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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
竜の復活編
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第194話 本体

 気絶したセシリアを連れて城壁まで戻ってきたオレは、他のメンバーが避難していないことに気が付いた。


「おい、何をやっている! 早く離れるように言っただろう!」


「だって、御主人様が心配で……! それに、あんなに大きな竜に襲われたら、どこへ逃げても一緒です!」


 エミリアは俺に反論してくるが、今は言い合っている暇はない。

 竜が墜落したからといって、脅威が去ったわけでは無いのだからな。


「シャオフー、こいつを預かってくれ」


「おい、何でセシリア様が気絶しているニャ!?」


 オレは無理やりセシリアを押し付けると、城壁から竜へと鎖を伸ばす。

 ……それにしても、やはり大きい。城壁にタックルでもされたら、一撃で穴が開いてしまうだろう。


 竜はまだ何が起こったかわかっていないようで、背中に腕を伸ばしている。

 隙を見てオレも背中へ乗り込むと、予想通りセルジュークが立っていた。


「何故ここにいる?」


「……国境沿いで地震が起きれば、我々も調査をする。竜の存在に気付き、聖女の命で私が派遣されたのだ」


「そうか、流石だな」


 同盟を組んだばかりだというのに早速最高戦力を派遣してくれるとは、聖女に媚びを売っていて正解だったな。

 元々羽の生えていた部分は焼け焦げて黒ずんでいる。広範囲の雷撃が、鱗のない部分を襲ったのだろう。


「……羽には私の雷撃が効いたが、他の部分には通用していない。時間が経つとこいつが再び動き出すぞ」


「ああ、そうだな。頭の部分にこいつを操っている張本人がいるらしい、そいつを止めよう」


 オレたちは頭の方向へ、体の上を駆け抜ける。どうやらこいつは鈍感のようで、いまだに傷ついた羽の辺りをしきりに触ろうとしていた。


「おのれ……! 我が体に、いったい何が起こった!?」


「っ!? あれは……!」


 竜の首元まで到着すると、シャオフーの情報通り、頭の部分に男がくっついていた。

 下半身は完全に竜と一体化し、まるでキノコのように生えている。


「おい、お前がこのオオトカゲを操っている本人だな?」


「貴様か、我が体を這いずり回る虫けら共は!」


 その頭にくっついた男は、かなりの年齢に見える。80歳ぐらいにも見えるが、竜と一体化しているせいか力強くオレたちを睨みつける。


「オレが虫けらなら、お前は差し詰め寄生虫だな。鏡は見たことあるか?」


「……はっ!」


「お、おい!」


 オレの話がまだ終わらない内に、セルジュークがその老人に向かって雷撃を放つ。

 その影響で、オレの五感を爆音と黒煙が支配する。


「こいつはオレが捕まえて情報を聞き出すつもりだったのだが……」


 この老人がどんな魔法の持ち主かは知らないが、ミスリルなら問題なく生け捕り出来るはずだ。

 国家を揺るがす大犯罪者、目的を聞き出さなければもやもやが残る。


「ふん、下らん攻撃だ!」


「良かった、無事だったか」


 どうやらこの老人自体も魔法が効かない様だ。傷1つなく、煙の中からこちらを睨みつける。


「虫けらが、叩き潰してくれる!」


 老人は怒りに任せ、竜の腕をこちらに振るってきた。


 ミスリルの鎧といえども純粋な物理攻撃を防げないのは、横のおっさんで実証済みだ。ここは避けるしかない。


「ふっ! はっ! ……キリが無いな」


 鎧を着こんでいると動きが鈍くなるとは言え、所詮は図体がデカいだけで地上を支配しただけの生物だ。

 背中にいる相手を狙える体のつくりにはなっておらず、攻撃をかわすこと自体は容易い。


「ならば、再び吹き飛ばしてやろう!」


「うおっ!」


 竜は体を持ち上げると、その場できりもみ回転を始めた。流石にこれには耐えきれないと判断し、一度地上へと降りる。


「ふん、叩き落とせばあとは潰すだけだ!」


 そう言って竜の上半身を起こすと、前脚でこちらを踏み潰そうとする。

 連続で前脚を交互に叩き付ける様は、まるで子供が駄々をこねているようだな。


「……フリード、どうする?」


 必死に敵の攻撃を避け続けるオレに向かってセルジュークがほざいている。あっちは雷の速さで動けるので避けること自体は全く問題なさそうだな。


「羽を切り落として飛べなくなったのを見ると、切り落とせば操ることもできない様だ。オレが奴の鱗を剥がす、そこに攻撃を頼む」


 オレがとどめを刺したいが仕方ない、ここは補助に回るとしよう。

 ミスリルのナイフをしっかり持ち直すと、紙一重で避けながら少しずつ傷を与えていく。


「はあーっはっは! 避けるので精いっぱいのようだな!」


「……少しずつダメージが蓄積していることにも気づかないとは、宿主選びに失敗したのではないか?」


 痛覚が無いのか、鱗を傷つけられた程度では何も感じないのか、奴は避けているだけに見えるオレを嘲笑している。

 そうしている間にも、竜の前脚は少しずつミスリルの刃によって傷つけられ続けている。


「む……? 我が鱗が……?」


 同じことを繰り返していると、ついにダメージが目に見え始めた。どさっと一部の鱗が剥がれ落ち、赤黒い肉体が姿を現す。


「よし、そろそろ頼む、セルジューク!」


「はっ!」


 オレの合図に答え、セルジュークが再び雷撃を放った。肉がむき出しとなった、竜の手首の辺りで雷撃による爆発が巻き起こる。


「ぐぅおおおおお! わ、我が腕が……!」


 流石の攻撃力というべきか、雷撃は狙い通りに命中し、竜の手を吹き飛ばした。

 吹き飛んだ手首が少し離れたところに落下し、体重を支えきれなくなったのかそのまま頭をこちらに向ける形で倒れ込んできた。


「おっと! ……ふん、これが予言にあった竜か? あまりにも脆すぎる」


 オレは頭に押しつぶされないように脇に逸れると、その頭はどさっと大きな音をたて土埃をあげる。


「おのれ、おのれぇぇぇ!」


 頭を地面につけたまま、その上の本体が歯噛みして悔しがる。

 羽を失い、手首も失った竜はもはや地を這うだけの大きな芋虫だ。あとはゆっくり解体してやるとしよう。


「ならば、もはや"竜の心臓"などいらぬ! この王都、我が灼熱の竜の息吹で全て吹き飛ばしてくれる!」


「ん……?」


 老人はそう言うと、王都の方を向いた竜の口を大きく開ける。


 ……まずい、竜は魔法の効かない鱗だけでなく、灼熱のブレスも人類にとって脅威だったと聞く。

 ミスリルで身を包んだオレならまだしも、単純な石造りの城壁では簡単に破壊されてしまうだろう。


「くそ、仕方ない……!」


 オレはブレスが発射される前に、頭へと近づく。出来ればこの手段はとりたくなかったが。


「はっ、貴様が犠牲になるつもりか!? 無駄だ、ちっぽけな人間1人で勢いが殺されるような攻撃ではない!」


「ふっ、馬鹿を言うな」


「っ!? ぐ、ぐおおおおっ!」


 オレは、竜の頭にいる老人の腰を横に叩き切った。こいつの言う通り、人間の体など小さく脆いに決まっている。


 本当は生け捕りにしたかったのだが仕方がない。

 オレはいつでも正しい判断をする。天秤にかけるまでもなく、この選択が正しいのだ。


「が、がはっ! 馬鹿な……! 50年も前から、動いていた我が計画が……! こんな、小童に……!」


「ずっと前からこんなことを考えていたのか? 愚かな人間だな」


 老人は上半身だけで、ずりずりと這いずり回りこちらを睨みつける。

 もう、消えかけの蝋燭だな。これ以上手を下すまでもない。


 やれやれ、これで一件落着か。オレは静かに老人を見下ろしながら、ミスリルの鎧を脱ぎ始めた。


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