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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
最後の旅行編
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第187話 聖女を賭けて

 約束の日、オレは再び教会へと足を運んでいた。

 前例のない六大国同盟の第一歩が本日踏み出され、歴史の1ページにはオレの名がでかでかと乗ることになるだろう。


「御主人様、なんだかご機嫌ですね?」


「ふっ、当然だ。今日仕事を終わらせて、あとは遊び惚けるつもりなのだからな」


 今日はここにきて3日目だ。初日で終わらせるつもりが、なんだかんだ長引いてしまっている。

 ここでしっかり終わらせて、あとはお土産でも探すとしよう。


「失礼するぞ」


 教会の中の、昨日と同じ部屋に到着し、中に入っていく。


「あっ、セルジューク様……!」


「おやおや、今日は人が多いな」


 中に入ると、今日も着いてきていた王女が乙女チックな声をあげる。

 部屋の中には聖女だけでなく、セルジュークと、変態テオドルフにバシア、あとは知らないお爺さんもいた。


「……ヴァレリー様、あの方はフィッチ様です。戦争時に隕石を落としてきた方ですよ」


「なるほど、あれか」


 オレの表情を察してか、アルトちゃんが耳打ちしてくる。

 どうやら『流星群』の使い手があのお爺さんだったらしい。メテオ爺さん、略してメテおじという事か。


 しかしそうなると、もはや軍人オールスターだな。戦争が無くて暇なのか?

 そうそうたるメンバーを眺めていると、ふとテオドルフと目が合い、ウインクを返してきた。気色悪。


「フリード様、早速話をいたしましょう。同盟の件ですが……」


「今回は無かったことにしてもらう」


 聖女の声を遮り、セルジュークが言葉を続けた。


「ん? オレの聞き間違えか? 無かったことに、というのは?」


「……我々は、他国の者を信用していない。先の戦争も他国の者を受け入れた結果だ。もう同じ轍は踏まぬ」


「申し訳ございません、フリード様」


 聖女が本当に申し訳なさそうに頭を下げる。それに対してセルジュークは毅然とした態度だ。


「悪いな、強敵(しんゆう)よ! お前のことは嫌いじゃないが、オレたちも同じ意見だ!」


「……そういう事よ」


「ふぉっふぉっふぉ」


 他の軍人3人衆も、セルジュークに賛成のようだ。わざわざここにいる理由は不明だが。


「我が国からの書簡をよく読まなかったのか? 一国では対応できない事態に対応するための同盟だぞ?」


 他国の人間が信用できないという気持ちもわかるが、それも反省点として考慮された同盟のはずだ。

 決して深くは関わらないが、いざというときには協力する、それを認められないとは。


「これは熟慮の結果だ。我々は、ハレミアには協力できない」


「お前にも、守りたいものや大切な人間があるはずだ。本当に大事なものなら、どんな手を使ってでも守れるように準備しておくべきではないのか?」


「……私は、自分の力で守りぬく。今まで私より強いものなどいなかった。そしてこれからも現れないだろう」


「意外と近くにいるかもしれないぞ? 例えば、オレとかな」


「……ふっ」


 今、鼻で笑ったか?


 だが、まさかこんなに意志が固いとはな。前回の戦争のせいでアレルギーになっているのかもしれないな。


「……御主人様、どうするんですか?」


「うーむ……」


 ここは天才的シンキングタイムが必要だ。オレは腕を組み、作戦を考える。


 この同盟は、決して損のある同盟ではない。何と言っても、困ったらオレが駆け付けるのだからな。

 更には、拒否権もある。必ずしも人手を貸し借りする必要は無いのだ。


 オレは聖女の様子をもう一度確認する。俯いた憂いある表情は、恐らく同盟に関して全否定という訳ではないのだろう。

 という事は、やはりこのセルジュークという牙城を崩すしかないな。


「どうだ、オレと戦わないか? 一度敗北すれば、自分の無力さと傲慢さに気付くだろう」


「……ハレミアの人間に傲慢などと言われる筋合いはない。自分の国だ、守るのに他人の力は不要だ」


 オレの安い挑発にも乗る気はなさそうだ。ならば無理やりにでも行動に移させてもらうとしようか。


「いいだろう。ならばそこにいる聖女様、オレが力づくで貰っていこう。大切な人間を奪われて初めて、自分の愚かさに気付くだろう」


「御主人様! な、なにを言ってるんですか!?」


 オレの言葉に、エミリアだけでなくその場にいた全員が驚愕の表情を浮かべる。


「……下らん挑発は止めてもらおう。そんな言葉で私の気持ちは動かんぞ」


「動かなくていい。オレは勝手に力づくで行動するだけだ」


「ヴァレリー様、思い直してください。平和の使者が戦争を始めるつもりですか!」


 アルトちゃんも珍しく声を大きくする。生まれ故郷に対して思うことがあるのかもしれないが、オレにも思うことがあるのだ。


「さあ、どうする? 指をくわえて眺めるのか?」


「……貴様の挑発に乗ってやろう。傲慢なのがどちらなのか、教える必要がありそうだ」


 流石のセルジュークも、これ以上は静観は難しいと思ったようだ。オレの読み通りだな。

 さて、そうと決まれば、戦う準備をしないとな。


*


 オレたちは一旦教会を離れ、近くのカフェで昼食をとっていた。

 教会内で争うのは流石にまずいという事で、本日の午後、王都の郊外で戦うことになった。まずは腹ごしらえという事だな。


「さてと、しっかり食べておかないとな。ミスリルを生み出すのは体力がいるからな」


「ちょっとフリード、どういう事よ! 愛しのセルジューク様に喧嘩を売るなんて、何かあったら許さないわよ!?」


「ふっ、わかっていないな。オレが聖女を攫ったら、セルジュークは必ずショックを受けるだろう。だがその時には癒してくれる聖女は既にいない。そうなったら、お前の出番だろうが」


「はっ!? 慧眼……!」


「こう見えても天才なんでね」


 王女もどうやら納得がいったようだ。

 オレの天才的作戦、それはセルジュークに力不足を実感させるとともに、王女の恋も成就させる完璧な計画なのだ。


「全然慧眼でもなんでもないです! 同盟を組もうとする相手の心証を悪くしてどうするんですか!」


「全くです。ヴァレリー様、見損ないましたよ?」


 2人のメイドはまだ納得いっていない様だ。やれやれ、まだこの天才のことを全て理解していないと見えるな。


「安心しろ、作戦はそれだけじゃない。円満に解決して見せよう」


「……本当ですか? 信じていますからね?」


 エミリアの言葉に無言でうなずくと、さっと食事を終えホテルへと戻ることにした。


*


「フラウ、でてこーいっ!」


「御主人様、迷惑ですよ!」


 オレはホテルに帰り着くと、大声でフラウの名を叫び指笛をぴーっと鳴らす。

 他の客の視線を浴びながらしばらく待機すると、2階の客室の方からフラウが下りてきた。


「フリードさん、呼んだ?」


「ああ、これから決戦だ。鎧を持てぃ!」


「あいあいさー!」


 オレの命令にフラウがビシッと敬礼で答えると、すぐに客室へと戻っていった。

 今度は大きめのバッグを引きずって帰ってくる。


「お待たせ。ところで決戦って、誰と戦うわけ?」


「言わずもがな、ここの総大将セルジュークだ」


「ええっ!? ちょっと、フリードさん、また殺されちゃうよ!」


 フラウは相手の名を聞いて、驚いた声をあげる。オレが雷に襲われたシーンを目の前で見た人間なので、その時のことが思い出されたのだろう。


「またとはなんだ、別に殺されてはいないだろう。安心しろ、2度目は無い。この天才とミスリルの力を信じろ」


「うう、不安だよ……」


 フラウはそう言いながらも、バッグをオレに渡してくる。準備はこれで完了だな。


「よし、向かうとするか」


 今日でこの旅の明暗が分かれそうだな。明るいに決まっているが。

 気合を入れ、約束の場所へと向かうことにした。


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