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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
竜の復活編
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第195話 運命

 竜を操っていた男の上半身を切り落としたオレは、息も絶え絶えのそいつを見下ろしながらミスリルの鎧を脱いでいた。

 いつの間にかかなり緊張していたらしく、鎧の中には嫌な汗をかいている。


「……終わったのか?」


「ああ、あっけなくな。人間に滅ぼされた生物を操ってオレに勝とうなど、愚かな考えだったという事だ」


「いや、ミスリルを操れるお前がいなければ勝てなかっただろう」


 セルジュークはオレの横に立ち、老人と動かなくなった竜を睨みつけている。

 もう手を下さなくても、すぐに死んでしまうだろう。


「御主人様ー!」


「おい、こっちに来るな、目の毒だ」


 後ろの方からエミリアの声が聞こえ、振り返ると他のメンバーとともに駆け寄ってくる姿が見えた。

 竜の生々しい死体など見せたくはなかったが、そんなオレの気持ちもお構いなしに接近する。


「くく、くくく……!」


「うわ、上半身が笑ってる!」


 もう数分で潰える命だというのに、老人はオレたちの姿を見て笑い始めた。何かまだ奥の手でもあるのか?


「……! 血と死肉の腐ったような臭いがするニャ! これは、亡者! それも大量に!」


 いつの間にか紛れ込んでいたシャオフーが鼻をすんすんと鳴らした後、声をあげる。

 だが、確かに彼女の言う通り、鼻につく臭いが北の方から漂ってきた。


「見てください、あれ!」


「亡者の群れ……!?」


 他の者も次々に異変に気付いたようで、目線が北の方へ向く。

 その方角には、土煙をあげながら王都へ迫ってくる大軍が見えた。この距離では人型の影が辛うじて見えるだけだが、亡者で間違いないだろう。


「ふん、竜以下の存在がいくら集まったところでもはや脅威ではないだろう。これにかすかな希望を乗せて笑みがこぼれたとしたら滑稽だな」


 鍛えたられた兵士以下の亡者が集まったところで、オレたちはおろか、王都の衛兵だけでも対処できるレベルだ。

 まあ、あとは広範囲攻撃の得意な奴らに任せよう。オレは疲れたからな。


「くくく、貴様の力さえあれば! うがああぁっ!」


「……! まだそんな気力があったか!」


 老人は不敵な笑みを浮かべたまま、腕の力を振り絞って上半身だけで襲い掛かってきた。

 だが、もはや死にかけの体。足元に飛んできた上半身を蹴り飛ばす。


「……?」


 だが、完全に命中したと思われたオレの蹴りは、何も抵抗が無くそのまま空中に振り上げられる。

 いったいどこに消えた?


「きゃあああっ! 御主人様、お腹!」


「ん? ……うおおおおっ!」


 オレは自分の真下に目線を下げると、何と腹部に先ほどの老人がくっついていた。


 竜と同化していた時と同じようにオレのへその下あたりから上半身を生やし、下からオレの顔を見返している。


「ぐっ、気色悪い!」


「くくく、まさかミスリルを操れる者が存在するとは予想できなかったが、ならば貴様と同化するまで! 我が『融合』の力でお前の体を頂くとしよう!」


「くそ、離れろ!」


 オレは老人の脇を掴み、体から引っ張り出そうとする。だが、完全に密着し、オレの腹ごと引っ張られる感覚がするだけだ。

 そして、更に気持ちの悪いことに、その老人の脇腹を触る感覚さえ、オレの体に伝わっている。


「無駄だ、我が『融合』は溶けて混ざり合い、1つになる魔法だ! 切り落とされでもしない限り、離れることは無い!」


 老人はそう言いながら、自らの腕を確かめるように眺める。そして集中するようなそぶりを見せると、手のひらから鉄を生み出し始めた。


「これは、お兄様の魔法!?」


「ふはははは、素晴らしいな、この魔法は! そして竜ほどではないが、若さに溢れる生命力! 我が読み通り、貴様が最強の魔法使いのようだな!」


 まさか、『錬金術』まで使えるようになっているとは、恐ろしい魔法だ。

 そしておいぼれと一体化した事実が、オレに吐き気を催す不快感を与えてくる。


「ヴァレリー様!」


「フリードさん!」


「……心配するな、大丈夫だ」


「うう、どうすればいいんですの……?」


 オレは駆け寄ろうとするメンバーを手で制する。こんな気色の悪い姿のオレに近づけさせるわけにはいかない。


「くくく、強がっても貴様の意識は持って30分だ! 竜のようにすぐに意識を失い、あとは貴様の全てが我の物となる!」


「っ!? そんな、御主人様!」


「ふん、気色悪い話だな」


 あと、30分だと? その後で、オレを支配するだと?


 ……間抜けな奴だ、30分もオレがこのままぼんやりしていると思っているらしい。


「くくく、もうすぐ我が……!? ぐおおお!?」


「ごっ、御主人様っ! な、何をっ!?」


「きゃあああっ、お兄様ーっ!」


 オレは手に持ったままだったミスリルのナイフを、腹部へと突き刺した。

 さっきの竜と同じだ。引き抜けないのなら、抉り取ればいい。余りにも簡単すぎる答え、これが最終問題だとしたら、やはりあっけないな。


「ぐうう、貴様、止めろ! 我と共に死ぬつもりか!?」


「ぐふっ! ……残念ながら死ぬのはお前だけだ。生命力には自信があるからな……!」


 こいつの肉片が体に残っていると気分が悪い。オレは自分の腹部へ深々とナイフを沈み込ませていく。

 最悪、体を切断する覚悟だ。


「とっととオレの体から出ていけ……!」


「ぐうううぉぉぉっ……」


 オレはついに老人を引きはがすことに成功すると、地面に投げ捨てる。べちゃりと嫌な音が聞こえた。

 だがオレも腹に力が入らなくなり、後ろへと倒れてしまう。


 自分の腹にナイフを突き立てたのは初めてだが、予想以上に体力を奪われるな。痛みもひどいが、それよりも思考がまとまらない。


「御主人様!」


「……ああ、エミリアか? 血がついてしまうぞ……」


「嫌ああっ、お兄様!」


「おい、ステラ……! 見るな、今のオレの姿は子供にはまだ早い」


 心配かけないように冗談を言い、頭を撫でようとするが、手を持ち上げることが出来ない。

 ……おかしな話だな、手は傷ついていないというのに。


「失血死してしまう、早く病院へ連れて行くんだ!」


「デット、いるか……? 部屋にあの時の、紹介状が……。オレの体に使うなんて、勿体、ないが……」


「もう喋るな!」


 はっきりというのがオレのモットーのはずなのに、言葉が出ない。

 周りを見渡そうとするが、視界はぼんやりと暗く大切な人間の姿が見えない。


 ただ、自分の意識が失われていくのだけははっきりと分かった。


*


「ここは……?」


 オレは、ゆっくりと目を開ける。どうやら夜のようで、静かな暗闇と視界の端に小さなろうそくが見えた。


 ここは、ベッドの中だろうか。


 ……! 竜はどうなった? 老人は? オレの体は?


 下半身に意識を集中すると、腹部には全く痛みは無く、太ももあたりに何かがのしかかっているのが感じる。

 のしかかっているというより、横からもたれかかっているといった方が正しいだろうか。右と左、両側からだ。


「すー、すー」


「……エミリア? それと、ステラか」


 上半身をゆっくり起こすと、蝋燭頼りに太ももを見る。

 どうやら2人はオレの太ももを枕代わりにして、寝ているようだ。この天才の太ももを堪能するとは、なかなか貴重な体験だぞ。


「……んん? ごしゅじんさま?」


「おっと、起こしてしまったか。悪いな」


「……!? 御主人様、御主人様っ!」


「うおっ! おい、苦しい!」


 ゆっくりと目を開けたエミリアは、突然オレの首に抱き着いてくる。そのせいで、反対側のステラも起きてしまった。

 目をこすりながら、オレの姿を確認している。


「悪い、ステラ。エミリアが急に抱き着いてくるから……」


「う、う、う、うわああーん! お兄様ー! 無事で、よがっだでずううううぅ!」


「おい、鼻水をつけるな!」


 ステラは突然、大量の涙を流しながらオレにボディプレスを仕掛けてくる。何だというのだ、一体。


「目が覚めましたか!?」


「フリード様!」


「フリード、無事か!」


 声が聞こえたのだろうか、部屋の隅の扉がバンっと大きな音をたて、他のメンバーも一斉に入ってきた。

 小さい部屋が一瞬で人混みで埋まってしまう。


「お兄様、死んでしまったかと思いましたぁぁぁっ!」


「……そうか、オレは無事だったか」


 自分の腹をさすり、下半身がちゃんとついていることを確認する。

 どうやら、今回も全員無事だったようだな。


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