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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
セシリアとの決闘編
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第178話 傾向と対策

 オレは引き続きセシリアの試合の様子を見学しつつ、シャオフーに話を促すことにした。


 次の挑戦者も先ほどと同じように秒殺されてしまう。説明を聞くだけでなく実際に見た方が対策を取りやすいのだが、時間稼ぎも碌にできない様だ。


「おおっと、今度の挑戦者は遠距離からチクチク攻撃しようとしたのに、返り討ちにあってしまいましたね。剣が伸びたように見えましたが、あれは一体……?」


「あれはセシリア様専用の武器、『レーザーブレード』だニャ! 持ち手に特殊なレンズが入っていて、手から発した光をまるで刃のように一方向に伸ばすことが出来るニャ!」


「ほう、それは興味深い」


 オレが昔やられかけたことのある光り輝く剣。これも対策が必要だな、覚えておくとしよう。


「おやおや、次の挑戦者は素早い動きで翻弄しようとしましたが、それを上回る速さで接近され一撃でやられてしまいました」


「あれはセシリア様の必殺技、『フラッシュイン』! 光の速さで懐に入り込み、剣を叩きこむ技だニャ! その速さゆえにセシリア様自身も居場所を見失うほどだニャ!」


 なるほど、光の速さで動けるのに、直前で姿を見せるのはそのためか。

 力を見せつけつつドジっ娘アピールも忘れないとは、なかなかやるな。


 さて、次の挑戦者はどうかな……。


*


 ……その後の挑戦者もばっさばっさとなぎ倒され、結局今日はセシリアの体に触れることのできたものは1人もいなかった。


「どうだったニャ? 負けを認める気になったかニャ?」


「……まだ挑戦もしていないのだが」


 シャオフーはどや顔でこちらを見てくるが、オレに情報を与え過ぎたことに気付いていない様だ。

 いいのか、第1ギルドの幹部がこんなことで。


「お疲れ様ですニャ、セシリア様!」


 セシリアはサラサラの金髪を風にたなびかせながらこちらへと歩いてきた。

 実力差が大きいとはいえ、息1つ切らしていないのは流石と言える。


「……貴方は戦わないのですか?」


「今はまだその時ではない」


 セシリアは俺に話しかけてくるが、今日はあくまで様子見。必ず勝てる準備が整った時、正々堂々と戦わせてもらおう。


「そうですか。……私はあと最長で2週間ほど、これを続けるつもりです」


「じゃあ急いで準備しないとな」


 オレは実況席を立ち、家に帰ることにした。

 期限を決められてしまったので、急いで帰ってフラウのご機嫌を取ることにしよう。ミスリルの鎧がないことには始まらないからな。


*


「ただいま帰ったぞ」


「お兄様、お帰りなさいませ!」


 新年早々お元気な妹の出迎えを受けつつ、ロビーへと向かう。体が冷えてしまったので暖かい飲み物で熱を取り戻すとしよう。


「御主人様、どうでしたか?」


「雑魚どもでは話にならないな。このままでは『Aランクギルド以外に碌な魔法使い居なくね?』などと批判を受けてしまう、やはりオレが出るしかないな」


 帰宅後20秒で準備されたコーヒーを味わいつつ、今後について話をする。


「……勝ち目あるんですか?」


「フラウにゃん次第だな」


「……本人に聞こえたらまた引きこもりますよ?」


 今はもうお昼だ。いつまでも引きこもっていられないし、出てくる頃だと思うが。


「それで、張本人たちは出てきたか?」


「ルイーズさんもフラウさんも一度出てきて、朝食代わりに紅茶だけ飲みましたよ」


 なんてことだ、再び引きこもれる体制を整えるとは。トイレや空腹で部屋を出てきたところを襲う計画だったのだが。


「仕方ないな。昼食まであとどれぐらいかかりそうだ?」


「あと30分ぐらいかと……」


 どうやらもう少し時間がありそうだ。ここは何か甘いものを買ってきて、食べ物で釣るとしよう。

 そもそもオレが謝る必要があるのか? などと考えてはいけない、天才としてこの事態を素早く解決に導かなければならないのだ。


 昼食に間に合うよう、さくっとお買い物に行くとしよう。


*


 30分後。オレは唯一開店していたパン屋で、葡萄パンを買っていた。


 この天才唯一の誤算。それは今日、行きつけのスイーツ店がやっていなかったことである。

 数少ない、新年からオープンしているお店でやっと手に入れたのが、このパンだ。


 まずいな、これは。こんなものをあげたら逆に好感度が下がるんじゃないか?


 『つまらないものですが……』と言われて、本当につまらないものを渡された人の気持ちが分からないほどオレは愚かではない。


「帰り着いてしまったか……」


 気が付けばもう既にギルドホームの玄関の前。時間的にもう昼食の準備が終わっていてもおかしくない。

 悩んでいても仕方ないし、足を踏み入れるとしよう。


「フリード様……」


「あはは、フリードさん……。お帰り」


「……ああ、ただいま」


 どうやら予想通り昼食の準備は終わっていたようで、フラウとルイーズもちゃんと着席していた。


 目線は合わせてくれない2人を尻目に、自分の所定の位置へ座る。こうなったら何もなかったことにして、別の手を考えよう。


「お兄様、何を買ってきたんですか?」


 ……やってしまったな、我が妹よ。可愛ければ何でも許されると思って、空気も読まずにそんな発言をしてくれるとは。

 ステラの言葉で注目が集まってしまったので、素直に白状するとしよう。


「いや、2人の機嫌を直してもらおうと思って買ってきたんだが……」


 オレはそう言いながら、紙の包みを開く。きつね色の素朴な丸いパンが机の上に置かれた。


「これは?」


「…葡萄の入ったパンだ。今日は新年でお店が開いていなくて。本当は甘いケーキとか買いたかったんだが……」


「葡萄……パン?」


 その言葉を最後に、沈黙が広がる。やっぱり買うべきではなかった、だがもう後悔しても遅いのだ。


「悪いな、2人とも。もう少し時期が経ったらちゃんとしたのを……」


「フリードさん、御免なさい!」


「うわっ、何だ一体……!」


 突然、2人が椅子を立ち、頭を下げる。そんな全力で否定するほどパンが嫌だったのか?


「わ、私が悪いのに、今朝生意気な態度を取ってしまって。子供みたいにわがままを言ってしまいましたわ」


「部屋に来てくれたのに、追い返しちゃったから……。僕の為に様子を見に来てくれたのに……」


「……なんだ、そんな事か。あのぐらいで怒るわけないだろう」


 どうやらお互い間抜けな勘違いをしてしまっていたようだ。オレが一旦部屋を後にしたことで、無駄なストレスを与えてしまったらしい。


「ほら、フラウさん、ルイーズさん。新年最初の昼食なんですから、楽しく食べましょう!」


「エミリアの言う通りだ。これからも一緒にやっていくのだから、楽しくやろう」


 やれやれ、どうやら一件落着だな。これでオレも肩の荷が下りたというものだ。


 改めて全員で昼食を共にし、新しい年のスタートを切ったのであった。

 オレの葡萄パンもフラウとルイーズ、そして何故かステラの胃袋へと運ばれ、きれいさっぱりなくなってしまった。


「あっと、そうだ。フラウ、鎧の件だが……」


「任せて。フリードさんの為に、最高のものを作るよ!」


「そうか、じゃあ2週間以内に頼む」


「ええ、期限付き!?」


 流れるようにフラウに仕事を依頼して、問題は万事解決だ。あとは完成を待つだけだな。


 くっくっく、見ておけ、セシリア。鎧が完成した時が、貴様の命日よ。


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