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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
それぞれの家族編
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第32話 妹よ

 王都ハネスと各地方都市は、権力者と商人たちの弛まぬ努力によって馬車が通れるように舗装された道で繋がり、維持されている。

 利用者は専ら商人や軍隊だが、定期的に観光客や旅人用の馬車も運行している。


 今日も、1台の観光馬車が王都へたどり着こうとしていた。

 馬車からは丁度、王都の白い城壁が見え始めている。馬車から少女がひょこっと顔を出す。


「うわぁ、すごい大きさ! あれが、王都ハネス……」


 少女は、初めて訪れる王都への期待に胸を膨らませていた。


*


 無事に王都についた少女は、建物の並ぶ街並みを眺めている。


「建物がいっぱい! それに大きい!」

 目につくもの全てが新鮮といった感じで、上を見上げながら歩いている。

 重たそうなバッグを抱えていたため、見上げすぎて後ろにひっくり返りそうになる。


「馬鹿野郎、ちゃんと前見て歩け!」

「あっ! ご、ごめんなさい……」

 少女は他の歩行者にぶつかりそうになり、怒鳴られてしまう。


「人もお店もいっぱいだ。やっぱり王都ってすごい。ここに、私のお兄様が居るんだ……」

 少女は気を取り直すと、王都の中心へ向かって歩き出した。


*


 オレはロビーの椅子に踏ん反り返り、最新の賞金首リストを眺めていた。


「食い逃げ、窃盗、覗き、ポイ捨て……。何だこのリストは? 軽犯罪ばかりではないか」

「重犯罪が少ないのは結構なことだと思うが」

 オレの愚痴にデットが答える。


「隣国を警戒するため、兵隊も高ランクギルドも出払っていると聞きました。そのせいで王都の治安が悪くなってるみたいです」

 エミリアが朝食をテーブルに置きながら話す。

 全く、抑止力がないとすぐに雑魚どもが湧いてくるな。

 オレはリストを一旦置き、朝食のパンとワインを口に運ぶ。


「兵は居なくても天才は居る。雑魚リストはすぐに囚人リストに変えてやろう。とりあえず今日の目標は10キルといったところか」

「キルしたら囚人を通り越しちゃいますよ……」

 オレは手早く朝食を済ますと、街に繰り出すことにした。


*


 ホームを飛び出して、数時間後。

 お昼を少し回ったほどの時間に、オレは3人の犯罪者を捕らえまとめてギルド管理局に突き出していた。

 目標には届かなかったが、お腹が空いたので仕方がない。


「お疲れ様です、ヴァレリー様。”魔王の胃袋”バンクス、”神盗士”ジョン、”覗帝”ビリー。3人で7万5千ベルの報酬です」

 ……軽犯罪者のくせに二つ名が豪華すぎるだろ。


「ありがとう、アルトちゃん。それにしても、最近はあんまり良い仕事がないな。一緒に飯でも食いに行くか」

「デートへの誘い方が唐突ですね。会話が下手すぎて驚いてしまいましたよ」

 ダメだったか。


「あの……済みません」

「ん?」

 後ろから声をかけられ振り返るが、誰もいない。

「こっちです! 下です!」

 目線を下げていくと、小さな女の子が立っていた。


「邪魔だと言っていますよ」

「ああ、悪い。この窓口に客が来るとは思わなかった」

「いえ、ごめんなさい」


 オレは横に移動すると、少女はオレに代わって窓口の前に立つ。

 少女を観察すると、大きなバッグを背中に背負っている。旅人か、観光客か……。幼すぎる気もするが、一人なのか?

 窓口を覗いているが、背が低いため少し背伸びしたような恰好になってしまっている。


「あの、初めて王都に来ました、ステラと申します。人を探しているのですが、ここで依頼を聞いていただけると教えてもらって」

 どうやら探し人がいるらしい。言葉遣いも背伸びしたかのように丁寧だ。


「良かったですね。お仕事の依頼ですよ」

「……オレが受けるのか?」

「私を食事に誘うほど時間が余っているのでしょう?」

 やれやれ、仕方ないな。オレは少女の方を向く。


「探し人ってのはどんな奴だ? 顔とか、特徴とか」

「ごめんなさい、顔はわかりません。探し人は兄なのですが、私が生まれる前に王都に来たみたいで……」


 オレの天才的予測によると、少女は12、13歳ぐらいだろうか。

 つまり10年以上前に王都に来た男を碌な手掛かりなしで探すという訳か。

 顔も知らないという事は一度も帰っていないのだろう。まったく、探し人は最低の男らしい。


「ひどい男だな、君の兄貴というやつは。こんなに可愛い妹を放っておくなんて」

「か、可愛いだなんて、そんな……」

 少女は顔を赤らめる。この程度の軽口で、純粋なことだ。


「まあ、王都にいるなら探せばそのうち見つかるだろう。ちなみに兄貴の名前は何て言うんだ?」

「はい、名前は『フリード・ヴァレリー』です」

「……え?」

 最低の男は、オレであった。


*


 オレは、突如現れた妹を連れてギルドホームへ帰ってきていた。


「初めまして、ステラ・ヴァレリーと申します。皆さま、よろしくお願いします」

 ステラは丁寧に自己紹介し、ペコリと頭を下げる。


「きゃー! 可愛いっ! 私はルイーズですわっ!」

「る、ルイーズさん、よろしくお願いします……」

 ルイーズは異常に興奮して、ステラに抱き着く。

 ギルド内で一番背の低いルイーズだが、ステラはそれより更に小さい。妹でも出来た感覚なのだろうか。


「御主人様に、妹様なんていらっしゃったんですね」

「オレも顔は見たことなかったがな」

 親からの手紙で存在は知っていたが、王都に来てから一度も帰っていない為、急に妹と言われても正直実感が湧いていない。


「……本当にお前の妹なのか? 全然似ていないぞ」

「そうですね。言葉遣いも丁寧ですし、可愛らしいですし……」

 ……かなり失礼なことを言っていないか?


「……それで、ステラ。なんでわざわざ王都に来たんだ? 今まで親ともほとんど連絡を取ってなかったんだ、理由があるんだろう?」

 オレは、椅子に座るように促して、問いかける。


「はい、それは……」

 ステラは言いにくそうにしている。

 オレは、嫌な想像が頭を巡ってしまう。


「ま、まさか、親が死ん――」

「いえ、2人とも元気です。最近は健康の為にウォーキングを始めました」

「ああ、そう……」


「王都に来た目的は、お兄様に一度会ってみたかったからです!」

「こんな可愛い妹を放っておく兄なんて、会う価値ありませんわ!」

 まったく、妹が来てからオレの評価は下がる一方のようだ。


「いえ、お母様が言っていました。お兄様は、家族のため、家計に少しでも負担をかけないよう気を使って出ていったと」

 周りから、へぇ、といった目をこっちに向けられる。

 恥ずかしいから辞めていただきたい。


「……実際に会ってどうだ? 感動したか?」

「はい、ギルドマスターになっているなんて、すごいです! 思い切って王都に来て、本当に良かったです!」

 キラキラと純粋な目をこちらに向けている。純粋過ぎて、危うさを感じさせるほどだ。


「まあ、用事は良くわかった。ホームの部屋が空いているから、好きに使っていいぞ。折角だし、王都を観光するといい」

「ありがとうございます、お兄様!」

「私が王都を案内いたしますわ!」

 どうやらルイーズはステラが気に入ったようだ。


「子供だけじゃ危ないから、エミリアかデットもついてやってくれるか?」

「御主人様は妹様と過ごされないのですか?」

「日中は難しそうだな。夕食は一緒に過ごせるようにするつもりだが」

「……わかりました」


 正直、接し方がわからないという部分もあるが、やはり女の子同士の方がステラも気が楽だろう。

 ……もう少し仕事を増やして、お土産でも買ってやるべきか?

 オレはそう考えながら、妹の様子を眺めていた。


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