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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
第2位ギルド『再誕の炎』編
159/198

第158話 無敵の魔女

 オレは少年の言葉に頭を悩ませていた。


 確かにオレは依頼達成率100%を誇る天才だ。見知らぬ少年が一縷の望みをかけて困難な依頼を託そうとするのも無理はない。


 だが、突然『マルジェナを殺して♡』と頼まれても、よっしゃ殺そう、と思うほど単純な男ではないのだ。


「頼む、金ならいくらでもある! ……いや、2000万ベルほどなら!」

「……少年よ、人を動かすのは金ではなく心だ。何故マルジェナを憎むのか教えてくれ」


「少年じゃない、ランベルトだ。ベルルスコーニ男爵家の次男、13歳。趣味はバイオリンだ」


 自己紹介を頼んだつもりは無かったが、少年は早口で言葉をまくしたてる。オレの読み通り、やはり貴族だったようだな。


「……それで、ランベルト君。どうしてマルジェナを殺したいんだ?」

「あいつが、オレの兄貴を……兄貴を、殺したからだっ!」


 ランベルトは感極まったのか、新調したばかりの机にダンッと強く拳を打ち付けながら叫ぶ。

 そして、少年の目尻には涙が浮かんでいた。どうやらおふざけでここに来たという訳ではなさそうだ。


「ふーむ、あの女が……。頭はおかしいと思ったが、そう簡単に人を殺すとは思えなかったがな」


 そう思う理由は何といってもその立場だ。第2位ギルドという圧倒的な地位を築いている人間が、そう簡単に人を殺すとは思えない。

 何故あの女が評価されるのか? それは国に貢献しているからだ。強いからではない。


「……オレの兄貴が死んだとき、オレは第1ギルドに真相の解明を頼んだんだ。だが、答えは『深くは関わるな』だった」


「……隠す理由が第2ギルドに関係あると?」


「そうだ。貴族の間では暗黙の了解だ。第1ギルドが関わり合いを拒むのは、第2位ギルドが絡む時だけだと」


 ……そういえばシャオフーもそんなこと言ってた気がするな。


 その時は『こいつ隊長格なのに何も知らねえな』と思ったが、もしかしたらあまりしゃべるなと言われていたのかも知れないな。


「まあ、犯人が誰かはオレでは判断しかねるが、理由は分かった」


「……! じゃあ、殺ってくれるのか!?」

「いや、暗殺は犯罪だからな。他を当たってくれ」


 俺の結論は、辞退だ。仮にマルジェナが本当に犯人だとしても、殺すつもりは無い。 


「……くそ、ビビってんのかよ!」

「オレは口喧嘩は強い方だ。どんだけ挑発しても答えは変わらないぞ」


 少年は騒ぎ立てていたが、やがて諦めたのかドタバタと慌ただしく帰っていった。


「御主人様、大丈夫ですか? なんだか騒がしかったですけど」

「子供というのは手がかかるからな」


 やれやれ、久しぶりに頼られたと思ったらこんな案件とはな。


 頭を切り替えて、夕食を待つとしよう。


*


 翌日。


 オレは第1ギルドのホームへと来ていた。

 合鍵を使って中に入ると、大声で人を呼ぶ。


「うおおおおっ! うおおおおおっ!」

「あ、あの……フリードさん?」

「お、やっと来たか」


 しばらく叫んでいると、恐る恐ると言った感じで女の子が話しかけてきた。建築部隊の少女、ティーナだ。


「あの、鍵かかってたはずですけど……」

「そんなことは些細な問題だ。セシリアは居るか?」

「執務室にいるかと……」


 中にいるという事は、叫んでいたのに無視したという事か。許せないな。

 勝手知ったる建物の中をずんずんと歩いていき、執務室の扉をノックする。


 耳を澄ますと、中から声が聞こえたので侵入することにした。


「おはよう、セシリア。今日は質問があってきた」

「……さっきから騒いでいたのは貴方ですか」


 露骨にため息をつくと、応接用のソファーに移動してきた。話が早くて助かる。


「それで、聞きたいことというのは?」

「単刀直入に聞こう。マルジェナは貴族を殺したことがあるか?」


「……その質問をする時点である程度事情は知っているようですが」


 という事は、昨日の少年が言っていたことは本当だったのか。


「何故そんなことが許される? いくら第2位ギルドでも罪は罪だと思うが」

「……あの女は特別です。国は愛していても、王や貴族は愛していません」


 緘口令が敷かれていると思いきや、意外とあっさり教えてくれた。よく意味は分からないが。


「……もう少し詳しく」

「つまり、第2位ギルドは王政の廃止を目的としたギルドなのです」

「……?」


「結局全部話す必要がありそうですね」

「そうだな。話さないと帰らないぞ」


 セシリアはまたもため息をつくと、ソファーにしっかりと座り直す。


「彼女は、国は国民主導で運営すべきという考えの持ち主です。貴族や王族など、家柄だけの存在が偉そうにするのを良しとしません」


「……結構な考えなのでは?」

「貴方から見ればそうでしょうね」


 王族であるセシリアは微妙な顔をしているが、別に考え自体はおかしくないと思うが。


「だから、彼女は許せないと思ったら貴族でも王族でも殺します。それ以外でも分け隔てなく殺しますが」

「平等に扱うなら別にいい気がするが」


「そういう訳にはいきません、国には法律があるのですから。貴族は裁判で裁くのがルールです」

「要するに、魔法を鼻にかけた私刑野郎と言いたいわけだな?」


「野郎ではありませんが、その通りです。そのため彼女は王侯貴族からの評判は最悪ですが、逆に一般市民からの評価は圧倒的です。それが悩みの種であるわけですが」


 彼女は更に深いため息をつく。常識人はこういう時に辛いよな。わかるわかる。


 まあ、マルジェナのことは少しわかったな。

 貴族を殺していたとしても、それは貴族側にも罪があるからだと言いたいのだろう。


 手順は踏んでいないが、真正面から否定もできない、その上強くて国民の評価も高い。目の上のたんこぶという事だな。


「よく勉強になったよ、セシリアちゃん」

「……貴方も私の悩みの種にならないことを祈っていますよ」


 どうやらオレはまだセーフ判定のようだ。忙しそうなので話をさくっと切り上げ、帰ることにした。


*


 朝早くホームを出たはずなのに、もうお昼前だ。早く昼食をとるために家に帰らねば。


 時間短縮の為に最短ルートを通って帰っていると、何やら騒ぎが発生したようで人混みができていた。

 こういうのを見ると顔を突っ込まなければ気が済まない性分なので、人混みを掻き分け騒ぎの中心を覗いてみる。


「ちょっとぉ、私は忙しいんだけどぉ?」

「黙れ、人殺し! 俺の兄貴を返せ!」

「……!」


 なんと、騒ぎの中心はマルジェナと、昨日の少年であった。

 オレが依頼を受けなかったせいで、実力行使に出たのか?


「兄貴? 言っとくけど私は無意味に人を殺めないわよぉ?」

「嘘をつくな! この前のパーティーの後、兄貴にあったはずだっ!」

「……ああ、あの?」


 少年の言葉に、マルジェナは心当たりのあるような反応をする。やはり殺したのは間違いないのか?


「いいかしらぁ、坊や? 人を殺そうとするのは犯罪なの、貴族でもね。わかるぅ? 罪には罰が必要よねぇ」


「……! やっぱりお前が兄貴を! ……殺してやるっ!」


「はあ、似ている兄弟ねぇ」


 少年は懐からナイフを取り出すと、マルジェナへと向かっていった。

 対してマルジェナは余裕の表情だが、目は笑っていない。


「……あらぁ?」

「なっ、おっさん!? 何でここに!?」

「……お兄さんなのだが?」


 オレはその場に飛び出すと、少年のナイフを体で受け止める。当然錬金術で無傷ではあるが。

 まったく、無鉄砲にもほどがあるな。オレが飛び出していなかったら、この女は少年を殺していたかもしれない。


「この間のガキじゃない。何ぃ、その貴族の味方なのぉ? 言っておくけど、人を殺そうとするのは犯罪よぉ。それを庇うのもね」


 ……おっさんだったりガキだったり忙しいな、今日は。


「オレは貴族の味方じゃない、子供の味方だ。こんなおもちゃにムキになって恥ずかしくないのか?」


 オレは体に刺さったナイフを取り出すと、彼女に見せつける。そのナイフには刃がついていなかった。

 錬金術で金属を操り刃を取っただけだが、この衆人環視の前で見せつければ効果は絶大だ。


 人を殺せそうにないものにムキになる女、という構図を作り出すことができるからな。


「あははっ! ……やっぱり面白いわねぇ、あなた。その真っ直ぐな瞳、あの人を思い出すわぁ」

「……?」


 マルジェナはこの前のように高笑いすると、そのまま去っていった。


 ……はあ、疲れる。子供の味方も楽じゃないな。


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