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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
間章 束の間の休息
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第150話 M-1開催のお知らせ

 オレは家財道具を買うために街へと繰り出していた。

 家は第1ギルドにタダで建ててもらうことに成功したが、流石に家具までお願いするわけにはいかない。


「なんだか街が賑やかになってきた気がしますね」

「ああ、前国王が亡くなったせいで収穫祭の開催が危ぶまれていたが、新国王の就任式と合わせてやることになったらしいな」


 エミリアの言う通り、中心街は活気づいている。


 戦争に国王の卒去と暗い出来事もあったが、結果的には戦勝、新しい国王の誕生とめでたい事も起きている。

 やはり暗いよりかは明るい方が良いからな。祭りが開催出来て嬉しい限りだ。


 ……大事な稼ぎ時でもあるからな。


「見てください、何か配っていますよ」


 エミリアの指差す方向を見ると、群衆に向かって紙を配っているものが見える。それも1人や2人ではない。

 紙も消耗品の割にお高いので、わざわざ配るなんてよほどお金が有り余っているに違いない。


「皆さーん! 大食い大会の参加者募集中でーす! 胃袋に自信のある挑戦者待ってまーす!」

「大食い大会……?」


 意味はなんとなく分かるが、聞きなれない単語だな。

 誰にも拾われず足元へ飛んできた紙を拾い上げ、中に目を通す。


「珍しいな、戦勝記念としてイベントをやるのか」

「誰が一番多く食べるのか競うみたいですね。御主人様も出てみたらどうですか?」

「いや、オレは食事はじっくり味わう派だ」


 なかなか盛り上がりそうなイベントではあるものの、特に興味ないし勝ち目もないだろう。今回は見物客として見るだけにしておこう。


「どうやら他にもたくさんイベントをするみたいですね。あっちの方はまた別の紙を配っているみたいですよ」

「どれどれ。……こっ、これは! メイドさんNo1を決める、『M-1』開催のお知らせ、だと!?」


 なんだその魅力的なイベントは。これは出るしかないではないか。

 無論、オレではなくエミリアが、だが。


「エミリア、オレの言いたいことが分かるな?」

「な、何の事ですか……」


 今まで高学歴特有の察しの良さを発揮してきたエミリアが分からないはずがない。

 我々はこの大会に参加し、そして優勝するのだ。


「頼んだぞ、エミリア。これは業務命令だ」

「ちょっと待ってください! こんなの勝ち目ないですよ……!」

「いや、むしろ勝ち筋しかない。そろそろ『天才』以外にも箔が欲しいと思っていたところだ、ここで1つタイトルを取っておこう」


 これは楽しくなってきたな。我々のギルド名を少々轟かせてしまおうか。


「御主人様、このビラをよく見てください。参加は2名の事、と書いていますよ! 残念ですが参加資格がないですね……!」


 エミリアは嬉しそうな表情で小さく書かれた注意事項を読み上げる。


「2名? ちょうどいい、アルトちゃんにも参加してもらう。戦闘力が上がってバランスも良い」

「いらないですよ、戦闘力なんて! それに開催も明日になっていますよ!」


 もう騒いだって手遅れだ。オレという名の馬車は走り出している。

 家財道具など後だ、早速アルトちゃんの耳にも入れておこう。


「ちょ、ちょっとぉ!」


 オレはビラを握りしめ、もう片方の手でエミリアの手を取ると、ギルドホームへ飛んで帰ることにした。


*


 オレは帰り着くと、キッチンで岩塩を削っていたアルトちゃんに早速説明をした。


「……という事なのだよ、アルトちゃん」

「なるほど。不本意ですが、ヴァレリー様の名声を大陸中に轟かせましょう」


 流石はアルトちゃん、1を聞いて10を知る女だ。

 敏腕メイド2人組。勝ちはあっても負けは無い。


「アルトさん、本気ですか!?」

「はい、どうせ反対しても聞かないでしょうから」

「それはそうですけど……」


 こらこら、聞こえるところで人格批判は止めろ。


「……仕方ありませんね。私も腹をくくりました。アルトさんと一緒に『M-1』に参加しますね」

「おお、やってくれるか! オレも全力で応援するぞ!」


「でも、具体的に何を競うのですか?」

「それは当日のお楽しみらしいな。まあメイドと言えば炊事・洗濯・掃除と言ったところか?」


 大体メイドっぽいことはエミリアに任せておけば良さそうな気がするな。

 この天才の眼をもってしてもエミリア以上の女は見たことないし、もう既に勝ったようなものだ。


「これは楽しくなってきたな! よし、明日に備えて寝るとしよう」

「ま、まだお昼ですよ……?」


 明日は瞬きなど許されない。少しでも目に焼き付けられるよう、今のうちに目を休めることにした。


*


 当日。オレたちは『M-1』の会場へと足を運んでいた。

 今日は全員集合で、エミリアとアルトちゃん以外は応援団だ。


「うわあ、人がいっぱいです!」

「迷子にならない様に気を付けないとだね」


 どうやら王都中からメイド好きが集まっているようで、会場は既に異様な熱気に包まれてる。

 うちのメイドの活躍を見せつけたいという顕示欲と同時に、ジロジロ人のメイドを見るなという感情も沸いてしまうな。


「凄い雰囲気で気圧されそうです……!」

「大丈夫だ、何があっても勝てるとオレは信じている」


 とりあえず、まずは参加登録をするとしよう。そこまではオレたちもついて行くことにする。


「あの、2人参加受付をお願いします」

「……そちらの2名様でよろしいですか?」

「……? そうですが」


 受付のおばさんは、メイド服をビシッと着込んだ2人を見て尋ねる。他に居ないのだから聞くまでもないと思うが。


「そうですか。ではこちらの番号札を胸につけて時間までお待ちください。……お気をつけて」


 おばさんは意味深な言葉を残し、小さな番号が書かれた札を渡してくる。2人とも同じ番号なのでチームで統一なのだろう。


「何だったんでしょうか……?」

「気にするな、堂々と構えておこう」

「なっ!? ちょっとフリード、あれ見て!」


 エミリアと話していると、ロゼリカがオレの服を引っ張り、さっきまでエミリアたちがいた受付を指差す。


「どうした……! 何だあれは……あれがメイドを名乗っていいのか?」


 指の示す方角には、まるで戦士のように屈強な女が受付をしてもらっていた。頭にメイド的なカチューシャが乗ってはいるものの、完全に武闘派で袖からはもりもりと筋肉のついた二の腕が見えている。


「どうやらイベントを理解していない者がいるようだな。大食い大会の方が似合っていそうだが」

「うわっ、次の人も強そうだよ。握手したら腕を持っていかれそう!」

「あの人も私の2倍ぐらいの身長がありそうです!」


 最初は間抜けがいると思ったが、来る人来る人皆屈強な女戦士たちだ。間違えて武道大会の受付をしてしまったかと心配になるが、皆ちゃんとカチューシャをつけているのでメイドなのだろう。


「でもこれなら楽勝そうだね。筋肉が邪魔で細かい作業ができなさそう」

「ロゼリカ、人を見た目で判断するな。実はメイドとして優秀かもしれんぞ」

「なっ! さっき大食い大会の方が似合ってそうとか言ってたくせに!」


 ロゼリカに腰を殴られつつ周囲の様子を見る。みんな揃ってゴリゴリ系だし、大会の内容によっては危険かもしれないな。最悪、辞退も必要か……?


「参加者のみなさーん! 今から開会式でーす! 中央広場にお集まりくださーい!」


 突如、会場に大きな声が響く。どうやらついに開幕するようだ。


「御主人様……」

「一応開会式までは様子を見よう。いざとなったらオレが暴れる」

「ヴァレリー様が暴れないことを祈っていますよ」


 やや怪しい熱気の中、オレは2人のメイドを見送った。


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