブライザは驚いたように声をかけてくる。
「ちょっと待て、Eランクだと? この依頼はDランク以上のはずだが」
「あーっはっは! 場違いな男が紛れ込んでいたようだねぇっ!」
「直接依頼が来たのだから問題ないだろう」
「何故Dランク以上の制限があるかわかっているのかい? 辞退するのが当然だろう? リップサービスを真に受けるなよっ!」
「……わざわざ帰らせるようなことはしないが、くれぐれも足は引っ張らないでくれよ」
どうやらEランクは予想以上に評価が低いようだ。
……まあ、それも当然か。ギルドを作ればだれでもEランクなのだから。
ブライザは呆れたような表情をしている。シャル何とかは笑いながらギルドのもとへ戻っていった。
*
オレたちはブライザに指示された持ち場へと歩いていた。
前線に近い方は任せられないと判断されたのだろう。陣の中心に近い穀倉周辺がオレたちの持ち場に決まった。
「何ですの、あの態度! 偉そうに!」
「全くだ、肩書だけで判断するなんて」
ルイーズは御立腹のようだ。デットも同調する。
「いちいち気にするな。オレたちの敵はあいつらではない」
「フリード様は悔しくありませんの!? あんな奴らに舐められて!」
「全く気にならないな」
「……ふんっ! もう結構ですわ!」
ルイーズはオレの態度も気に入らないようだ。
こういうところはやはり子供だな。
持ち場にたどり着くと、周囲の様子を確認することにする。鎖を穀倉の屋根にかけそのまま上に昇り、高いところから周りを見渡す。
本に書いてあった通り平原地帯のようで、周囲に森や山は見えない。
前線の方向は道が舗装されておらず馬車では通れないようだ。徒歩で半日らしいが、陣地は目視では確認できなかった。
「何か見えましたか?」
「面白いものはないな。……次は陣地内を確認してくる」
「私も行こう」
下に降りエミリアの問いに答えると、周辺を確認するために移動することにした。
*
陣地内は、オレたちを含めた3つのギルドの他に、兵隊の一団も見える。
魔法使いの台頭とともに戦闘要員としての兵士は減少傾向だが、単純に人手が必要な時の為に常駐しているようだ。
……しかし、油断しているのか、はたまたやる気がないのか武器を置いて談笑したり、遊んだりしている。
「兵士はやる気がなさそうだな」
「ここまで敵が来ないと高をくくっているんじゃないか?」
確かに大群が攻めてくることはないだろうが、潜入に長けた者が少人数で来ることは考えられる。
戦闘が苦手な魔法使いでも、寝込みを襲ったり、火を放ったりはできるはずだ。
「……他のギルドの奴らがこちらの様子を見ているな」
流石は探知魔法。目を横に向けると確かに物陰に人が見える。
自己紹介の一件のせいで、オレたちは信頼どころかむしろ邪魔者扱いされているようだ。
「……今日はここまでだな。エミリアたちとも情報を共有しておこう」
情報収集を切り上げ、2人の下に戻ることにした。
*
オレたちは4人集まって、テントの中で今後について考えることにした。
「この陣地が警戒すべきは少数の侵入者だな。前線をすり抜けられる魔法となると限られてくる。デットなら気付けるかもしれないが、不眠不休で働かせるわけにもいかない」
「では、どうするのですか?」
「わざわざここまでくるとしたら食糧狙いだろう。奪うつもりか、火をつけるのか・・・。どちらにせよ対策が必要だろう」
「……結局、どうしますの?」
「耳を貸せ、作戦を伝える」
オレは他の者の顔を近づけさせ、考えを話した。
「そ、そんなこと勝手にしてもいいのですか?」
「オレは天才だからな、何をしても許される」
「他のギルドにバレたらどうしますの?」
「その時は、その時だな」
「相変わらず、行き当たりばったりだな」
3人は勝手に行動することは心配しつつも、作戦自体は異存がないようだ。
「作戦が決まったことだし、オレは寝るぞ。明日から行動開始だ」
「……もう」
オレは鉄のベッドを生み出し、横になった。
*
翌朝。
「263、264、265……」
オレは鉄のダンベルを生み出し、朝日を浴びながら筋トレしていた。
頭脳が優れていても体が追いついていなくては意味がないため、トレーニングは欠かせない。
普段は実戦で鍛えているが、ここでは他の任務が無いから困りものだ。
「きゃあ!? 御主人様、何してるんですか!?」
「ちょ、朝から何ですの!?」
テントから出てきたエミリアとルイーズは、オレの姿を見て驚く。
「見ればわかるだろう。トレーニング中だ」
「なな、なんで裸なんですか!」
「……脱いでるのは上半身だけではないか」
ここでは残念なことに服を簡単に洗えない為、汗が付かないように上半身は服を脱いでいる。
エミリアは掌で顔を覆うが、指の間から目が見えているぞ。
「……いくら何でも外でその恰好はどうかと思うが」
デットもテントから出てきて苦言を呈する。お前が言うな感があるが、寛大な心で許そう。
オレはダンベルを投げ捨てると、腕立て伏せに移行する。
「1、2、3……」
「やあ、Eランクギルド君っ! 朝から土下座の練習かいっ?」
どこからかめんどくさい声が聞こえてきた。時間の無駄なので無視しよう。
地面を見つめながら腕立て伏せを続けると、視界に靴先が映る。
「どうせなら靴を舐める練習もした方が良くないかいっ?」
……面倒臭いが一旦筋トレを止める。
「貴方、失礼ですわよ!」
「誤解しないでくれ、お嬢さんっ! 僕はこんな男に守られるガールズを心配してるだけさっ! 君ぃ! 女の子に代わりに怒らせるなんて、恥を知れっ!」
「フリード様も何か言ってやって下さいな!」
「オレはムカつくとかうるさいという理由で雑魚を虐めるほど落ちぶれてないのでな」
「なっ!? この僕を、雑魚だとっ……!」
「ぷっ、くく……」
オレの発言に、シャル何とかは面食らったようだ。
デットは後ろで吹き出している。
「許せないっ! 君、広場に来いっ! 僕が立場を教えてあげるよっ!」
「オレの言ったことが理解できなかったか? 目障りだからとっとと失せろ」
「……君が誘いに乗らないなら、これならどうだいっ!?」
「なっ!?」
シャル何とかは、エミリアに腕を回し抱き寄せた。
「な、何するんですか!?」
エミリアは腕を振り払うと、オレの後ろに隠れた。
「女の子にこんなことされても何もしないつもりかいっ? この臆病者めっ!」
「……いいだろう、相手してやる」
「ふふん、そう来なくちゃねっ!」
非常に面倒だがここまでちょっかいを出されては仕方ない。
この脳みそスカスカ野郎に現実を教えてやるとしよう。




