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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
竜の復活編
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最終話 これから

 竜を討伐してから、約一か月後。

 時間が経つのは本当に早い。ハレミアにはまた春が訪れ始め、柔らかい暖かさが朝を包み込む日が多くなった。


「えーと、確かこの辺に……。お、あったあった」


 オレは王都から見て南西にある懐かしの温泉街ジェロへと足を運んでいた。

 王都の復興もほとんど終わりひと段落着いたという事で、ついにオレは再び恩人の眠るところにやってきたという訳だ。


 かつて山賊が根城としていた洞窟の最奥で土を掻き分けていると、やっと目的のものを見つけることが出来た。

 輝きを失わない黄金の塊、オレが恩人の為に作り出した棺だ。


「おーい、2人とも! やっと見つけたぞ」


 オレは別の場所を探していたセシリアと、付き添いのエミリアに声をかける。


「この中に、ワーグナー様が……」


 セシリアは黄金の棺を見て、小さく呟く。彼女にとっても関わりの深い存在だ、思うところがあるのだろう。


「今はオレの錬金術で密封してしまっているが、開けてしまおうか?」


「いえ、このままで問題ありません。世界を救った勇者様の作った棺です、きっとお喜びになっているでしょう」


「……そうだといいがな」


 まあ、身内である彼女がそう言うなら、そのままにしておこう。

 オレは錬金術で台車を生み出すと、まずは洞窟の入り口まで引っ張り出すことにした。


*


「ふう、あとはいいか?」


「はい。ありがとうございます、勇者様」


 洞窟の外に出ると、お昼過ぎだがまだ太陽は高く暗闇に慣れたオレの視界を驚かせる。


 片手で目の上に庇を作りつつ、外に待機していた第1ギルドの手の者に棺を預ける。


「では、これから私たちは王都に戻ります。改めて国葬で奉じるつもりですので、また日時が決まりましたら連絡いたします」


「ああ、よろしく頼む」


 葬儀の招待を待つというのも変な話だが、恩人なので出ないわけにはいくまい。


 そうしている内にも棺は用意されていた馬車に乗せられ、もうすぐにでも王都に向けて出発しそうだ。


「……やはりただの黄金の箱じゃ不格好だな。ちょっと失礼するぞ」


「ご、御主人様!」


 オレは馬車に乗り込むと、黄金の塊を見下ろす。


 そして、蓋の部分にあたる滑らかな面を指で撫でると、まるで削り取られるように溝ができていく。


「……前は名前も聞けなかったからな」


 オレはそのまま指で、恩人ワーグナーの名を刻む。更にそこにミスリルを流し込むことで、棺にはミスリルで名が画かれた格好になった。

 ……このミスリルは、オレの成長を恩人に見てもらうという意味も込めてある。


「よし、完璧だ。安全運転で頼むぞ」


「はい、勇者様。……失礼いたします」


 こうして、セシリアと第1ギルドは王都へと戻っていった。


*


 馬車はやがて見えなくなり、あとにはオレとエミリアだけが残された。


「……ふう、なんだか肩の荷が下りた気がするな」


「でも、良かったですね、無事に終わって。予言があるからといっていつも傷ついてばかりで、本当に心配させられました」


「ふっ、何を言っている? 予言が終わったからといって、この世から犯罪が無くなったわけではない。これからもしっかりオレを助けてくれよ?」


「も、もう! またそんなことを言って!」


 エミリアは反省の色が見えないオレに呆れるが、予言のせいでオレは勇者になってしまったからな。

 ならばそれに見合った活躍を今後も続けていかないとな。


「さて、これからどうしますか?」


「そうだな、仕事も終わったし結婚するか」


「はい……って、ええ!? け、けっけけっ!? 結婚っ!?」


 オレの返事にエミリアが壊れてしまう。おかしいな、そんな変なコトを言ったつもりは無いのだが。


「け、結婚って! 私が、ごご、御主人様と、ですか……?」


「ああ、そうだ。前から考えていた、役目を終えたら答えを出そうとな」


 今まで助けてもらっていながらも、オレから何も言えなかった。恩人との約束のせいで、激闘の未来があることはわかっていたからな。

 だが、それも過ぎ去った。このオレが珍しく約束を守ったのだから、多少のわがままぐらい構わないだろう。


「私、でも……全然釣りあいませんし……! 無力ですし……!」


「……オレのことが嫌いなら気遣いは要らないが」


「す、好きに決まってますよ! ずっと前から!」


「……! そうか、オレもだ」


「その、あの、その……よろしくお願いします」


 正直迷惑をかけてきたので、断られたら諦めるつもりだった。心のダメージは別として。

 だが、エミリアはオレに嬉しい返事をくれた。竜討伐の報酬に、これ以上のものは無いだろう。


 オレはエミリアの手を取ると、『錬金術』でミスリルを生み出す。そして、細く白い指に、優しくミスリルのリングを作り上げた。

 同じものを自分の指にも作り出すと、それを彼女に見せる。


「これでお揃いだな」


「嬉しいです、本当に……! こんな夢みたいな日があっていいんですか……?」


 エミリアはリングの輝く手を顔に持っていくと、ついには泣き出してしまった。

 オレはその小さな体を上から包み込む。


「……こんなところで話すのもなんだし、温泉街に行かないか? 折角だし今夜は泊まっていこう」


「はい……。でも、他のギルドメンバーが帰りを待ってますよ……」


「子供ばかりとは言え、勝手に何か食べて過ごすだろう。オレたちは大人だけで過ごすとしよう」


「お、大人って……」


 まだ何か言おうとするエミリアを無視し手を引くと、麓の温泉街へ向かうことにした。


*


 翌日。

 仕事も他のメンバーのことも忘れ久しぶりにゆっくりと過ごしたオレは、エミリアと貸し切りの馬車で王都へと向かっているところだ。

 オレは休息のおかげでつやつやの元気いっぱいだが、反面エミリアは疲れているようにも見える。


「なんだか疲れているな。寝不足か?」


「だ、だって、御主人様があんなに激しく……! 私、初めてだったのに……!」


 オレが問いかけると、エミリアは顔を真っ赤にしてこっちを睨みつけてくる。


「……悪いな、初めてはお互い様だ」


 誰にでも失敗はある。この天才といえどもな。だが、尻込みせずに前に突っ込んでいける者でなければ天才を名乗れない。

 ……今回はその勢いが仇となってしまったという事だな。反省して今夜に活かすとしよう。


 エミリアを宥めていると、ようやく王都に到着したようだ。城門を通り抜け、いつものように王都の中心へと進んでいく。


 オレが馬車を降りると、エミリアが腕に絡みついてくる。……今までにはない行動だな。


「……怒ってないのか?」


「別に怒ってはいません! ただ、もうちょっと……」


「もうちょっと、何だ?」


「……知りません!」


 ……やっぱり怒っているんじゃないのか?

 エミリアは顔をプイッと背けるが、手はしっかりオレの腕をホールドしたままだ。


 まあよくわからないが、怒ってないというならそれを信じるとしよう。


「……それで、聞きそびれちゃいましたけど、今後はどうしていくんですか?」


「竜を倒したとはいえ、それ以外は何も変わっていない。王都の復興が完全に終わったらまた仕事を探し始めるとしよう」


 予言が終わったことで、今後のビジョンも今のところは特にない。

 まあ、副産物として大切なものがたくさん増えたので、それを守るために働き続けないとな。


 そうしているうちにギルドホームへと帰り着いた。そのまま中に入っていこうとするが、ポストに封筒が刺さっていることに気付く。


「……やれやれ、郵便物の回収ぐらいはしておいて欲しいものだな」


 そう言いながら、封筒を抜き取る。手紙とは珍しいが、一体なんだろうな。


「……! ふっふっふ。エミリア、どうやらこれから忙しくなるのは確定のようだ」


「ど、どうしたんですか?」


 差出人を見ようとして封筒を裏返した時、ネタバレを食らってしまい、つい笑みがこぼれてしまった。

 ……封筒には、ギルド昇格のお知らせ、と記載されていたからだ。


「す、凄いです! まさか、こんな短期間で……」


 やれやれ、世間は天才を放っておかないという事か。オレはこれから平穏に過ごそうと思っていたというのに。


「これは忙しくなる前に、まずは祝いをしないとな。竜の討伐祝い、ギルド昇格祝い、もうすぐ設立2周年記念……やることが盛りだくさんだ! ……それに、結婚祝いもな」


「もう、御主人様……盛り上がりすぎです」


 呆れる恋人の手を引くと、まずは新しい未来への第一歩を踏み出すことにした。

 最強になったばかりのオレのギルド。ここからこの天才が、予言を超えた新しい未来を作っていくのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

天才錬金術師の物語、これにて完結となります。


もし良ければ評価、感想を頂けると今後に活かせますし、何よりも私が喜びます。


重ね重ねになりますが、拙い作品に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。

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