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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
間章 束の間の休息
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第148話 帰宅

「フリード殿!」


 辛気臭い聖地で死体と共に眠っていると、頭の上で声が聞こえる。

 ゆっくりと目を開けると、やっとセシリアが来たようだ。


「遅かったな」

「何ですか、この手紙は! ……人を馬鹿にしているのですか!」


 彼女はそう言うと、オレの渡した手紙を見せつけてくる。

 手紙の内容は、『聖地内にいるから迎えに来てね♡ 来なかったら火をつけます』といった感じだ。


 どうやら珍しくご立腹のようだ。しかしながら、ちゃんと迎えに来てくれる辺りは人間ができている。


「そう言うな、こうして"竜の心臓"を守れたわけだからな。常識の通用しない奴を相手にするにはそれを超えるしかない」

「この者は……」


 床に倒れている男を指差しながら答える。セシリアと面識があるかどうかは知らないが、侵入者だという事はわかるだろう。


「後処理は頼んだ、オレは先に帰らせてもらうぞ」

「あっ……」


 セシリアがいる間じゃないと脱出できない。墓の掃除はお任せして、ギルドホームへと帰ることにしよう。

 入り口の方へ向かうと、ドーム型の結界に穴が開いているのが見える。ここから脱出できそうだな。


「さて、早く帰ってトイレに行かないと」


 オレは王都の方へと足早に向かうことにした。


*


「ただいま帰ったぞ」

「御主人様、2日もどこに行ってたんですか! 行先も言わないから心配していたんですよ!」


「悪いな、ちょっとばかり添い寝を、な」

「なっ……!」


 適当なことを言いつつ、ルイーズ家に我が物顔で上がり込む。

 とりあえずはお酒のボトルをあげながら食事を待つ。丁度12時前に帰ってきたので何かしら出るに違いない。


「ちなみに今日の昼食は?」

「御主人様の分はありませんよ……。だっていつ帰ってくるかわかりませんでしたし」

「何だと……?」


 そんなことが許されていいのか? 国の為に命を懸けた人間に対してあまりにもひどい仕打ち。

 ……まあ、敵を騙すにはまず味方から、の精神で秘密裏に行動したのが悪いわけだが。


 仕方ない、どこかで食べてくるかと考えていると、オレの目の前に食事が運ばれてきた。


「はい、手抜きパスタですけど」

「……? オレの食事は無いんじゃなかったのか?」

「メイドですし出さないわけにはいかないですよ……。きっとどこかで仕事をしてきて疲れてるんですよね?」


 こいつは女神か。やはり持つべきものは優秀なギルドメンバーだ。

 有難く食事にありつくとしよう。


「あっ、フリードが帰ってきてる!」

「本当だ! フリードさん、いつ戻ってたの?」

「ああ、お帰り。オレもさっき仕事から帰ってきたところだ」


 パスタを咀嚼していると、昼食の時間になったからだろう、ロゼリカとフラウが帰ってきた。

 オレと同じテーブルに着くと、食事を待つ体勢になる。


「フリードさん、もうだいぶガレキも片付いてきたよ!」

「へえ、早いな」


 女子供ばかりだしまだ時間がかかるかと思っていたが。一服したら様子見に行ってみようか。


「第1ギルドの築城部隊が来てくれて、人海戦術で一気に片付けたんだ」

「なるほど……」


 ギルドホーム建築は依頼の成功報酬だったはずだから行動が早すぎるな。もしかしたら結果を見る前から助けてくれるつもりだったのかもしれないな。


「よし、ご馳走様。オレも少し進捗を見に行くとしよう」

「あっ、ちょっと待ってください!」


 食後の皿をキッチンに持っていくと、エミリアに呼び止められる。足を止めると、エミリアはオレの姿をじーっと見つめていた。


「……何の用事だ?」

「失礼します!」

「うわぁぁぁっ! オレの一張羅が!」


 突然、エミリアが襲ってきた。オレの上着を一気に引き下げると、戦闘の時から既に破れていた服がビリビリと二つにわかれ、上半身が露わになる。


 露わになったオレの胸の辺りには、斜めに戦闘の傷が残っている。深くは無かったので既に血は止まっているが、にじみ出た血がかさぶたのように残っていた。


「子供たちが近くにいるのに……!」

「すぐ終わりますから」


 問答無用とはこのことか。オレはキッチンで上半身を丹念に舐めまわされてしまったのでした。


*


「うわ、フリードさん!? なんでキッチンから上半身裸で出てくるの!?」

「ちょっ、変態! 我に近づくでない!」


 事後、オレはキッチンから出て一度着替えることにした。いくつか替えの服はガレキの山から救出しているので露出散歩の刑は免れたが、子供たちからいわれのない批判を浴びせられる。


「ちょっと仕事で服が破れていたからな、寿命が来たという事だ。気に入っていたんだが」

「ふーん。それなら直してあげようか?」

「出来るのか?」


 ロゼリカは裁縫が得意なので、嬉しいことを申し出てくれた。敗れ去った服を渡すと傷跡を確認している。


「これぐらいならやれそう。少し預かっとくね」

「本当か、頼む。報酬はそのうちに……」

「いいよ、いつも助けてもらってるし」

「じゃあ僕も手伝うよ!」


 まったく、なんて良い子たちなのだろうか。ぼろぼろのそれを渡すと別の服に着替えて、当初の予定通り現場に向かうことにした。


「折角だし肩のとこにマントを付けたらカッコいいかな……」

「じゃあ僕は袖に銃でも仕込もうかな」


 ……不穏な言葉は聞こえなかったことにしよう。


*


 元ギルドホームが存在していたところに到着すると、ロゼリカたちの言う通りすっかり更地となっていた。

 そしてちらほらと見知った顔が、更地を見ながらあーでもないこうでもないと話し合っていた。


 オレが近づくと、こちらに気付いたアルトちゃんが話しかけてくる。


「2日もギルドメンバーを放置していたヴァレリー様、よくぞ御無事で帰ってきました」

「ああ、少し見ないうちに美しくなったな。それで、進捗はどうだ?」


 オレがそう言うと、アルトちゃんの『念写』で書いた見取り図を近くで見ていた男が顔を上げる。


「また会ったな、ディーク」

「やあ、フリード殿。丁度良い、今から建築を始めるところでしたよ」


 つい先日まで行動を共にしていたディークに話しかける。第1ギルドの築城部隊が力を貸してくれるなら有難いことだな。


「でも、貴方が帰ってきたならすぐ終わりそうですね。自由に鉄を生み出せるのだから」

「いや、オレは家には温かみを求める人間だ。鉄は冷たいからダメだ」


 戦争中の仮宿ならともかく、ずっと過ごす予定の場所で鉄はちょっと辛いものがある。


「……わかりました。では、レンガ造りなんてどうですか? もちろん、床や窓等は材質を変えますが」

「良いな、それで頼む」


 築城部隊を名乗るだけあって、レンガを生み出せる魔法使いもいるという事か。

 だが、ディークは近くにいた作業者に声をかけると、その作業者たちはどこかに消え、その少し後に大量のレンガを手押し車のようなもので運んできた。


「……人海戦術?」

「彼らは僕たちが懇意にしている一般の作業者です。貴方のような創造型の魔法使いは少ないですからね」


 つまりは買ってきたという訳か。大変だな、下請けも。


「それで、工期はどのぐらいだ?」

「この図面の程度であれば、明日には完成かと」

「早いな……」


 ……大変だな、下請けも。

 今度、差し入れでも持ってくるとするか。


 だが、そんなに一生懸命やってくれるなら、邪魔しては悪いな。

 第1ギルド及び実作業者の活躍に期待して、今日の所は帰宅することにするか。


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