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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
最後の旅行編
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第189話 同盟

 最初は断られたはずの同盟の話を再び出す聖女パトリシア。嬉しいのはやまやまだが、何故急に心変わりをしたのだろうか。


「同盟……だと? パトリシア、私は聞いていないぞ」


 隣に立つセルジュークが、聖女を見て驚いた声をあげる。どうやらこいつも話を聞かされていなかったようだな。


「先ほどの戦いで傷つけあう2人を見て気付きました。私は、やはり自分自身の魔法を使って傷ついた人々を助けたい。その考えに国境なんてないという事を」


 どうやらオレの虐められている姿を見て、良心が揺さぶられたらしい。殴られた甲斐があったというものだな。


「しかし、パトリシア……」


「セルジュークが他国の者を信用できないというのであれば強制はしません。ですが、私1人でも力を貸すつもりです」


 自分の魔法の使い方は自分で決めるべきだ。それが力を持つ者の責任というやつだろう。

 聖女が自らの力をそう使うと決めたのであれば、誰も止めることはできないはずだ。


「心優しき聖女様はこう言ってくれているが、セルジュークはどうなんだろうな?」


「……私の心はパトリシアと共にある。彼女がそう決めたのであれば、私も従おう」


 セルジュークはあっさりと意見を翻し、同盟に従う意思を見せた。聖女が心配なので、勝手に1人で行動させたくないという気持ちもあるのだろう。


「……そうか、有難い話だ。この国の強さはもう十分身に染みている、力を貸してくれるならこれほどうれしいことは無い」


「いいえ、私もあなたのような勇敢な方と共に歩める幸運を喜ばしくおもいます。……フリード様、ありがとうございます」


「……お礼を言われるようなことはしてないがな。怒られるようなことをした気はするが」


「御主人様、自覚あったんですね……」


 セルジュークにも礼を言われたし、もしかしたらこの国の人間は無礼な奴にお礼を言う文化圏なのかもしれない。


「いえ、同盟の事ではありません、王女の事です。様子を見ればわかります、あなたが助けてくれていたのでしょう? 他国の人間にも分け隔てなく接するあなたの姿も、私に同盟を決断させた要因です」


「そうか。……王女様、愛されているな?」


「ふ、ふん! 当然よ!」


 王女の方を見ると、プイッと顔をそむけてしまった。


 とにかく、これで同盟の件はまとまりそうだな。あとは国王に根回しをしてもらうだけだ。

 やや遠回りだった気もするが、これで仕事は終了になりそうだ。


「ところでフリード様、その怪我、宜しければ私が治療いたしましょうか?」


 オレの包帯ぐるぐる巻きの姿を見て、聖女が声をかけてくれる。

 大怪我ではないとはいえ、治療してくれるならそれに越したことは無いな。お願いするとしよう。


「そうか、じゃあお願いを――」


「いえ、それには及びません! 御主人様のことは、私が責任もってお世話しますから!」


 オレが返事しようとした瞬間、エミリアがなぜかお断りの返答をする。そんな拾ってきた犬を親に見つかった子供みたいなこと言われてもな。


「そうですか? それでは……。フリード様、私たちは国王へ連絡しておきます、数日後、きっと良い返事が届くでしょう」


「そうか、何から何までありがとうだな」


 聖女はそう言うと頭を下げ、セルジュークと共に部屋を去っていった。

 ……オレたちも帰るとするか。


*


 ホテルへ帰宅後。オレは自室の部屋の上でゴロゴロと時間を潰していた。今日は虐められたのでもう何もしたくないな。


「御主人様、今よろしいですか?」


「……鍵は空いているぞ」


 入り口からノック音とエミリアの声が聞こえる。返事をすると、部屋の中へと入ってきた。


「……さっきのはどういうことだ。おかげでオレの体は傷モノのままなのだが?」


「す、済みません。他の人に治療を任せちゃうと、私のアイデンティティが奪われそうな気がして……」


 なんだ、そんなことで断ったのか。やれやれだな。


「魔法で人の価値は決まらない。オレは魔法が無くても天才だしな」


「それは余裕がある人の言葉ですよ……」


「そんなことはない。うちのギルドは食事も掃除も貯蓄も、全てエミリア頼りだ」


 この天才にとっては、そういう部分をカバーできる人間が必要なのだ。

 『オレって何でもできるぜ?』みたいな顔をしているが、実際は皆に助けられているからオレが自由にできるわけだしな。


「これからもありとあらゆる部分でオレをサポートして欲しい。魔法なんて使わなくても、それがオレにとって一番嬉しいことだからな」


「御主人様……。わかりました、これからもしっかりサポートします!」


 とりあえずは、元気になっただろうか。まだ旅行は終わっていないし、気を取り直して欲しい所だな。


「では、まずは治療しますね! さあ、服を脱いでください!」


「ふっ、やはり避けられぬ運命か……」


 オレはいつものごとく、舌でねっとりと治療を受けたのであった。


*


「フリード!」


「朝っぱらから元気だな、お姫様?」


 あれから3日、だらだらと過ごしていたオレの元にアルメナ王女がやってきた。


 最近はステラたちと遊びに行ったり、観光の案内を買って出たりと楽しく過ごしていて、オレの手もかからないので楽だと思っていた所だったが。

 今日はオレの平穏を脅かそうというのだろうか。


「今日、お父様の所へ帰るわ」


「そうか、お疲れ様」


「ちょっと、何よその反応は! 同盟の話、お父様とするんでしょ!?」


「……ああ、そうだったな」


 忘れかけていたが、聖女は権力者だが決定権は無い。あくまで国王の承認を貰わないと同盟締結とはいかないのであった。


「よし、最後の仕事に行くとするか」


 もとより、そろそろ帰ろうとしていたところだ。王女を無事お城へ送り届けつつ、同盟の返事をもらってハレミアへ帰るとしよう。


 エミリアに荷物運びをお願いしつつ、王女と2人だけでお城へ向かっていく。


「お、王女様……!?」


「どきなさい、貴方たち! 王女の帰還よ!」


 以前オレを阻んだ城門の兵士たちが、王女の姿を見てどよめきつつも道を通す。王女は踏ん反り返って真ん中を歩いて城へと入っていった。


「どう、この王女の権力は? 聖女とはちがうわ」


「わがままに育つわけだな」


「こらーっ!」


 王女の肘を食らいながら、国王の下へと向かう。足を踏み入れたのは初めてだが、殺風景ながらも落ち着いて掃除の行き届いた、まさに清貧を体現した城と言えるな。


「ただいま帰ったわ!」


「この声は……アルメナちゃん!?」


 ある部屋の中に入ると、ベッドの上で膝を抱えたおっさんが涙を流していた。

 寝巻のせいでよくわからないが、まさかこいつがこの国の王なのか?


「アルメナ、ごめんよー。パパが悪かったんだ、謝るから帰ってきておくれ……!」


「だから、帰ってきたって言ってるでしょ!」


「……! ああ、アルメナちゃーん!」


「ちょっと、抱き着かないでっていつも言ってるでしょ!」


「だって、1週間も姿が見えなかったんだからさー」


 おっさんは王女にヒシっとしがみ付く。王女はウザそうな顔をしているが、話を聞く限り国王で間違いないようだ。


「む? そこの男は?」


「ああ、彼はフリード。お城から追い出された私を守ってくれた謙虚なナイトよ」


 国王はやっとオレの存在に気付いたようだ。王女の返事を聞くと緩み切った顔が一瞬でキリッと厳つくなり、眉間にはしわが一瞬で刻まれる。


「わしがこのウイスクの国王、ザカリアスじゃ!」


「……お初にお目にかかります。ハレミアからの使者、フリードと申します」


 今頃立派な雰囲気を醸し出そうとしても、なんだかなぁ、という感じだが。


 とはいえ仕事なので、使者としての役目を全うするとしよう。頭を下げ、礼を尽くす。


「聖女パトリシアから既に話は聞いている。ハレミアとの同盟の件、喜んで受けさせてもらおう。既に返事の書簡も用意してある」


「有難うございます」


 国王は威厳のある声でそう言い、枕の下から書簡を取り出した。それは嬉しいのだが、こんなベッドルームでそんな大事な話をしていいのだろうか。


「さすがお父様! 準備が良いわね!」


「……これでパパの事、見直してくれた?」


「もっちろん! パパ、最高よ!」


「うおおおーっ! アルメナちゃーん!」


 ……早く帰りたいから、まずはその手に持ったままの書簡を渡してくれないだろうか。


 恥も外聞もない国王の姿を眺めながら、オレはそれが終わるまでしばらく立ち尽くしたのだった。



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