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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
お嬢様護衛編
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第14話 休息

「んん……?」

「お、目が覚めたか」

「……なっ!? ちょ、ちょっと!」

 オレの背中で目が覚めたルイーズは自分の状況を見て、手足をバタバタと動かす。


「おっと、暴れるなって。天才におんぶして貰うなど、一生に一度あるかないかの体験だぞ」

「うう……」

 ルイーズは降りるのを諦め、動きを止める。


「・・・ここは何処ですの?」

「途中で見つけた村です。馬車を置いてくる前に確認しましたが、宿も空いていましたよ」

「野宿にならなくて良かったな」

 話しながら歩いていると、宿の前にたどり着いた。


「……そろそろ降りますわ」

 オレはゆっくりルイーズを下ろすと、宿に入ることにした。


*


 宿の中は明るく、そして少し暖かかった。

 掃除の行き届いた、落ち着いた木造の建物。一階は食堂も兼ねているらしく、いくつかの机と椅子が並んでいる。


「馬車の置き場はわかったかい? もうすぐ食事の準備ができるから、適当に座っておくれ」

 恰幅のいい女将に促され、3人で近くの椅子に腰掛ける。


「だいぶお腹が空いてきましたね」

「無理もないな。王都を出て6時間は経っている」


「ほいよ、お待たせ!」

 女将は深めの皿に入ったスープを持ってくる。赤いスープにゴロゴロと野菜が入っており、簡素だが食欲をそそる見た目だ。

 早速オレとエミリアはスープを口に運ぶ。


「お、美味しいです!」

「本当だ、美味いな……!」

 空腹は最高の調味料というが、それを抜きにしても非常においしい。

 野菜は程よく火が通り、歯を立てると染み込んだスープの味を口に広げる。

 オレは無心でスープを口に運ぶが、ふとルイーズを見るとまだ口をつけていなかった。


「どうした? お腹が空いていたんじゃなかったのか?」

「私、トマトは苦手ですわ。青臭くて、酸っぱくて……」

 やれやれ、また子供みたいなことを……。

 だが、ここで無理強いして食べさせては2流、自主的に食べさせてこそ1流(てんさい)だ。

 ……オレが天才だという事を教えてやるとしよう。


「それにしても女将よ、このスープは最高だな。トマトをベースにした深い出汁の味わい。これはおそらくセロリや玉ねぎ、人参の香味野菜出汁と見たが?」

「お、あんた、わかっているね! 野菜中心の出汁に、わずかにニンニクでパンチを利かせてるんだよ!」


「ニンニクだと! それがわずかに力強さを感じさせているわけか? しかし、それだけでは無いはずだ! 体が歓ぶほんのり浮いた脂。この正体は一体……?」

「あっはっは! あんた、面白いねぇ! 教えてあげるよ、これはウサギの骨から取った出汁も入れてあるのさ!」

「何だと……?」

 オレは上を向き目頭を押さえ、涙を堪えるふりをする。


「嗚呼、何故だかわからないが涙が溢れてくる……。否、オレはこの涙の意味を知っている! この味に出会えたことに対する歓喜の涙ではない、明日からこれを味わえない不幸を憂えた嘆きの雫なのだ……」

「あっはっはっはっは!」


 女将はツボにはまったらしく、膝を叩いて笑っている。

 ルイーズを見ると、オレの姿を見て味が気になったのだろう。スプーンでわずかにスープを掬うと、おずおずと口に運ぶ。


「美味しい……! 全然青臭くないですわ!」

 ルイーズは夢中になって食べ始める。


「村でとれた新鮮な野菜だからね。味には自信があるよ!」

 女将はドンと胸を叩く。


「女将よ、お代わりを頼んでいいか?」

「今日の客はもうあんた達だけだ、好きなだけ食べていきな!」


*


 3人は長い食事のあと、客室へと向かう。


「二人とも、お休みなさいませ」

「ああ、お休み」

「……お休みなさい」

 3人が各自の部屋に入り、あたりは静まり返る。


 ……一時のあと、扉の一つが開き、部屋の主が頭だけを覗かせキョロキョロと周囲を見渡す。

 部屋の主は音を立てないようにしながら、再び食堂へ向かっていく。食堂では、女将が食事の片づけをしていた。


「あの……」

「ん? ああ、さっきの。どうしたんだい?」

 女将に声をかけた人物、エミリアは恥ずかしそうに女将に話しかける。


「その、迷惑じゃなければ、さっきのスープのレシピを教えていただけませんか?」

 女将はふっと微笑む。


「ああ、別に構わないよ。帰り着いたら、彼氏にスープをふるまって喜ばせてやんな!」

「なっななな!? べっ別に御主人様とはそういう関係じゃ! 私はただの雇われというか! ただちょっと美味しいものを食べてもらいたいと思っただけで!」

 エミリアは顔を真っ赤にし慌てふためく。


「はっは、そうかい。教えてあげるからちょっと待っておくれ。先に食事の片づけをさせておくれよ」

「あっ、私も手伝います!」

 2人は退屈な仕事を、どこか楽しそうにテキパキこなしていた。


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