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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
第2位ギルド『再誕の炎』編
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第159話 ハートキャッチマルジェナ

 間一髪でマルジェナを追い払ったオレは、ランベルト少年と向き合っていた。


「……ふんっ!」

「ぐっ! 痛ってー、何すんだ!?」


 オレは少年の脳天に錬金術奥義・鉄拳制裁を加える。


「殴られた理由が分かった時が大人になった時だな」

「……! くそっ!」


 憤慨する少年を放置して、帰ることにする。ただでさえ子供をたくさん抱えているのに、これ以上手をかけさせないでくれ。


*


 それから数日。

 オレは普段通りに金稼ぎをしつつ過ごしていたが、目立った事件は特になかった。


「フリード、帰ったぞ」

「デットか、お帰り。あの少年はどうだった?」


「特に動く様子は無かった。もう心配する必要はないんじゃないか?」


 デットはテーブルにつきながら報告をする。


 オレも忙しいので常についてやれるわけでは無いものの、一応心配してデットに監視をお願いしていたのだが、どうやら考え過ぎだったようだ。


「寒くなってきたのにお前にお願いして悪いな」

「……それはどういう意味だ?」


 オレの軽口にデットは脇チラへそチラさせながら睨みつける。そういうとこだぞ。


 まあ、何も起きないのであれば結構なことだ。ゆっくりと平和な時間を過ごすことにしよう。

 丁度エミリアが淹れてくれたコーヒーを飲みつつ、窓を眺める。大分冬も近くなってきたな。


「お兄様ー! もし時間があれば、お勉強教えてください!」

「いいだろう、勉強で手がかかるなら大歓迎だ」

「……?」


 ニコニコしながらも頭にハテナを浮かべるステラを空いている席に座らせると、勉強を見てやることにした。


「どうだ、学園は? 楽しんでいるか?」

「はい! お友達もたくさんできました!」


「そうか……。友達は多い方がいいぞ、やっぱり」

「はい! お兄様も友達が多いんですか?」


「……」

「お兄様?」


*


「ふう、結構時間が経ったな」


 昼下がりから勉強を教え始めたが、もう2時間は勉強を教えただろうか。


「お兄様の勉強が分かりやすいから頑張れます!」

「そんなヨイショは要らないぞ。少し休憩にしよう、何か甘いものでも食べに行くか」

「……相変わらず妹に弱すぎないか?」


 適度な休憩はより良い学習の為に必要なのだ。半裸の小言は無視して外に出かけるとしよう。


「御主人様、お出かけですか?」

「ああ、ちょっとおやつの時間だ」


「……! もうすぐ夕食ですよ、我慢してください!」

「夕食までまだ2時間はあるだろう?」

「ダメですよ!」


 全く、お小言が多いでございますな。あんなに勉強を頑張ったステラを悲しませるのか。


「じゃあこうしよう。夕食後にみんなで食べれるような大きいケーキを買ってくればいい」

「まあ、それなら……」


 ふっ、説得終了だ。また天才ポイントを稼いでしまった。

 鬼を追い払ったところで、ウキウキで外出することにしよう。


 ……と思ったところで、呼び鈴の音が聞こえた。


「お客様ですね、ちょっと対応します」

「……オレは留守と言ってくれ」


 もうお出かけモードなので、相手するのは面倒だな。どうせ大した客じゃないだろう。

 だが、数分後に浮かない顔で戻ってきた。これはいよいよ招かざる客のようだ。


「御主人様、その……」

「はぁい」


 ……最悪だ、何故この女がここに来る。

 我がギルドホームに現れたのは、マルジェナだった。


*


 仕方なく再び席につくと、マルジェナがその対面に座る。

 近くにはなんとなく他のメンバーも集まってきていた。変な女が来たら警戒するのも当然だ。


 その顔を一通り眺めると、マルジェナが言葉を漏らす。


「可愛らしいギルドメンバーを揃えているのねぇ」

「それは同意だな。オレもそう思っている」

「……やっぱり面白いわぁ、あなた」


 こっちは忙しいというのに、年増の話を聞きたくはない。早く本題に入って欲しいものだな。


「……どうしてこいつを中に入れたんだ!」

「だって、第2位ギルドのギルドマスターですよ!」


 再びコーヒーを準備したエミリアと小声で言い争う。


「お客の前で痴話喧嘩? やぁねぇ」


 何がやぁねぇ、だ。誰のせいだと思っている。


「それで、何の御用で?」

「貴方のことが気になったから調べさせてもらったわぁ。フリード・ヴァレリー、学園を首席で卒業後、たった2年足らずでギルドをBランクに引き上げた俊秀。凄いわねぇ、坊や」


 ……なんだ、オレを褒めに来たのか? 実はいい奴だったのか。

 ガキという呼び方も坊やに格上げされているし、これは認められたという事か。


「だから、今日は貴方をスカウトに来たのよぉ。こんな小さなギルドを捨てて、私のものになりなさい」

「……え?」

「なっ、ななな、何を言っているんですか!」


 マルジェナの言葉に、オレではなく遠巻きに見ていたエミリアが驚きの声をあげている。


 まったく、この女は何を言っているのか。ヘッドハンティングで他のギルドのヘッドを奪おうとするか。意味を履き違えているぞ。


「返事はどうかしらぁ」

「当然答えはノーだな。オレはこのギルドを気に入っているし、おばさんに興味は――っ!?」


「御主人様っ!?」

「お、おい! お前、何をやっている!」


 ……一体何が起こったのか。

 オレがお断りの言葉を口にした瞬間、マルジェナの右手がオレの胸を貫いていた。


「ぐっ……!」

「嫌あっ、お兄様っ!」


「早く手を放せっ!」

「ふふっ、怖いわぁ」


 オレの下にステラとエミリアが駆け寄ってくる。デットは愛用の弓を引き絞り、マルジェナに一瞬で狙いを定める。


「お前たち、大丈夫だ……! まだ心臓は動いている……」

「そうねぇ、鼓動が直に伝わってくるわぁ」


 何が起きたのかはわかっていないが、オレの胸は傷1つ付いていない。だが、この女は今、オレの心臓を鷲掴みにしている。


「皆血相を変えて。愛されているわねぇ」

「ふん、当然だ。オレは、天才だからな……!」


 こいつの魔法はなんだ。肌に触れずに心臓を掴む魔法、ただの透過の魔法ではない。

 この女は弄ぶように、オレの心臓を柔らかく握る。わずかに締め付けられる感触が、頭痛を生んでいる。


 ……だが、一瞬その手が力を失う。


「あらぁ……?」

「フリード様、今ですわ!」


 どうやらルイーズが魔法を使ったようだ。マルジェナの手が、ゆっくりと体から抜けていく。


「へえ、"干渉型"の魔法ね。悪くない魔法だけど、デメリットもあるようねぇ」

「……ぐ! げほっげほっ!」

「ルイーズさん!」


 この女は、かなり手練れのようだ。ルイーズの魔法の正体を一瞬で見抜き、逆にそれを利用してルイーズの首を絞め始める。

 だが、おかげで抜け出すことができた。ルイーズも魔法を解除し、せき込んではいるが無事なようだ。


「やだぁ、皆怖い顔ねぇ。今日はほんの挨拶よぉ」

「……冗談で済むレベルではないぞ」


 マルジェナは十分遊んだというようにオレたちを見回すと、胸から封筒を取り出し、机の上にすっと静かに置いた。


「何の真似だ?」

「これは、メインイベントのお誘いよぉ。ギルドマスターの誇りをかけた、1対1の試合、楽しみねぇ」


「……受けると思っているのか?」

「受けなきゃどうなるかは十分教えたつもりよぉ。また、会いましょうね」


 彼女は言うだけ言うと、背を向けそのまま帰っていった。

 完全に足音が消えると、緊張の糸が切れたかのように自然にため息が出た。


「お兄様っ! うううっ、無事でよかったです……!」

「はあ、危なかったな」

「危ないどころじゃないですよ、もうっ!」


 ステラがオレの胸に縋りついて涙を流し、他の者も近くに寄ってオレを取り囲む。

 まだ終わったわけでは無いが、とりあえずは全員無事だ。


 今だけはマルジェナの置き土産のことは忘れ、ステラの涙が止まるのを待つことにした。


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