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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
フリードの修行編
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第169話 フリード、伸び悩む

 修行も5日目に入り、終わりが見えてきた頃、今度はデットがオレのもとを訪れていた。


「フリード、調子はどうだ。泣くほどつらいと聞いていたが……」


「今日はデットか。見ての通りビンビンだ」


「そうか。……毛布が欲しいと聞いて、持ってきた。もう2日しかないが」


「いや、有難い。人生はたった2日で変わることも少なくないからな」


 国の至宝といわれるこの天才が凍死など、恥ずかしくて各方面に顔向けできないからな。

 今夜はこいつでぬくぬくと過ごすとしよう。


「それで、修行の方は順調なのか?」


「ふっ、当然だ。オレを誰だと思っている?」


 オレは昨日から更に進化を遂げ、右手から鉄、左手から金のように、二種同時生産が可能になっている。

 残念ながら今のところ役に立てる方法は思いついていないが。


 まあ、今日もチタンでも見せるか。どうせ興味ないと思うが。


「はっ! ……どうだ、チタンを生み出せるようになったぞ」


「へえ、チタンか。錆びにくくて軽いから、矢じりに使うと長持ちして便利だと父が言っていたな。今度矢を頼んでいいか?」


「……! ああ、何でも作ってやろう」


 これだ、これこれ。これが正しいコミュニケーションなのだ。

 適度に褒めつつ会話を繋げる。やはりデットはいい女だ。これで服を着ていれば最高だった。


「話すことはたくさんあるが、あとは修行の後に取っておこう。そろそろ帰らないと夜は寒いぞ」


「そうだな、残り2日も頑張ってくれ。最終日の夕方、また全員で迎えに来るつもりだ」


「悪いな。修行後に覚醒フリードの姿を見せてやるとしよう」


 デットは楽しみにしていると最後に言い残し、半裸のまま帰っていった。


「話は終わったのですか?」


「ああ、修行を中断して悪かった。再開しよう」


「ええ、時間もありませんから。……それにしても、あの人間は奇抜な格好をしていますね」


「そう言うな、完璧な存在はつまらない。半裸という欠点が逆に彼女の魅力を引き立てている、オレはそう思っている」


「はぁ……」


 でた、興味ないときの返事、はぁ、である。

 人間と妖精は意外と似ているのかもな。


 まあそんなくだらないことは置いておいて、修行を再開しよう。


*


 修行6日目。


 オレは既に、新しい金属も鉄と同等に生み出せるようになっていた。

 我ながら恐ろしい吸収力、まるでスポンジだ。いや、ここはあえて、スポンジチタンや多孔質金属に例えさせて貰おうか。


「素晴らしい成長です。あと2日、ミスリルを生み出す練習に当てていきましょう」


「ああ、わかった。うぉぉぉぉっ!」


 魔法とはイメージだ。『鉄をだすぜ!』というイメージで鉄を生み出し、『金が欲しい』というイメージで金を生み出す。

 たとえミスリルといえども同じだろう。ミスリルを頭に思い描き、意識を集中する。


「うおおおおっ! ……ふう、すんなりとはいかないか」


「すんなりといく方がおかしいのです。集中力を保ち、2日かけて目標を達成しましょう」


 ティアーニタの優しい言葉に励まされつつ、再度意識を集中する。


 ……だが結局、その日はミスリルを生み出すことはできなかった。


*


 ついに修行最終日となった。何としても今日中にミスリルを生み出さなければな。


 昨日はミスリルを生み出すきっかけもまだ掴めていない。流石に焦りを感じてきた。


「焦りは禁物です。心を落ち着かせ、ミスリルを生み出すことに集中してください」


「わかった。……ちなみに、何か覚醒のコツとかは無いのか?」


 このまま闇雲にやっていても結果は出てこないような気がするな。

 せっかく教師が側にいるのだ、知識を吸収しておくに越したことは無い。


「覚醒と一口に行っても、幅があります。我々妖精は『旅人(ペネトレイター)』という固有の魔法を持っていますが、これは本来自分1人しかワープできない魔法です」


「だが、ティアーニタはオレたちを運んだこともあるな」


「気安く呼び捨てするのは止めなさい。……それも覚醒による結果の1つですが、我が夫オロベンは更に上、森ごと空中にワープさせ続けるほどの力を持っていました」


「……! あれも同じ魔法だったのか」


 今初めて知った新事実だな。オレが森を落とした罪の意識に(さいな)まれるから教えて欲しくなかったな。


「夫も元々それほどの魔力を持っていたわけではありません。私が聞いた時には、一族を守りたいという意識によって生まれた力だと言っていました」


 ここにきて精神論とは。どうやらここから先は、頑張れば結果がついてくるステージではないようだな。


「高潔な精神も1つの要素なのは間違いないでしょう。ですが、それも魔法の知識と技術の上に積み重ねるもの。私の言葉に囚われず、意識を集中しましょう」


「ああ、そうだな」


 やれやれ、地道にやるしかないな。余計なことを脳から除外し、魔法の練習を再開する。


*


「はあ、はあ。……くそ、もう夕方か」


 オレは昼食をとるのも忘れ練習を続けたが、いまだにオレの掌にミスリルは生まれていない。

 もうタイムリミットは目前だ。修行はこのまま消化不良で終わってしまうのか。


「気を落とすことはありません。私は1週間で、他の金属を生み出すのが妥当なところかと思っていました。はっきり言って想像以上の成長です」


「うーむ……」


「それに、ここまで教えれば、あとは1人でも修行は継続できます。時間をかければ必ずミスリルを生み出すことが出来るでしょう」


 女王に慰めの言葉をかけられる。確かに彼女の言う通り、集中するだけならどこでもできるだろう。

 だが、1週間で達成できないということは、天才であるというオレの存在を大きく揺るがすことになるのだ。


 たとえほんのわずかでも、ミスリルを生み出せるようになっておきたい。


「頼む、あと少しだけ付き合ってくれ」

「いいでしょう。……今、プッカがあなたのお仲間を森の入り口まで迎えに行っています。皆が帰ってくるまで続けましょう」


 もはや猶予もないが、集中だ。いつ皆が現れてもおかしくないが、諦めるわけにはいかない。


「お兄様ー!」


 ……集中する直前に響く、悲しい呼び声。これにて試合終了か。


「……久しぶりだな、皆」


「御主人様、御無事で何よりです! 修行はどうでしたか?」


 憂いを帯びたオレに、早速胸を抉る本題を問いかけてくる。人間、素直が一番。ここは正直に悲しみを伝えるしかないようだな。


「ちょっとお待ちなさい。プッカはどうしたのですか?」


 口を開こうとした瞬間、間が良いのか悪いのか、女王が口を挟んできた。

 だが、確かにプッカの姿が見えない。あの賑やかな妖精がこの場にいないのも妙な話だな。


「森の入り口まで迎えに行っていたはずですが、彼女はどこですか?」


「いえ、会っていませんよ。最初にここに来た時と同じルートを通ってきましたが……」


「うーん、おかしいな。妖精が自分の庭で迷子になるのか?」


 見た目も中身も幼く感じるとはいえ、プッカは実年齢67歳だぞ。迷子になるとしたらボケが始まっているぞ。


「少し心配ですね。皆で探しましょうか」


「そうだな。来た道を戻ってみるか」


 集落を離れ、森の入り口へと歩いてみる。オレはともかく、皆は来たり帰ったりで大変だな。


「皆さん、なにか声が聞こえませんか?」


 少し歩きだしたところでアルトちゃんが声をあげる。耳を澄ますと、確かに何か聞こえてくる気がする。


「……けて、助けてーっ!」


「な!? あれは、プッカの声です!」


 まさか、トラブルに巻き込まれてしまったのか?

 オレはる声がする方へ、全力で走り出した。


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