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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
王位の行方編
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第147話 結界内の攻防

「あっ、セシリア様! 『旅立ちの儀』はどうでしたかニャ?」

「……周囲に気を配っていましたが、何も問題なく終わりました。そちらは?」


 王子たちとともに聖地の中へと足を運んでいたセシリアは、半刻程経過してから無事帰ってきていた。

 やや浮かない顔をしながらも、シャオフーに様子を確認する。


「常に目を見張っていましたが、ハエ一匹も通しませんでしたニャ!」

「そう、ですか……」


 必ずこのタイミングで潜入者が現れると予想していたセシリアは、何もなかったことを喜ぶ様子はなく更に眉間にしわを寄せる。


(私の考え過ぎだったのでしょうか……)


「セシリア様、どうしますニャ?」

「……我々も帰りましょう。結界魔法が元通りになった今、侵入することも脱出することも不可能です」


 王子たちが馬車に乗り込んだのを確認すると、セシリアたちも来た時と同じように護衛をしながら、帰路へつくことにした。


*


 誰も立ち入ることができるはずのない結界の中。

 すっかり辺りが暗くなった頃に、それを見計らっていたかのように影の中から1人の男が現れた。


「ふん、所詮は小娘、王子の影に潜むオレの姿に気付かぬとはな。少々鼻が利く者もいたようだが、花の匂いに紛れればそれも通用しない」


 漆黒のローブを深く被った男は、自身の影の中からランタンを取り出す。それに火をつけると、周囲を見渡し始めた。


「下らぬ場所だな、とっとと目的のものを奪うとしよう」

「……それは不可能な話だな」

「っ!? な、何者だ!?」


 突然聞こえてきた別の人間の声に、思わず驚いた声をあげながら周囲をランタンで照らしながら見渡す。

 すると、今日収められたばかりの国王の棺がゆっくりと開き、中から笑みを浮かべたフリードが現れた。


*


「くっくっく、棺の中から生きた人間が登場するとは夢にも思わなかったか?」


 オレは、驚愕の表情を浮かべるローブの男をみて思わずニヤリとしてしまう。

 やはりオレの予想通り、影に隠れる魔法を持つこの男が現れたか。以前フーリオールでは腕1本しか獲ることができなかった為、今回はリベンジと言ったところか。


 昨日の夜から、死体を抱き枕にして1日耐えた甲斐があったというものだ。


「馬鹿な、国王の棺に潜むなど……! ましてや、脱出不可能な聖地にまで潜入するなどと……!」


「ふん、外法の存在が常識でものを考えてどうする。誰も想像しない答えにたどり着き、それを実行する行動力を併せ持つ男。天才と言わずして何と言うのだろうな?」

「ぐっ、狂人が……」

「そう褒めるな。今度は腕だけでなく、首を貰うぞ」


 棺桶からでて、ローブの男に接近すると、男は逃げるようにじりじりと後ずさりする。

 だが、思い直したのか、ランタンを床へと置くと自らの影に腕を突っ込むとそこから剣を取り出した。


「予定は狂ったが、行きつく場所は同じだ。"竜の心臓"は必ず頂く、ただ死体が1つ多くなるだけだ」

「ふん、その死体は恐らく片腕が無いのだろうな」


 まあ当然の流れだな。オレに勝てれば問題ないと誰でも考え付く、まあそれが不可能なのだが。


 ローブの男は片腕で果敢にもオレに挑んできた。手慣れた手つきで剣をオレに振るってくる。


「その首を主への手土産にするとしよう」


 鉄の剣などオレに通用しない、直接腕で受け止め、そのまま剣を体内に吸い込む。


「……! ほう、剣は効かないか」

「お前の影も便利そうだが、オレの魔法も悪くないだろう?」

「ほざけ、ゴミが」


 狂人からゴミ扱いへと一気にランクダウンしてしまったが、オレはめげない。

 男はオレの体へ手を伸ばすと、影から今度は爆弾を取り出す。


「なっ!?」

「刃物が効かないのであれば、その生意気な面を吹き飛ばしてくれる」


 男は爆弾をそのまま顔の近くへ投げると、自身は後ろに倒れるようにして影に沈み込む。

 そして数秒後に、オレの目の前でそれは爆発した。


「くそっ、人の影から変なものを取り出すな!」

「……影は全てオレにとっては武器庫だ。どれかは通用するだろう」


 顔に鉄を生み出して防ぐが、脳が揺れてしまう。ただの陰キャではなかったようだ。

 そして再び男が影から現れると、今度は大量の爆弾も引っ張り出してきた。


 これは最近粉塵爆発に頼り切っていたオレへの意趣返しなのだろうか。


「さらばだ、再び姿を現した時、貴様は肉塊になっているだろう」

「逃がすか!」


 こいつは影に逃げることさえできなければサンドバッグだ。奪う目的がある以上、自爆もできないだろう。

 今は夜で、こいつの隠れる場所が多すぎる。まずは影を奪うことにしよう。


 床に置かれたランタンを蹴り上げると、周囲に炎をまき散らす。床にわずかな燃料とともに燃え広がるが、やや明かりが小さく見える。


「くっ、おのれ!」

「……! この程度の明かりでも逃げられなくなるとはな」


 逃がしてしまったかと思ったが、男は半分ほど隠れていた体を再び露わにする。


「……なるほど。貴様、自分の影には自分自身が隠れることができないようだな」

「それが分かったところで、こんな小さな火から身を隠すことは容易い」


 そう言うと火から離れ、棺の置かれている祭壇あたりへと移動を始める。


「そうはさせるか!」


 オレは全速力で銀を生み出し、周囲の空間ごと辺りを包み込む。当然、ランタンから零れた火種も包み込み、やがて完全な球体の中に敵とオレを包み込んだ。

 ……敵を逃がさないために少々棺を突き飛ばしてしまったが、死体は文句を言わないのでセーフだ。


「ぐっ!? おのれ……」

「完全な球体の中では影になるものなど無いな。名付けて錬金術奥義・サドンデス会場だ」


 この逃げ場のないタイマン専用の場所で、確実に止めを刺しておく。


「……ならばこの剣で貴様を殺し、"竜の心臓"を貰っていくとしよう。神話に伝え聞くミスリルの剣、貴様の魔法でも止められまい」

「ミスリル……?」


 男は懐から、見事な輝きを放つ剣を取り出した。魔法をはじくと言われているミスリルの剣、これ一本で城が立つな。

 ならばオレも剣で答えるとしよう、闇を払うイメージの銀の剣を生み出し、正対に構える。


 勝負は一瞬。丸く走りにくい銀の床を蹴り、お互いにすれ違いざまに剣を一閃する。


「くっくっく……」

「ぐっ!」


 やはりオレの魔法ではミスリルは防げなかったようだ。一応肌に鉄を生み出してはいたが、それを貫いてオレの胸を切り裂いていた。


「くっくっく……。あの時、フーリオールで気付いておくべきだった。お前が、最大の脅威であると……!」


 男はそう言うと、オレよりも深く切り裂かれた胸に手を当て、血を吹き出しながら倒れた。


「……腕が2本あればオレに勝てたかもな」

「ふん、動きの裏をかかれた時点で負けていたのだ。だが、それでも我らの野望は……!」


 ……どうやら絶命したようだ。結局お互い名も知らぬまま、静かに勝負は終わったようだ。

 だが、こいつの死に顔……。任務に失敗したはずなのに悲壮感は見えなかった。こいつも狂人だったのか、それとも別の策があるのか……。


 今の時点では考えても仕方ないな。

 ドジっ娘セシリアちゃんがオレの手紙を読めば、明日の朝迎えに来るはずだ。


「やれやれ、棺を元に戻しておくか。不敬罪で捕まりかねない」


 全てがオレのせいという訳ではないが、一応周辺を片付けておくことにする。

 ふと、死体の横にあるミスリルの剣が目に入った。


「……こいつは戦利品として貰っておこう」


 まだ明け方までは時間がある。オレは剣を抱き、死体の横で眠ることにした。


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