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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
第2位ギルド『再誕の炎』編
162/198

第161話 雌雄を決する戦い

 ついに始まったマルジェナとの試合。


 オレは深呼吸をして目の前に立つ女を見据える。始まった瞬間に強襲するつもりは無いようで、笑みを浮かべてこちらを見つめ返している。

 

「どうしたの、仕掛けてこないのはビビっているのかしらぁ? まあ、逃げなかっただけでも褒めてあげるけどぉ」

「ふん、逃げるはずがないだろう。オレがこの試合に勝利するのだからな」


「自信があるのはいいけど、あなたの攻撃は私に通用しないわぁ」


 マルジェナはそう言うと両手を広げる。どこからでも来なさいというポーズなのだろうか。


 自信満々なのはお互い様だと思うが、見つめ合っていても試合は進まない。こちらから仕掛けてみるとしようか。


『おおっとーっ! フリード選手、体から鎖を生み出し始めたぞぉーっ!? いったいどんな攻撃を仕掛けるつもりだーっ?』


 ……実況されるとやり辛いな。見世物なので仕方ないのかもしれないが。


 オレは鎖を大量に生み出し、全方位からの攻撃を準備する。これは作戦その1、『死角からの攻撃なら反応できないんじゃね? 作戦』だ。


 先日、オレの体に傷つけることなく心臓に触れたマルジェナの魔法。オレは、物質を透過する魔法だと予想している。


 だが、魔法というのは使おうと思わなければ使えない。

 単純な透過魔法が発動しっぱなしだと物が掴めないからな、本人の意思で切り替えているのは間違いないだろう。


 つまりは、隙を突けば勝機ありだ。


「へえ、こんな大量に出せるなんて、若いっていいわねぇ」


 どんな感想だそれは。その減らず口を少し黙らせてやるとしよう。


『フリード選手、生み出した鎖を一気にマルジェナ選手に向けて発射したぁーっ! これは逃げ場がないぞーっ!』


「……やったか?」


 鎖はマルジェナがいたところに積み重なり、大理石のステージごと叩き潰している。土埃を上げ、鎖も邪魔で視界が悪い。


「ふぅ、これでおしまいかしらぁ?」

『なんとっ! マルジェナ選手、無傷だぁーっ!』


 だが、その中から平然とした顔でマルジェナが現れる。最近はまともに攻撃が通用しなくて困るな。

 ならば次の作戦に移行しよう。


「今度は何の真似かしらぁ? ……埃?」

「……アルミ粉だ」


 作戦その2、粉塵爆発。

 最近この技に頼りっぱなしだが仕方がない。他は全部、物理的な攻撃なのだ。


 閉鎖空間ではないが、普通の人間なら火が付けば死ぬ。鎖はすり抜けても火はどうだ……?


『フリード選手、今度は一体何を……!? これは、一気に会場が火の海だぁぁっ!』


 オレが火をつけた瞬間、一気に火が燃え広がりステージが火炎に包まれた。この爆発的な火の侵攻、回避不可能だ。

 さらには、火は空気を奪う。火が直接効かなくても、2次的な被害までは防げないだろう。


「はあ、残念ねぇ。これが奥の手かしらぁ?」


「……! まさか、火も効かないとはな」


「当然よぉ、火を怯える程度ではAランクは務まらないわぁ」


 火が消えると、そこには何も変わらない様子でマルジェナが立っていた。息苦しそうな雰囲気も熱がるそぶりも全く見せていない。


「これも通用しないとは、ただの透過魔法ではないのか……?」

「あなた、少し勘違いしているようねぇ。私の魔法は、"無視する"魔法。鎖も、火も、他人の魔法でさえ、気に入らないものは存在していないのも同じ。『唯我独尊(ヴェイングローリー)』、それが私の魔法よぉ」


 マルジェナは試合開始時と同じ、笑みを浮かべた表情で説明する。


 ……なるほどな。セシリアでさえ言葉を濁すほどの魔法。無視する魔法とは、そんなものが存在していいのか。


「何故私が魔法の正体をばらしたか分かるぅ? 答えは簡単、バレても問題ないからよぉ。過去、私の体に傷をつけたものはいない、誰一人としてね」


 この様子だと、どうやらオレが他に持ってきた策では傷を負わせることはできなさそうだ。


「さあ、そろそろ終わりにしましょうかぁ!」

「くそっ!」


 マルジェナはそう言うと、こちらへと向かってきた。武器を持っていないが、触れれば内臓を直接握り潰すことも可能だ。

 思わず鉄の壁を生み出して防御するが、何も無かったかのようにその壁をすり抜け、オレへと手を伸ばす。


「ちっ!」

「あらぁ、逃げ足だけは早いわねぇ」


 オレは足元にスプリングを生み出し、その反発力を利用して飛び退く。

 幸いにして、マルジェナの運動能力は並のようだ。逃げに徹すれば時間は稼げる。


『これにはフリード選手、逃げるしかないかっ!? さっきの勢いは何処に行ったんだ!』

「ちゃんと戦えこらーっ!」


 マルジェナから距離を取り続けていると、観客からブーイングが飛ぶ。

 うるさい奴らだ。オレの最後の作戦は時間がかかるのだ、黙っておくがいい。


 十分に距離を取ったことを確認すると、鉄を生み出し始める。この技が通用しなければ、本当にもう負け確定だ。


「……!? これは……?」

「見ておくがいい、オレの最大出力……!」


 オレの生み出した鉄は、ステージから流れ落ちその下の地面へと染み込んでいく。そして、どんどん溢れてくる鉄は、やがてステージを持ち上げ始めた。


『なっ、なんと!? 大理石のステージが、空中へと持ち上がっているぞーっ!? なんて力だ!』


 オレたちの舞台はさらに高くなり続け、まるで山のように盛り上がった鉄から観客席が見渡せるほどになった。

 あそこからだとこちらの様子はよく見えないのであろう、ざわざわとした困惑の声が聞こえている。


 目線の高さには王都の城が見える。落ちたら無事では済まない高さだ。


「ふん、これで舞台は整った。オレの勝ちだな」

「……何が言いたいのかしらぁ?」


 マルジェナはそう言うが、顔から笑みは消えている。やはりオレの予想は正しかったようだ。


「オレはお前の魔法の攻略法を見つけた。……高所恐怖症なのだろう?」

「……はぁ?」


 呆れた顔をするが、オレの言いたいことは伝わったはずだ。


 ……マルジェナの魔法の弱点、それはずばり、飛行できないことだ。


「オレがこの鉄の山を消せば、ステージごと地面に落下だ。オレは死なないがな」

「……」


 地面に落下すれば、確実に死が見える。彼女がそれを回避するには、床をすり抜けるしかない。


 だが、床を回避してどうなる。永遠に地面の中を落ち続けるのか?

 魔法を解除して地面に干渉すれば、当然その瞬間に衝撃も体に伝わるだろう。


 この高さまで登った時点で、もはや詰んでいるのだ。


 マルジェナは黙ったままだ。十分距離もある、相手が動くよりも早くこちらはステージを落とせるだろうな。

 間違いなく、この試合についてはオレの負けは無いと言える。……この試合はな。


 この試合が終わった後、もし再び戦うことになったら確実に負けるだろうがな。


「……はぁ、こんなことならあの時心臓を握りつぶしておくべきだったわぁ」


 マルジェナは諦めたようだ。目をつぶり、大きなため息をつく。


「ふん、たとえ心臓を握り潰されてもオレは死なない。未来が約束されているからな」

「未来? くだらないわねぇ、何を根拠に……」


「未来を視ることのできる魔法使いが保証してくれたからな。それ以上の証拠は必要ない」

「……!」


 かつてオレの命を救った恩人が言った言葉だ。疑う余地はない。

 その恩人が天才だと言ったからオレは天才なのだし、世界を救うと言ったからいずれオレは世界を救うのだ。


 だからマルジェナが今後干渉してこようとも、オレの死だけはあり得ない。


「……そう、あなた、ワーグナーを知っているのね。通りで……」

「お前も知っているのか?」


 思わず聞いてしまったが、Aランクギルドであれば知っていてもおかしくないな。

 もし生きていたら、この女と同じぐらいの年齢かもしれない。かつての第1ギルドの長だったはずだから、面識があってむしろ当然と言える。


「……私の負けよ。降参するわ」

「え? 降参するのか?」


 突然だったので間抜けな聞き返しをしてしまった。最悪膠着状態で引き分けに持ち込もうと思っていたのだが。

 だが彼女は、司会に向かって声を上げる。


「あなた、早く仕事なさい! この試合は、私の負けよ!」

『え……? なっなんと、この上空で一体何があったというのかーっ!? マルジェナ選手、突然の降参だーっ!』


 司会も突然のことにビックリしている。当然だ、負けるはずのない『無敵の魔女』が自ら降参を宣言するのだから。


「ほら、あなたの勝ちよ。早く降ろしなさい」

「あ、ああ……」


 オレは鉄を操り始め、ステージを元にあった場所へゆっくりと着地させる。

 観客は大騒ぎだ。お互い怪我をしていないのに突然試合が終わり、八百長扱いやオレたち2人に対する暴言が飛び交っている。


「……フリードと言ったかしら。また今度会いましょう」

「あっ、おい……」


 マルジェナは周囲のことなど全く気にせずその場を去っていった。まったく意味が分からない。


 周囲の騒ぎの中、オレは後ろ姿を目で追いながら1人ステージの上に立ち尽くしていた。


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