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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
サリア戦争編
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第36話 いざ戦場へ

「んーっ! は、入らない。もうちょっとなのに……」

「エミリア、何をやっている?」

「あっ、御主人様。荷物がバッグに入りきらなくて……」


 出発の日の朝。

 エミリアが2階の部屋からなかなか出てこないので様子を見に行くと大きなバッグと格闘をしていた。

 そのバッグの大きさたるや、大人が2人は入れそうだ。


「何が入ってるんだ、それ」

「えーと、怪我した時の救急箱、暇つぶしの娯楽、着替えとかです」

「怪我はエミリアが治してくれる、暇ならルイーズをからかえば良い。服装はデットを見習えば不要だ。手ぶらで問題ないだろう」

「問題大ありですよ!」

 エミリアは反論したが、少し荷物の中身を見直して、無事半分ぐらいになった。


「……調味料は要りますよね?」

「マストアイテムだ、持っていこう」

 バッグの隙間にいくつかの小瓶を詰める。

 どうやら準備完了したようだ。


*


 ギルド管理局の前に行くと、馬車が待機していた。

 馬車の横にはアルトちゃんが控えている。


「おはようございます、ヴァレリー様」

「ああ、おはよう。……行くのはオレたちだけか?」

「他のギルドの方々は既に現地に向かっています」

「先に行ってオレの出迎えの準備をしているという訳だな」

「……予定より出発が遅れています。早く乗ってください」


他の3人が馬車に乗り始める。

オレは、見送りに来ていたステラの方を向く。


「ステラ、しばらくホームを頼むぞ」

「はい、お兄様! お気をつけて!」


「ちゃんと寝る前に戸締りするんだぞ」

「はい!」


「食事は食べ過ぎに注意だ」

「は、はい!」


「おやつは1日3回までだ」

「はい……」


「それから……」

「御主人様、早くしてください!」

 ……まだ言いたいことはあるが仕方ない、出発するとしよう。


 オレが乗り込むと、馬車が動き出す。

 後ろを振り返ると、ステラが一所懸命手を振っていた。

 アルトちゃんは一度だけ、頭を下げた。


*


 馬車の旅は長旅になりそうだ。

 予定地まで、休憩を挟みつつ3日ほどらしい。


「ヴァノア地方は、羊の牧畜が盛んな平原地帯です。羊毛や乳の為に育てられていますが、結婚式など祝いの席では肉も振舞われます。……なるほどな」


「……一人で何を言っていますの?」

「今から行く土地の予習だ。情報は大切だぞ? 他にもワインが有名らしい」

「完全にグルメガイドじゃないですか」


 オレは、『ユグドラシル』から借りた本を熟読していた。

 ちなみに、ヴァノア地方とは今向かっている目的地、つまり戦場周辺だ。


「戦地に行くというのに、呑気だな」

「戦地と言っても、後方部隊だ。戦力として期待されていない」

「それもどうかと思いますが……」


 全く3人とも、真面目というか、心配症というか……。


「いいか、前線は第1ギルド『王家の盾』が守っている。当然探知系や暗殺系の魔法使いもたくさんいる。後方が脅かされるなど、第1ギルドが敗北した時だけだ。つまり、オレたちの出番はないと思っていい」

「そうだといいですが……」


オレの発言にエミリアは納得がいっていない様子だ。


「まあ、気を張っても馬車は早くならない。ゆっくり旅を楽しむとしよう」

「……」

 オレは再び本に目を通し始めた。


*


「皆、揃ったか?」

「ははっ、バルゼロ様!」


 国境沿い、サリア側の陣営ではバルゼロが魔法使いを集めていた。

 その魔法使いたちに向けて語りだす。


「今、ハレミアの前線部隊は『王家の盾』の魔法使い共が守っている。これを破るのは容易ではない」

「……」


「そこで、我々は後方の食糧庫を襲う。場所も魔法で探知済みだ」

「しかし、どうやって『王家の盾』をすり抜けるのですか? 探知系の魔法にばれずに行けるとは思えません」


「ユリアンの影を利用していく。奴の魔法はバレても探知系では手も足も出ない。魔法使いと言えども食事なしでは耐えられない。成功すれば勝利は確実だ」


 バルゼロの作戦に部下たちは顔を向き合う。


「侵入するのは数人に絞る。他の者は継続して挑発を続け、敵を留めよ。傲慢なハレミア国民共に、目に物を見せてやるのだ!」

「おおおっ!」

 部下たちは腕を振り上げ声を上げる。


「……」


 その様子を漆黒のローブの男、ユリアンは腕を組んで眺めていた。


*


 馬車は夜も走り続けていた。

 他の3人は長椅子に横になって眠っている。


「んんぅ、御主人様、そこは触っちゃダメなところです……」

 エミリアは怪しげな寝言を言っている。……聞かなかったことにしよう。


 オレは再び本をめくる。

 幸い今夜は満月で、文字を読むことはできた。


「後方だから安全? 本当にそうか? 魔法に絶対はない。……何が起こってもおかしくないはずだ」

 小さな声で自問自答する。


 オレは日中の発言を思い出す。

 3人を心配させないために安全と言ったが、正面突破が難しければ別の作戦をとるに決まっている。

 当然、後方が狙われる事も予測しなければならない。


 3人の命を預かっている上に、王都には妹もいる。ギルドマスターとして、為すべきことを為さなくてはな。


 そのためには、情報、情報だ。情報さえあれば、この天才が後れを取ることなどありえない。


 オレは少しでも情報を漏らさぬよう、何度も本を読み返す。


「御主人様……?」

 また寝言かと思ったが、エミリアは目を開けてこちらを見ていた。


「悪い、起こしてしまったか?」

「いえ……。まだ本を読んでいたのですか?」

 エミリアは体を起こすとこっちの椅子に移動し、肩が触れ合うぐらいの距離まで近づいてきた。


「もう読み終わった。オレもそろそろ寝るつもりだ」

「そうですか」

 エミリアは返事をするが、自分の椅子に戻らない。


「ん? どうした?」

「御主人様が眠るまで私も眠りません」


「……なぜそうなる」

「寝不足は体に毒ですから。体を気遣うのもメイドの役目です」

「さっきまで寝てたではないか」

「そ、それは……。一瞬ウトウトしちゃっただけです!」

 ……変な寝言も言っていた気がするが。


「とにかく寝てください! ほら、ほら!」

 無理やり上体を引き倒され、エミリアの膝の上に頭が収まる。


「……そこまで言うなら寝る。膝を借りるぞ」

 エミリアはにっこり笑うとオレの頭を撫でるように手を置いた。

 やれやれと思いながら目を閉じる。


 なっ!? お、おい、頭が動かせないレベルでがっちりホールドしてきたぞ!?


「おい、エミリア……!」

「ダメです、御主人様! ちゃんと眠らないと!」

「いや、首、首が……」

 どうやらオレを眠らせるために、締め落とすことさえ厭わないつもりらしい。


 ミシミシと頭のきしむ音を聞きながら、だんだんと気が遠くなるのがわかった。


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