第1話 ギルド設立
「おっはよう、アルトちゃん! 今日も相変わらず美しいな」
「これはヴァレリー様、おはようございます。朝早くから元気ですね」
「天才とは常に元気なものだからな」
朝7時を過ぎたころ、オレは賞金首を引き渡すためにある建物に来ていた。
ここはギルド管理局。国内ギルドの情報やメンバーの管理が主な仕事だ。
それとは別に、住民や貴族の依頼を受け付けて、難易度を考慮し各ギルドに振り分けたりフリーの依頼として掲示する、といった業務もこなしている。
賞金首も依頼の1つであるためここを訪れたというわけだ。
「それで、本日はどういったご用件でしょうか」
「見ての通り、賞金首を引き渡しに来た」
ジャラ、と気絶した男を鎖で持ち上げ見せつける。
「何度も伝えていますが、引き渡しはこちらの窓口ではありませんよ」
「フッ、とらえた獲物は見せびらかしたくなるものだろう?」
「家猫ですか貴方は。……手続きをしておきますから、まずは引き渡してきてください」
はぁ、とため息をついてクールな受付嬢は後ろを向き、書類を用意し始める。仕事の邪魔にならないように後ろでまとめた銀髪がかすかに揺れている。
やれやれ、相変わらず愛想のないことだ。美人だし仕事もできるので個人的には気に入っているが、これでもう少し愛想がよければな……。
「引き渡してきたぞ」
男を預けて再び戻ってくると、ちょうど手続きが終わったようで金貨の入った袋と1枚の紙が窓口に置かれている。
「こちらが報酬の120万ベルになります。間違いなければこちらの用紙に署名を」
「はいはい署名ね……。フリード・天才・ヴァレリー……と。はい、書けたぞ」
「ありがとうございます」
アルトちゃんは書類を受け取ると、流れるような動きで『天才』の文字に斜線を引き、棚にしまう。
「ヴァレリー様、もう一つお渡しするものが」
報酬を懐に収め帰ろうとしたところで呼び止められると、丸められ紐で丁寧に縛られた羊皮紙を差し出される。
「なんだこれは、ラブレターか?」
「いえ、きっとそれよりも嬉しいものですよ」
それを受け取ると、その場で開き中の文字に目を通す。先頭にはオレの名前が書いており、難しい言葉がいくつか続いた後に最後にはこう書いてあった。
――よって、この者のギルド設立を認めるものとする。
「以前申請していた、ギルド設立を認める許可証です。おめでとうございます、ヴァレリー様」
「おお……やっと来たか。ついに野望の第一歩を踏み出せたぞ! くっくっく、はーっはっはっ!」
オレはあまりの嬉しさに天を仰いで大笑いする。
「……嬉しさの表現は帰ってからして頂けませんか」
受付嬢の小言も、周りからの痛い人を見る目線も、オレの行動を妨げることはできなかった。