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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
最後の旅行編
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第186話 相性

 変態の計らいで、オレたちはついに聖女に出会うことが出来たのであった。


「……少し痩せたか? いや、やつれたというべきか」


「いえ、大丈夫です……。心配には及びません」


 どうやら、まだ戦争の精神的ショックが癒えきれていない様だ。

 前回会った時より、間違いなく痩せているな。


「それで、本日はどのような目的でこちらへ?」


「おっと、では手短に話させていただこう。……本日は、ハレミア王国の使者として、こちらに参りました」


 付け焼刃の使者スタイルでトークを始める。懐に持っていた書簡を渡すと、聖女はその場でそれを開き中身に目を通し始めた。


「同盟、ですか」


「その通りです。強い魔法使いはもはや、個人でも国を揺るがすことが出来ます。国家間で争う時代に終止符を打ち、お互いが助け合っていくことを目的とした同盟です」


 直接戦ったことがあるからこそわかる、ウイスク軍のバランスの良さ。優秀な魔法使いと国に対する高い忠誠心は、敵だと恐ろしく味方だとこれほど頼もしいものは無い。


「なるほど……。平和の為に同盟を組むという考えは、私としても望むところです」


「そうか、そう言ってもらえると有難い」


 予想通り、彼女もこの話には乗り気のようだ。書簡には耳に聞こえのいい平和に関することしか書いていないので当然と言えば当然なのだが。


「ですが、まずは考えさせていただきたいです。この同盟を組んだとして、実際に矢面に立つのは兵士たちです。彼らとの対話無しに、この同盟を賛成するわけにはいきません」


「……まあ、正しい判断だな。しっかり熟考して答えを出して欲しい」


 今日はここまでだな。昨日の何の進展もないやり取りよりかは有意義だったと言えるな。


「フリード様も時間がないでしょうし、明日改めて回答いたします。申し訳ないですが、明日もご足労をお願いしてよろしいですか?」


「当然、訪ねさせて貰うが、そんなに早く答えが出せるのか?」


 流石に1日は熟考と言えるレベルではなさそうだが。他国のこととはいえ、つい心配になってしまう。


「今夜、大将セルジュークと会う予定があります。彼の判断に委ねようと思っています」


「そうか、わかった。明日、またよろしく頼む」


 とりあえずはこんなところだな。次の予定も見えたところで帰るとしよう。


「あの……アルメナ王女。あまり他国の者に迷惑をかけるのは……」


「はーん? 何お姉さんぶってるのかしら? 大きなお世話よ!」


 流石に聖女様は王女の顔を知っていたらしい。何も言ったつもりは無いがある程度察したようで、心配そうな表情で話しかけてきた。

 ……王女には一蹴されてしまったが。


「セルジューク様がいないならこんなところに用はないわ。フリード、行きましょ」


「……はいはい」


「申し訳ありません、フリード様……」


 いつからオレは従者になったのか。先駆けて部屋を出ていく王女の後を追って、オレたちも教会を出ることにした。


*


 今日の用事はもう特にないので、オレたちはまたホテルへと向かっていた。

 昼食を取ったら、午後はステラたちの観光にでも付き合ってやるかな。


「はームカつく! 見た? あのパトリシアの態度!」


「ああ、丁寧な対応で好感度が上がったぞ」


「ちょっと、あんたはどっちの味方なわけ!?」


 王女はぷりぷりと怒っているが、国の代表たる立派な態度だし、あっちが王族だと言われても信じる程度には気品を感じたが。

 それに対してこちらのお姫様ときたら、ストレートにわがままですな。


「礼儀よし、気品よし、顔よし……このままじゃ勝ち目がないぞ」


「わ、わかってるわよ! だからこそ、こっちは中身で勝負よ!」


「……そっちの方が勝ち目がないと思うが」


 身の程知らずにもほどがあるな。中身こそ一方的に負けているぞ。


「ふん、勘違いしないで。中身って言うのは、魔法の事よ! 聖女の『女神の加護』はただ傷を癒すだけの魔法じゃない」


「前線に立つセルジュークと相性ピッタリだな」


「ところがどっこい、私の方が上なのよ! 私の『激励(インスパイア)』は、他人の力を増幅させるの!」


 どっこい、ねえ。やけに興奮しているようだが、聖女と比べてどっこいどっこいと言った感じだな。


「……何よその目。どうせ大したことないと思ってるんでしょ?」


「まあ、自慢するほどではないかなと」


「くっ、いいわ! じゃあ、貴方の体で試してあげる!」


 王女はどうやら魔法を見せてくれるようだ。気が済むまで付き合ってやろう。


「行くわよ? ……頑張れ♡ 頑張れ♡」


「むっ! うおおおぉぉっ!」


「きゃあっ!? 御主人様の服が!」


 何という事だ。彼女の声援を受けた瞬間、上半身の筋肉が膨張し、服をビリビリと引き裂いてしまった。

 バランスを考えた控えめマッチョの体がまるでゴリラのように肥大している。


「ふふん、どう? 凄い魔法でしょう」


「これは、なんて力だ……! 見ろエミリア、小指だけで腕立て伏せができるぞ!」


「そ、それはいいですけど……。街中で上半身裸はちょっと……」


「おっと、オレとしたことが興奮しすぎたな。一旦着替えを取りに戻るとしよう」


「今頃上半身裸でクールを装っても遅いですよ」


 ムキムキの肉体を見せつけたいのは山々だが、まずは捕まる前にホテルへ戻ることにした。


*


 ホテルへ戻りついた頃には、オレの肥大した肉体はすっかりしぼんでしまっていた。どうやら持続時間はそれほど長くない様だ。


「どう、私の魔法は恐れ入った?」


「ああ、素晴らしい力だ。また味わいたいものだな」


 彼女がドヤるだけのことはあったな。次からは伸縮性のいい服を着て臨むとしよう。


「きゃあっ!? 何で裸で帰ってきてますの!?」


 ホテルのロビーに入ると、本日2度目の悲鳴を浴びせられる。


「なんだ、ルイーズか。どうした?」


「どうしたはこっちのセリフですわ! ……退屈だから、フリード様の帰りをお待ちしていましたの」


 別にオレと一緒に行動する必要はないと思うが、どこかに出かけたいのかもしれない。

 わがまま王女は一旦放置して、うちのわがまま娘に付き合うとするか。


「ちょっと待っていろ。すぐに財布の準備をしてくる」


「……服の準備もお願いしますわ」


 急いで部屋に戻り、今度はルイーズに付き合うことにした。


*


「見てくださいませ、あそこにお土産屋がありますわ!」


 ルイーズと2人きりで街を歩いていると、彼女がある店を指差した。

 どこかで情報を仕入れたのか、お土産屋が目的地だったらしい。


「父親へのお土産か?」


「ええ、ここは有名店だと聞いたので、きっとお父様の喜ぶものもあるに違いありませんわ」


 彼女は嬉しそうに店内へと入っていく。

 オレも追って中に入ると、どうやらここはアクセサリーショップのようだ。宗教国らしく、天使や十字架を模したものが並んでいた。


「フリード様、恋愛成就のお守りがありますわ」


「へえ、そんなのもあるのか。……父親用には適さない気もするが、再婚でもするのか?」


「もう、これは私用ですわ!」


 ……なんだと? つまり、ルイーズに好きな奴がいるという事か。


 なんだか複雑な気分だな。娘が彼氏を連れてきたらこんな気持ちになるのかもしれない。

 口を出すべきではないのだろうが、騙されたり、変な男に惚れているわけではないだろうな?


 ここは、父親代理として威厳のある態度で対応すべきだな。


「……もし、本当に好きな奴がいるなら、今度オレの前に連れてきてみろ。変な男ならそいつの命は無いと思え」


「……くすっ。もう、フリード様ったら!」


「ん?」


 オレが発言した後、ルイーズは吹き出しそのまま笑い始めてしまった。

 我慢しようとしているようだが押さえ切れていないらしく、口に手を当て上品に笑っている。


「……何かオレは変なことを言ったか?」


「だって、おかし過ぎますわ! ふふふっ、もう!」


 彼女はしばらく笑い続け、ようやく収まった後オレの顔を見て言葉を続ける。


「約束しますわ、いつかフリード様に好きな人のことを伝えると。……連れてくるというのは、難しいかもですが」


「……そうか」


 彼女がそう言うのなら、待つとしよう。


 オレはそれ以上は詮索せず、ショッピングを再開し始めた。


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