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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
セシリアとの決闘編
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第177話 様子見

 年越しパーティーの翌朝、オレはフラウの様子を見に来ていた。


「ううう〜、もう生きていけないよ……」


「気にするな、酔って変なコトをするのはよくあることだ」


 フラウは残念ながら記憶を失っていなかったようで、絶望の中で布団に包まれている。


「まあ、その、何だ……。誰にも言わないから元気を出すといい」


「元気なんて出ないよ。あんなみっともない姿をさらして……」


「語尾が猫っぽくなるのは第1ギルドでもやっていることだ、みっともないなんて言ったら失礼だろう?」


「でも、でも……」


 どうやら大分重症のようだな。誰も馬鹿にしたりしていないというのに、それほど恥ずかしいことだったのか。


「まあ、気を取り直してオレの鎧づくりを再開してほしいにゃん?」


「っ!? もおおぉぉっ!」


 同じ羞恥心を味わう事で、恥ずかしいのはお前だけじゃないと伝えようとしたのだが逆効果だったようだ。

 再び昨日のことを思い出したのか、顔を真っ赤にすると枕をこちらへ投げ、布団を頭まで被ってしまった。


「……悪い、落ち着いたら出て来いよ?」


 布団の上から声をかけると、部屋を出ていくことにした。

 やれやれ、最近成長したと思ったがまだ子供だったな。


 さて、次はルイーズの様子を見るとしよう。

 部屋をノックし、扉越しに声をかける。


「ルイーズ、大丈夫か? 二日酔いになっていないか?」


 しばらく返事を待つが、反応は無い。

 オレが部屋に連れて行ったときは鍵をかけていなかったはずだが、今は鍵がかかっている。一度は起床したとは思うのだが。


「……気分が悪くないか心配だから、返事が無ければ中に入るぞ?」


 もう一度声をかけるが、やはり返事は聞こえてこない。

 錬金術奥義・合鍵で中に入るとしよう。


 同じ部屋とは思えない豪華な調度品と、部屋の中央に天蓋付きのベッドがある。

 そして、そこにこんもりとした布団の山があった。中身は恐らくルイーズだろう。


「どうした、引きこもって? 体調は問題ないか?」


「……昨日の事、覚えていまして?」


「それはもうバッチリと」


 どうやらここにも不幸が生まれているようだ。

 記憶がある、という事がこれほどの悲しみを生むと誰が予想しただろうか。


 嘘をついても仕方ないので正直に答えると、布団の山は再び沈黙を始める。


「あまり気に病むな。時には甘えたくなる時だってあるさ」


「……! ううぅ……」


 布団の中からうめき声が聞こえてくる。どうやらこっちも重症のようだな。


「私にこんな恥をかかせるなんて……! もうお婿を取れませんわ」


「誰も言いふらさないから気にする必要はないと思うが……」


 それに恥をかいたのは自分のせいだと思うが。まああんまり追い打ちをかけてもしょうがないので黙っておくとしよう。


「ほら、早く機嫌を直せ。何か美味しいものでも食べよう」


 そう言って慰めるが、返事は帰ってこなかった。

 まあ、あとは時間が解決するのを待つとするか。


*


「どうでした、御主人様?」


「だめだ、もう手遅れだ」


 一階に降りてきたオレは、エミリアの問い掛けに答えながらソファーに体重を預ける。

 すぐさま目の前に置かれたコーヒーに口をつけると、自然と息が漏れてしまった。


「今からどうしますか?」


「お腹がすいたら2人とも降りてくるだろうから、ケアを頼む。オレは第1ギルドの様子を見てくるとしよう」


「……大丈夫ですか?」


「今日の所は戦うつもりは無い。あくまで偵察だ」


 セシリア自らが行う、強い魔法使いの選定。オレはもはや顔パスみたいなものだが、念には念を入れて様子見しておくべきだろう。


 コーヒーをじっくり味わった後防寒着を着込み、外に出ていくことにした。


*


 オレはマルジェナから聞いた集合場所を目指して歩いていた。

 空は青く、空気は澄んでいる。まだ新年初日という事もあってか、街は静かだな。


 だが、集合場所である広場に近づくにつれ、少しざわついた空気になり始めた。

 広場を覗くと、それなりの人数が早速集まっていた。新年早々、暇人が多いな。


「みなさーん! 受付はこちらですニャ!」


 聞き覚えのある声が、案内をしている。ここは直接接触して情報収集した方が早いな。


「おはよう、シャオフー。精が出ますな」


「なっなんでお前がいるニャ!」


「強い魔法使いを求めるのであれば、オレがいてもおかしくないはずだが?」


 猫耳の女はオレを見て失礼な発言をする。こいつが猫っぽいしゃべり方をするせいでフラウがトラウマを抱えているというのに、何て態度だ。


「まあ、今日は見学だ。どんなことをしているか気になってな」


「見学という制度は無いニャ、さっさと帰れ! しっしっ!」


 オレは小うるさい女を無視して、集まっている奴らに目を向ける。

 腕に覚えのある人間が集まっているとは思うが、見た目で強さが分からないのが魔法の怖い所だ。


「くはーっはっは! 早くセシリアに一太刀浴びせてぇぜ!」


「ひゃあ、もう待ちきれねぇ! 開始はまだか!?」


 ……どうやら中身は碌な奴がいない様だな。仮にこいつらにダメージを受けたらちゃんと合格にするのだろうか。


 まあ、こいつらの戦いぶりを見て、オレもセシリア対策を練るとしよう。


「皆さん、お待たせしました」


「うひょー、本物のセシリアだぜぇ!?」


「一太刀でも浴びせたら合格らしいが、そいつが致命傷になっても構わねえんだろうなぁ?」


 ボケ―ッと眺めているとセシリアが現れる。

 メインの登場に場が湧き始め、噛ませ犬のようなヤジが飛ぶ。


「ふん、致命傷とは謙虚なことだな。男ならワンパンで殺すぐらいのことを言わないとやっていけないぞ」


「何で不参加者が偉そうだニャ……」


 男たちの下卑た野次を無視し、セシリアが話を続ける。


「ルールはご存知の通り、1対1のタイマンです。私に一度でも攻撃を当てられたら勝ち、ダメージの大きさは問いません」


「うぉぉぉぉっ!」


 どこに歓声が沸く要素があったのか不明だが、セシリアの説明に会場が盛り上がる。

 どうやら説明後すぐに始まるようだ。オレも観戦しやすい位置に移動するとしよう。


*


「さあ、そろそろ始まりそうですが、解説のシャオフーさんは結果をどう予想しますか?」


「そうだニャー、やっぱりセシリア様の無傷勝利を予想するニャ! 何と言っても……って、誰が解説だニャ、勝手に実況すな!」


 戦闘の舞台である丸いステージが見える位置で、オレはシャオフーと並んで座っている。

 解説に擬態し、しっかりと全試合を目に焼き付けるとしよう。


「お、早速始まりそうだな。くだらない痴話喧嘩は止めて試合に集中するぞ」


「むむ、相手は自信満々だニャ。でも、セシリア様が勝つに決まっているニャ!」


 オレが目の前の光景に言及すると、シャオフーもセシリアの動きに目を向ける。

 さて、名もなき魔法使いのお手並み拝見といこうか。


「いくぜーっ! オレの『マシンガンジャブ』! 1秒で最大8発の拳、防ぎきれるか!?」


 早速期待できなさそうな発言をしながら、挑戦者がセシリアへ向かっていく。対してセシリアは身動きせず、正面から迎え撃つ構えだ。


「おらおらあっ!」


 男はセシリアの顔面に容赦なく拳をかますが、それは全てセシリアの体をすり抜けている。


「なっ!? オレの拳を、全て避けただと!?」


「今度はこちらの番ですね」


 セシリアは剣を抜くと、そのまま一閃する。男は普通に刃をその身に受け、あおむけに倒れ込んだ。


「ぐはっ……! 紙一重ってところ……か」


 男は訳の分からないことをほざき、気絶した。やれやれ、見る価値のない試合だったな。


「おおっと、一瞬で試合がついてしまいました。シャオフーさん、これをどう見ますか?」


「まあ、当然の結果だニャ! セシリア様の魔法『威光(マジェスティ)』は光を操るだけでなく、自身の体も光と同化させることが出来るニャ! 物理攻撃じゃ勝ち目がないのも当然だニャ!」


 何だこの女。参考になる言葉をぺらぺらと、頭がおかしいのか?

 だがこれは良いな、実況に(かこつ)けて、ありとあらゆることを聞き出すとしよう。


「あっ、次の挑戦者だニャ!」


 シャオフーは自分の発言の重要性を理解していないのか、次の試合に目を向ける。

 オレも視線を前に向けつつ、次の言葉を引き出す質問を考えることにした。


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