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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
それぞれの家族編
35/198

第34話 新しい家族

 フリードがステラを見つける数分前の出来事。


*


 ここはギルド管理局の従業員用更衣室。

 仕事を終えた同僚の受付嬢たちが、服を着替えていた。


「ふぅ、今日も疲れたぁ〜」

「内勤とはいえこんな熱いとやってられないよーっ!」

 まったく、同僚たちはおしゃべりが好きですね。

 ……受付嬢で話が苦手な私の方が珍しいのかもしれないですが。


「アルトってば、話聞いてる?」

「……済みません、聞いていませんでした」

「もう、戦争に行かせるギルドを選定しろって命令あったじゃん? あんたも早く選ばないと時間切れだよ?」

 私は着替えながら同僚の話を聞く。


「私は残念ながらノルマ未達ですね」

「まったく、やる気ないんだから……。あっそうだ、いつも来るあの人でいいじゃん! 赤髪でたまに大声で高笑いしてる人!」


「ヴァレリー様のことですか?」

「そうそう! いつもあんたのとこにいるから、仲いいんでしょ?」

「どうでしょうか、わかりません」


「でも、ヴァレリーさんかっこいいよね〜。この前、怒鳴られてた時、すっと現れて助けてくれたし……」

「何、アネットってば、あの人に惚れちゃったの!?」

「べ、別にそんなんじゃないって。からかわないでよ、リタ〜。アルトの彼氏候補を取るつもりないし」

 2人はキャーキャーと騒いでいる。

 会話を聞いていると、頭が痛くなってくる。


「じゃ、最後の人はカギ閉めよろしくね!」

「あ、リタ。待って〜」

 2人はカギ閉めを私に押し付けて、バタバタと出ていった。

 ……やれやれ。


 私はゆっくり着替え終えると、更衣室を出る。

 それにしても、戦争へ向かわせるギルド選定ですか。


 ……実力ならヴァレリー様のギルドは申し分ないでしょう。

 実績は少ないですが、犯罪者捕縛や亜人・魔獣討伐など、Eランクでは難しいものばかり。

 しかし、戦争は数です。個人技では、戦争は勝てません。

 彼を向かわせて、万が一でもあったら……。


 その時、私はヴァレリー様を心配している自分に気付いてしまった。


 ……全く、あの人は私を惑わしてくれますね。

 私のような影の者にとって、太陽がそばにあると眩しいだけだと思っていましたが、どうやらその眩しさに心地よさを感じてしまっていたようです。


 ……考え事はここまでにして、帰りますか。

 カギを確認すると、従業員用の裏口からギルド管理局を後にする。


「……っ!」

 私は裏口を出た瞬間、小さな女の子にぶつかりそうになる。

 女の子はこっちに気付かなかったのか、そのまま走り去る。あの子は確か、ヴァレリー様を探しに来た……。

 ……なぜ、メイド服?


 まあ、ヴァレリー様の趣味に立ち入るべきではないでしょう。

 私は今見たことを忘れ帰宅しようとすると、張本人が目の前に現れた。

「おぉ、アルトちゃん、私服も可愛いな。……じゃなかった、ちっちゃいメイド服の女の子を見なかったか? この前オレを探しに来た妹なんだが……」


「あちらの方へ走って行かれましたよ」

「おお、ありがとう! 今度教えてくれたお礼にデートしよう!」

 ヴァレリー様は謎の言葉を発し、走り去っていった。

 ……太陽というより、嵐ですね。


 私は今度こそ、帰宅することにした。


*


 オレは、ステラの声がかすかに聞こえた路地裏に到着していた。

「助けて、お母様、お父様! ……お兄様ぁ!」

 ステラの悲痛な叫びがオレの耳に入る。

 複数の男が、ステラに群がっていた。

 オレは足に鉄をまとわせ、反発力を利用した蹴りをステラの上の男にぶち込む。


「ぐっほぉ!」

 男は路地裏の壁に叩き付けられる。


「て、てめえ、何しやがる!」

「うぅぅ、お兄様……!」

 可哀想に、ステラは服を破かれ、涙を流している。


「人の皮を被ったゴミどもが。生きて帰れると思うな」

「この人数に一人で何ができるってんがべっ!」

 しゃべり始めた男の顔面に鉄をまとった拳を叩き付ける。ぐるんと白目をむき、その場に崩れ落ちた。

 気絶した邪魔な男を隅の方に蹴り飛ばす。


「許さねえ、ぶち殺すっ!」

 男たちは一斉にこちらへ向かってきた。

 大した魔法も持っていないのだろう、ナイフや鉄の棒を持っている。

 鉄の武器はよける必要が無いので都合が良い。


「死ね!」

 浮浪者のナイフを避けずに、思いっきりカウンターの要領で顔面を殴りつける。

「がはっ!」

 予想しない攻撃を食らい、歯が飛ぶのが見えた。


 横からは別の男が棒を振り下ろしてきた。

 オレは胸に残ったナイフの柄を投げ捨てつつ、ガラ空きの腹に蹴りを入れる。

「ごぉぉ……」

 男は腹を押さえ、うずくまった。


 オレは鉄の棒を奪うと、その棒を錬金術でさらに鋭く長くする。

「な、なんだそれは!?」

 棒を胸の高さで横薙ぎに振り回し、残った男どもをまとめて切りつける。

「ぎゃああっ!」

 痛みで胸を押さえる男たちの顔面を、順番に鉄の拳で殴りつける。


*


「お兄様……」

 私の前では、殴り合いが行われていた。

 いや、殴り合いじゃなくて、一方的だ。お兄様の圧倒的な強さに男たちは手も足も出ないでいる。


「ゆ、許してくれぇ! もう、こんなことしないからよぉ!」

「幼い女の子を襲っておきながら、そんな言葉が通用すると思うか?」

 男たちは最後まで、徹底的にぼこぼこにされた。

 意識のある男はついにお兄様だけになってしまった。


「ふぅ」

 お兄様は一呼吸置くと、私の方を向き、こちらに歩いてきた。

 怒られる、そう思った。

 王都は危険だと忠告を受けてたのに、こんなことになって……。


「ステラ」

「……っ!」

 お兄様は私を見下ろし、声をかけてくる。

 私は謝ることもできずにぎゅっと目をつぶってしまう。


「オレが悪かった。自分で危険だと言っておきながら目を離すなんて……。幼いお前にこんな思いをさせて、オレは、本当に最低の兄だった……!」

 お兄様の大きな腕がぎゅっと私を包み込む。


「……お兄様、お兄様ぁっ!」

 私は大声を出して泣いていた。


*


 オレは、ステラの肩に上着を被せる。


「その恰好じゃ歩けないな。オレの背中に乗れ」

「はい、お兄様……」

 やっと泣き止んだステラは、屈んだオレの背中に体重を預ける。


「御主人様!」

 やっと追いついたらしいエミリアたちがこっちに駆け寄ってきた。

 周囲の状況を見てある程度察したのか、特に何も聞いてこない。


「もう終わった。ホームに帰ろう」

「……はい、御主人様」


 太陽はほとんど見えなくなり、空はやや暗くなっていた。

 誰も言葉を発することなく、ホームの方へ歩いていく。

 だが、途中でエミリアが大きな声を出す。


「あっ!?」

「どうした?」

「御主人様、済みません……。ドタバタしてて、今日は夕食の準備ができていませんでした」

「……仕方ないな、今日は外食にするか」

「外食と言っても、当てはあるのか?」

「それなら私、『レストラン・ポー』へ行きたいですわ!」


 レストラン・ポーといえば、貴族に人気の高級レストランだ。

 高い金額に見合った食事を提供してくれる。


「悪くないな。家族が増えたし豪勢にお祝いするとしよう」

「家族……」

 ステラがオレを掴む腕にぎゅっと力を入れてくる。


「おい、歩きにくいぞ」

「えへへ、ごめんなさい」

 口では謝るが力は入ったままだ。

 やれやれ、妹というのはとにかく手がかかるものらしい。

 ふと横を見ると、エミリアが微笑んでいる。


「……どうした?」

「ふふふっ、何でもありません」

 なんなんだ、全く。

 ……まあ、元気ならいいか。


 オレは背中にぬくもりを感じながら、そう考えることにした。


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