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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
フリードの修行編
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第165話 交渉

 オレたちは妖精プッカの案内で、森の奥へと足を踏み入れていた。


 他の妖精たちは、つかず離れずの距離で着いてきているようだ。警戒しつつも興味あり、と言った感じだな。


「どうだ、この森は? オレが大地に落としてしまったせいで困ったことは無いか?」

「いえ、大丈夫です! ローズ様のギルドの方が森を移動してくれたおかげで、人間に会う事もほとんどありません。時々、ローズ様も様子を見に来て、その度にたくさんフルーツをくれるんです」


 少し罪悪感を感じていたところもあったが、無事なのであれば何よりだな。

 ……それにしてもローズめ、いい男ぶりを発揮しやがって。


「……! あれ、見てください! 花がたくさん……!」


 エミリアの声を聞き目線を奥にやると、花の飾られた柵が見え始めた。

 外敵を防ぐためというよりは、家の壁を飾り立てるかのようにカラフルに彩られている。


 よく考えれば、前回は警戒されまくっていたので、妖精たちの住処に入るのは初めてだな。


「着きました、ここが私たちの集落ですけど……。まずは、女王様に聞いてきますね」


 プッカはそう言うと、柵の中に飛んでいった。しばらく外で待つとしよう。


「妖精の女王というのはどんな方なんですか?」

「美人だけど小さいから可愛らしさもある、一粒で二度おいしいって感じだな」


「……何ですか、その評価は」

「まあ、責任感のあるリーダーって感じだ。会えばわかる」


 もう目の前なのだから直接会えばいい話だな。そう考えていると、可愛らしい怒り声が響いてきた。


「何しに来たのですか、人間ども!」

「おお、久しぶりだな、ティアーニタ。お元気そうで何よりだ」


 声のした方を見ると、そこには女王が怒り顔を浮かべて浮遊していた。


「そんな挨拶などいりません! 我々が人間を避けていることを知りながら大人数で来るなど……」


「まあまあ、落ち着いてくれ。これには深い訳がある。美人で有名な女王様にどうしても会ってみたいってな」


「そうですか、それは結構! 満足したなら早く帰りなさい!」


 取り付く島もないな、完全に怒り心頭の様子だ。相変わらず人間嫌いは治ってないらしい。


「女王様、フリード様には恩もありますし、どうか話だけでも……」

「恩? この男に? この森を落とした張本人に、優しい顔などできるものですか!」


 やれやれ、ヒステリックで困りますな。警戒されるのは無理もないが、ここまで拒否されると鋼鉄のハートが傷ついてしまう。


「プッカ、負けるんじゃない。人間と手を取り合う大切さをもっと説くんだ」


「はい! 女王様、フリード様の言う通りです! 決して彼らは悪い人間ではありません!」


「あなたはどちらの味方ですか! ……はあ、話があるというのであれば聞きましょう。ただし、我々の集落に入ることは認めません」


 怒りで追い返すことは諦めたのか、粘り強い交渉のおかげでとりあえず話をする余地はできたな。

 ここでうまいこと取り入って、力を貸して貰うとしよう。


*


「修行?」

「ああ、そうだ。妖精たちの魔法に対する深い知識を教えて欲しい」


 オレは集落の外で早速本題に入ることにした。既に心象は若干悪いが、まずは素直にお願いする作戦だ。


「お断りします。私は今でも人間たちに魔法の知識を与えたことは間違っていたと思っていますから」


 まあ、想像通りの答えが返ってきた。正攻法では難しそうだな。


 オレが横の方を見ると、ステラとプッカが花を集めて何かをやっている。

 ……どうやら、花で冠を作っているようだな。


「ほら、見てみろ。過去を知らない子供たちが仲良さそうにしている。いつか子供だけでなくオレたちも手を取り合う日が来ればいいのにな」


「……それとあなたの修行に付き合う事は何の関係もないと思いますが」


「正論を言って勝ったつもりか? ここで意地を張っても悲しむ顔が増えるだけだ。さあ、ここから始めようではないか」


「……やはり人間というのは愚かで傲慢で厚顔無恥ですね」


「おっと、その言葉は訂正して貰おうか。世の中には優しい人間もたくさんいる。オレだけを見て人間全てを知った気にならないでもらいたいな」


「……あなたはそれでいいのですか」


 オレは天才なので怒っている相手への対処法は熟知済みだ。相手を呆れさせることができれば、怒りはどこかへ飛んで行ってしまう。

 今回も思惑通り、怒りがため息に変わったようだ。


「お兄様、お話は終わりましたか?」

「ああ。オレの修行を面倒見てくれるって」


「女王様、分かってくれたんですね!」

「そんなこと言っていません! 何故あなたはその男を信用しているのですか!」


「だって、私のことを助けてくれましたし……私は今まで、優しい人間にしかあったことがありません」

「そんなことは無いぞ。かつて浮遊島を襲ったのも同じ人間だ」

「あっ、そこは否定するんですね……」


 ここが攻め時だな。女王様は同族の言葉には耳を傾ける度量があるようだ。

 オレもプッカの助力を得て、女王を落としにかかるとしよう。


「オレが言いたいのは、種族で決めつけずに仲良くしようという事だ。人間全員を信用する必要はないし、オレも知らない奴を信用するほど愚かではないからな」


「……いいでしょう。あなた個人を受け入れる、という事に関してはですが」


「……! 本当か!? 有難い、よろしく頼む」


「ただし、信用するのはあなただけです、他の者は帰すように。そして、期限も1週間だけ。それ以上は認めません」


「十分だ、ありがとう。本当に助かる」


 オレは女王の手を取り、感謝の気持ちを伝える。本当ならハグでもするところだが、この体格差だと危険な気がするので止めておこう。


 オレは手を放すと他のメンバーの下に向かい、報告することにした。


*


「1週間、修行、ですか……」

「ああ。悪いが他のメンバーを連れて、村の方で過ごしていてくれ。寒いから夜は暖かくするように」


「わかりました。御主人様も気を付けて」

「任せておけ。1週間後には"本物"を見せてやろう」


「……どういう意味ですか?」

「オレにもわからない。まあ、きっと成長するだろう」

「……はあ」


 短く連絡をすると、早く帰るように急かす。

 今は冬だし、帰りも4時間は掛かってしまうだろう。まだ日が高いうちに帰った方が良い。


「お兄様、お気をつけて!」

「風邪にも注意してくださいね」

「安心しろ、オレは風邪など引いたことがない」


 心配そうな表情のエミリアたちを見えなくなるまで見送る。

 よし、早速修行をお願いするとしよう。


「ほら、約束通り帰したぞ。よろしく頼む」

「……いいでしょう。私もやるからには手を抜きません」


 真面目な性格の彼女は、しっかりと修行に付き合ってくれるようだ。

 一週間みっちりと修行して、最強の天才へとなるとしよう。


「それで、具体的にどんなことをするんだ?」

「2ステップに分けて修行しましょう。まずは基礎を鍛えます」


「基礎か……。昔、スタミナ限界まで魔力を使い切るようなことはやったことあるが」

「愚かな。人間は速く泳ぐ練習をするとき、何も考えずに限界まで泳いでいるのですか?」


「……つまりは、ただの持久力や筋力トレーニングのようなものではないという事か」

「はい。……まずは、あなたの穴を緩くします」


「……え?」


 どうやら、修行はオレの予想以上に過酷になりそうだな。


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