第2話 再会
「ふむ……なかなか悪くないな」
ギルド設立許可を得た次の日、オレは物件を探していた。
今までは一人暮らしであったため小さな部屋を借りていたが、流石に同じ場所をギルドホームにするわけにはいかず、不動産屋に紹介された良さげな物件を下見に来たという訳だ。
今下見をしている2階建ての建物は、1階が共用スペース、2階が個室となっており、大体10人ぐらいは問題なく住めるかという、ホームとしては小~中規模の建物だ。
「どうですか、旦那様。お気に召していただけましたか……?」
「うーん、そうだな」
付き従う不動産屋の男が低姿勢で聞いてくる。オレは腕組みをして考える。
正直、この建物はかなり良い。王都の中心に位置し、王城やギルド管理局も近い。設備も充実しており、風呂やキッチンも直接水道を引きこんだ最新式だ。
それだけに、4億と言う金額が惜しい。
以前、医者相手に『錬金術』で作ったメスや注射針を売って荒稼ぎしたことがあるため、払えない金額ではない。だが、最近は個人で受けられる仕事も少なく、財産のほとんどを失うのは今後のことを考えると悩ましいところだ。
……だが、この天才が、金が惜しいなどと情けないことが言えるだろうか? いや、ありえない。
「かなり気に入った。さっそく契約の話をしたいのだが」
「本当ですか! では早速こちらで話を……」
王都といえども高額な取引はそんなに多くないのであろう。オレの返事を聞いて、男は興奮気味に、しかし低姿勢のまま話をしてくる。
「お支払いはどうなされますか? 私共では最大で5年払いまで可能ですが……」
「一括で」
「ええっ!? 一括!? 4億ベルですよ! 一括!?」
「ああ。天才に二言はない」
オレは全財産を生贄に、小太りの男を驚かせることに成功した。
*
翌朝。
1年かけて貯めた資金をほとんど吐き出したオレは、再びギルド管理局に来ていた。
「アルトちゃん、おはよう! どうだ、オレの出した依頼は。もう200人ぐらいは応募殺到したか?」
実は一昨日のうちに、オレはある依頼を出していた。内容は『新ギルド、メンバー募集! 誰でも可!』である。
天才のオレが募集をかけたのだから、国中から応募が集まっているに違いない。
「……残念ながら、全く。何故でしょうか。不思議ですね?」
まったく不思議そうなそぶりも見せず答える。
「そうか、仕方ないな。まあ依頼をこなしながら気長に待つか」
金もなくなったし何か依頼でも受けるかと掲示板に向かおうとしたとき、一人の女性が窓口に近づいてきた。
「あの。この求人について話を聞きたいのですが……」
掲示されていた1枚の依頼書をアルトちゃんに渡す。オレは窓口から少し離れ、様子を観察することにした。
亜麻色の髪をポニーテールにした、落ち着いた雰囲気の女性だ。年齢はオレと同じぐらいに見えるが、静かな口調で話す姿はどこか大人の気品も漂わせている。
しかし、どこかで見たことがあるような。
腕組みをして記憶を遡っていると、アルトちゃんが手招きをする。
「良かったですね。応募者第1号ですよ」
「本当か!? 君がオレの求人を?」
「あっはい。少し興味があって……あれ? もしかして、フリード君?」
「なぜオレの名を? ……あっ、エミリアじゃないか」
名前を呼ばれて完全に思い出した。
目の前の女性はエミリア・シルベル――魔道学園時代の同級生だった。