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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
セシリアとの決闘編
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第179話 準備完了

 1週間前にフラウに改めて鎧作成をお願いしたオレは、暇を持て余していた。

 急な納期変更にフラウがひいひい言っている中、当の依頼者はだらだらしているのだから、社会とは本当に非情である。


「この勝利は偶然では無い、運命だったのだよ。……いや、必然、の方が良いか?」


「ヴァレリー様、何を独り言を言っているのですか?」


 ロビーで1人時間を潰していると、冷たい目をしたアルトちゃんに話しかけられた。


「もうすぐでオレとセシリアの歴史に残る戦いが始まるわけだからな。勝利時の決め台詞を考えていたところだ」


 勝ったのに決め台詞が無ければ格好がつかないからな。天才として当然の備えと言える。


「勝利した後のことを考えるより、どう勝利するかを考えるべきだと思いますが」


「ふんっ、普通ならそう考えるだろうな」


「失礼しました、ヴァレリー様は普通ではありませんでしたね」


 アルトちゃんの言い方はどうかと思うが、オレは勝利を確信している。先のことを考えても別に問題ないだろう。


「それで、どうだ? 運命と必然、どっちの言葉が格好いいと思う?」


「どちらでも面白いですよ」


 オレの問い掛けに対して、当たり障りのない答えが返ってきた。やれやれ、やはり受付嬢に聞いたのが間違いだったか。


 アルトちゃんはオレの飲み終わったコーヒーカップを回収し、キッチンへと帰っていった。

 ……だが、ふと思い出したかのように立ち止まると、オレに再び話しかけてきた。


「あ、そうだ、ヴァレリー様。私はこれから出かけますので」


「別に気兼ねなく出かけて貰っていいが……。何か予定でもあるのか?」


「エルデット様と狩りの約束を」


「そうか、風邪をひかないように気を付けてくれ」


 何だか最近仲が良い気がするな。たくましい者同士、波長が合ったのかもしれない。

 頭を下げて部屋を退出するアルトちゃんを見送ると、オレは再び決め台詞の開発に取り掛かった。


*


 1人で台詞を考えること数時間。天才らしくハイセンスなワードをいくつか考え付いてはみたものの、やはり1人では偏りが発生してしまう。


 ここは再度、別の人間に意見を聞くとしよう。


「エミリア、今暇か?」


「あっ、御主人様。何か用事でしたら時間を取りますけど」


 キッチンを覗くと相変わらずエミリアが食事の準備をしていた。

 毎日遊び惚けていても食事が出てくることに感謝しつつ、今日は更にその手を止めてもらうとしよう。


「ちょっと相談したいことがあってな。今からカフェでもどうだ?」


「えっ! す、すぐに準備します!」


 エミリアは慌てたようにパタパタと部屋へ駆け戻っていった。

 あまり手を止めたくないから急いでくれているのだろうか。


 数分後、髪を直しエプロンを外しただけのシンプルな姿だが準備を整えて戻ってきた。

 ギルドホーム近くのカフェに向かい、コーヒーを2つ頼む。


 さて、手早く最高の決め台詞を作り上げるとしようか。


「それで、用事って何ですか?」


「ああ、さっきも言った通り、本当にちょっとした相談だ」


 なんだかわざわざ仕事を中断させて、決め台詞の相談なんて恥ずかしくなってきたな。詳細はぼかしつつ、さっくり話をするとしよう。


「エミリアは『運命』と『必然』、どっちのワードがしっくりくる?」


「え? えーっと、そうですね、運命の方が好きですね」


「なるほどな……」


 オレはすかさず、その言葉をメモに取る。やはり決め台詞なので、心に響くワードを散りばめておくべきだろう。


「じゃあ次だ。『愛』と『正義』ならどっちが良い?」


「えっ……! や、やっぱり、愛ですか」


「ほうほう……」


 やはり他人に意見を求めたのは正解だったな。オレなら『正義』というワードをチョイスしてしまっただろうが、女性の意見を参考にここは軌道修正をしておこう。


「じゃあ最後だ。オレが格好良く決めるとしたら、冷静でクールに言い放つのと熱くシャウトするのはどっちが良いと思う」


「え、それってどういう……。いえ、そうですね! 静かに言うのも良いですけど、叫ぶのもギャップがあっていいというか……」


 エミリアは頬に手を当てながら悩ましく言葉を口にする。そんなに真剣に考えられると申し訳なさが増してしまうな。

 まあ、この問いかけはシチェーション次第という事だろうか。これは素直に2パターン考えておくか。


「ちなみにこれは何の相談なんですか? い、いえっ、別にその、秘密であれば言わなくてもいいんですけどっ!」


「そうだな、内緒にはしておきたいが付き合ってくれた訳だし、少しだけ話しておこう。実はセシリアに格好良く決めたくてな」


「え……」


 オレが内容を少しだけお漏らしすると、さっきまで楽しそうだったエミリアの表情がサーっと青ざめていく。

 しまった、何か失言をしてしまったのだろうか。何でもない発言だったつもりなのだが。


 ……はっ、そうか。オレが嬉々として、セシリアをボコった後の決め台詞を考えてると知って引いてしまったのか。

 敵とはいえ、相手は女性。ズタボロにするという事に同じ女性としてドン引きしてしまったに違いない。


「いや、その……勘違いしないでくれ。あくまで基本は紳士的にコトを進めるつもりだ!」


「ど、どんなコトをするつもりなんですか……!」


 弁明のつもりが、何故か更にドン引きされる。これは、闘い自体をあきらめて欲しいという事か。


「わ、悪かった。セシリアをボコボコにするのは今回は諦めよう。平和が一番だよな」


「え? ボコボコ……?」


「え?」


 エミリアはオレの言葉にぽかんとした顔をする。

 ……どうやら、勘違いはお互い様だったようだ。


*


 和解したオレたちは2人並んで、ギルドホームへと帰っていた。


「あはは、勝利の決め台詞を考えていたんですね。私はてっきり……」


「てっきり?」


「いえ、何でもありません! 私も応援します、頑張ってセシリア様に勝利しましょう!」


 どうやら当日は応援してくれるようだ。これはしっかりオレの姿を見せつけないとな。


「あっ、フリードさん! もう、どこに行ってたの!?」


 ホームに帰りつくと、フラウがオレのことを待ち構えていた。ちょっと御立腹のようなのでおしゃれカフェに行っていたことは黙っておこう。


「どうした、材料切れか?」


「鎧が完成したから探してたんだよ! まったく、僕に感謝してほしいな」


「もうか? 早いな」


「ふふん。まあ、僕の手にかかればこんなものでしょ!」


 何という期待以上の働き。2週間の予定を1週間で完成させるとは。

 これは次からは更に納期を短くしても問題ないな。


「早速試着してみていいか?」


「もちろん! はい、どうぞ」


 フラウはそう言うと、ガラガラとハンガーに下げられたそれを持ってくる。

 オレの要望通り、シンプルな見た目だ。いわゆるフルプレートアーマーだが、持ってみるとなかなかに軽い。


 テキパキと装着すると、フラウとエミリアに見えるようにポージングを取る。


「どうだ、似合っているか?」


「フリードさん、格好いいよ!」


「でも、お顔が隠れると勿体ないですね」


 全身を防御しないと意味がないので、顔は仕方がないな。天才的頭脳を守るためには見た目を犠牲にするしかない。


「……何をやっていますの?」


「お、ルイーズちょうどいい所に。ちょっとオレに魔法を使ってみてくれ」


「構いませんわよ」


 ルイーズはそう言うとオレを見つめる。この魔法を防ぐ鎧が機能しているなら、相手の腕を操るルイーズの魔法も防げるはずだ。


 ルイーズはそのまま見つめ続けるが、オレの体に変化はない。


「……ちゃんと魔法を使っているか?」


「も、もちろんですわ!」


 どうやらちゃんと機能しているようだ。目に見えない魔法もしっかり防げるとは、流石ミスリルの鎧という事か。


 これでオレの準備は完了だ。ついに明日、歴史が変わる。今夜はしっかり決め台詞の練習をしておこう。


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