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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
セシリアとの決闘編
181/198

第180話 結末

 日にちが経つのは早いもので、新年になってからもう10日ほど経過した。


 鎧も完成し、決め台詞も練習した。そろそろメインイベントを始めるべきだろう。


「皆、今日は朝食の後、セシリア討伐戦に向かうからよろしく」


「ふうん、勝ち目あるの?」


「まあ当然だな。むしろ負けようと思っても負けれないほど実力差があると見ている」


「お兄様、頑張ってください!」


 報告も終わったことだし、朝食のパンに手を付けよう。今日の敵はセシリアより空腹と言っても過言ではないな。


「ちょ、ちょっと! そんな軽い感じで良いんですの!?」


「なんだ、まさかオレの勝利を疑うのか?」


「そういう訳ではありませんけども……」


 心配など無用、さくっと勝利し、さくっと勝利パーティーをするべきだな。

 ルイーズに不信感のある目で見られつつも、そのまま食事を続けることにした。


*


「よーし、戦地へ向かうとするかな」


 食事も終わったので、支度をするとしよう。折角だし格好良い姿で勝利したいものだからな。


「御主人様、私も見に行きますね」


「お財布も忘れずにな。夕食は豪華にする必要がありそうだ」


 どうやらエミリアたちも見に来るようだ。すぐに終わるから見世物としては面白くないだろうが、まあいいだろう。


 鎧を着こめば準備完了だが、輝きが強すぎて道中が恥ずかしいので、上から更にローブを着ていくことにする。

 兜は到着してからでいいだろうが、見られたらネタバレになる可能性があるので袋に包んでおく。


「どうだ、おかしい所はないか?」


「ちょっと格好が怪しい所を除けば、おかしい所はありません」


 優秀なメイドのお墨付きも貰ったところでついに出発だ。


 全員でぞろぞろと広場へ向かっていく。今日は他の挑戦者はいるのだろうか。


「さあ、セシリア様に挑戦するものはいないかニャ〜!」


 広場に近づくと、お馴染みの声が聞こえてくる。どうやら今日が命日とも知らずに、いつも通り挑戦者を募っているようだ。


「さて、今日はどれぐらいの人数が……!?」


 まずは様子を見ようと、広場に顔を出して周囲を見渡す。

 ……が、そこには必死に呼び込みをするシャオフーの姿だけが見えた。他の歩行者は、ちらりと目線を向けるだけでそのまま通り過ぎていく。


 言うなれば、必死に呼び込みをする売れないお店の店員、といった感じだろうか。こんな寒空の下、1人で声を上げ続ける彼女を見ると胸が痛くなってしまう。


「……なんだか近づき難いな」


「もう、こんなところで何を言っているんですか!」


 まさか最初に精神攻撃を仕掛けられるとは思ってもなかったが仕方ない、腹を括るとしよう。

 オレはシャオフーに近づき、声をかけることにした。


「おはよう、今日もやってるか?」


「あっ、やっときたニャ! お前を待ちわびてたニャ!」


 シャオフーはオレを見ると、どこか嬉しそうに話しかけてくる。やめろ、そんな表情を見せるんじゃない。


「ついに来たのですね、フリード殿」


「……今日はオレだけの為のステージのようだな」


「はい。初日以降、一気に挑戦者の足が途絶えてしまいましたので。寒空の下で待ち続けるのもどうかと思いましたが、貴方の約束を反故にするわけにもいかないと思い、お待ちしていた次第です」


「そうか……」


 約束をした覚えはなかったが、どうやらオレ待ちだったらしい。何だか申し訳ない気持ちになったが、これが作戦じゃないだろうな?

 というか挑戦者がいないという事は、まだ合格者もいないという事か。企画倒れではないのか、このイベントは。


 ……まあいい、とりあえずオレの目的を果たそう。


「じゃあ早く始めよう。粗暴なお前たちと違ってうちの女の子たちは繊細だからな、風邪を引いてしまう」


「いいでしょう、ではこちらへ」


 念のため、周囲に被害が及ばないというようにという配慮だろう。前回観戦したときに戦っていた舞台へと2人で歩き出す。

 舞台の中央へと到着すると、セシリアは体をこちらへ向き直した。


「では始めましょう。貴方の実力は知っていますので、こちらから仕掛けます」


「ちょっと待て、オレはまだ準備が終わっていないのだが?」


「……1分待ちましょう」


 何だこの女、狂犬か? 他の奴には接待プレイをしていたくせに、オレには問答無用で切りかかろうとするとは。


 剣を抜くセシリアを言葉で制し、袋を開く。顔が隠れてしまうミスリルの兜を頭に装着し、体を覆っていたローブを脱ぎ去る。


「その鎧は……!」


「ふっ、王族のお前ならこれが何かわかるだろう?」


 セシリアはオレの姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。この虹色に輝く鎧を見て、一瞬でミスリルだと見抜いたに違いない。


 セシリアの表情を見て、オレは勝利を確信した。これはついに昨日必死に練習した決め台詞、『この勝利は偶然? いいえ、愛の力が呼び寄せた運命、だ』をぶち込むことが出来そうだな。


 セシリアはしばらく呆然としていたが、やがてこちらへ駆けてきた。あまりの動揺に魔法を使うのも忘れたと見える。


 よし、ここはカウンターだ。セシリアの最初の一太刀に合わせ、ミスリルの拳を叩きこむ。それが最初で最後の一撃になるだろう。


「勇者様っ!」


「……え?」


 一体何が起きたというのか。セシリアはオレの目前で剣を捨てると、そのまま両手でオレの体を抱きしめた。


「勇者様っ! ずっと、ずっと、お会いしたかった……!」


「勇者……?」


「ごっごご、御主人様! 何抱きしめてるんですか!?」


「いや、抱きしめられている方なのだが」


 オレを抱きしめながら、ついには涙を流し始めたセシリアを見て、オレはどうしていいかわからず立ち尽くすことしかできなかった。


*


 オレは、セシリアとおまけのシャオフーを連れて、ギルドホームへと戻っていた。


「なるほど……。予言された未来には、竜の復活とともに、ミスリルの鎧を着こんだ勇者の存在もあったわけか」


「はい……。私も『未来視』ワーグナー様の言葉を信じ、勇者様のことも探していました。ですが、そんな鎧の存在など、どこを探しても噂すらなく諦めかけていました。ですが今日、貴方様が……」


 セシリアから説明を受け、オレは頭を悩ませる。まさか、ミスリルの鎧のことまで予言されていたとは。


 それよりも気になるのは、セシリアの変わり様だ。前までは対等っぽい扱いだったはずだが、今では様付けになり、頬を赤らめている。憧れの存在を見るような表情だ。


「せ、セシリア様! 話は分かりましたから、まずは御主人様から離れてください!」


「そうです! お兄様の膝の上は私の特等席なんですから!」


 どうやらオレの与り知らぬところで、膝の上の領土問題が勃発していたようだ。


 だが、2人はオレを思っての発言なのだろう。何故なら、セシリアは今オレの膝の上にいるからだ。

 椅子に座っているオレに向かい合わせになっており、顔が非常に近い。フラウやルイーズは酔った勢いを借りてやっていたというのに、この女は素面でこれをやってのけるのだから格が違うな。


「勇者様……。こうして出会えたことに感謝します……」


 当の本人は、完全に自分の世界に入っている。年上の女性が膝の上で甘えてくるなど、どう対処していいかわからない。


「セシリア様、お気持ちはわかりますが今日の所は帰りましょう。皆が待っていますニャ!」


「シャオフー……。そうですね、名残惜しいですが、私は帰ります。勇者様、また、逢いに来ても良いですか……?」


「いいです……」


 結構です、というニュアンスで答えたつもりだったが、セシリアは顔をぱあっと輝かせ、帰っていった。

 ……ああ、変な汗がでてしまったぞ。


「……御主人様、どうしますか?」


「ちょっと横になる。今日は夕食は控えめで良い……」


 結局、この戦いはオレの不戦勝なのだろうか。気持ち的には敗北なのだが。


 オレはひとまず、気持ちを整理する事にしたのであった。


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