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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
王位の行方編
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第145話 ホームレス

「おっ! あったあった、オレのワイン!」

「もう、お酒を掘り返しに来たんじゃないですよ……」


 オレたちは、崩れたガレキを漁り、まだ使えそうなものを探していた。

 ギルドホームがフレデリックに吹き飛ばされてしまったので新しい住居が必要だが、最低でも金は掘り起こさないと立て直すこともできないな。


「そう言うな、すさんだ心はお酒で潤す必要があるだろう?」


 そういいながら、ガレキから瓶の口だけを覗かせたワインボトルを引っこ抜く。

 ……だが、下の方にひびが入っていたらしく、中身は全て無くなってしまっていた。


「なっ!? くそ、結構高かったのに……」

「ねえフリードさんー。それはいいから、僕の愛しい工作機械も掘り起こしてよ〜」

「……はあ、お酒は諦めて、まずは大物から引き上げるか」


 オレは鉄のジャッキを生み出すと、大きめのガレキの下に潜り込ませる。


「おーい、ステラ、ロゼリカ! ガレキを持ち上げるから気をつけろよ!」


 オレは、崩れ落ちたホームの反対側で一生懸命スコップで掘り返しているはずの2人に注意喚起をする。ここからだと姿が見えないが、元気のいい返事がちゃんと返ってきた。


「どうだ、見えるか?」

「うーん、暗いな〜。……うわっ、僕の機械がぺちゃんこだ!」


 ジャッキによって広げられた隙間を覗いていたフラウが、ショックを受けた表情で膝をつく。

 わかるぞ、その気持ち。オレがワインを失った時と同じ気持ちなのだろう?


「ヴァレリー様、そろそろセシリア様と約束の時間ですが……」

「おっと、もうそんな時間か。じゃあエミリア、あとは頼む」


 オレは自分が被っていたヘルメットをエミリアに被せると、一旦その場を後にすることにした。


*


「失礼するぞ」

「お待ちしていました、フリード殿」


 第1ギルドのホームに到着し、そのまま執務室へと足を運ぶと、セシリアが待ち構えていた。

 机に促され、素直にそこに座る。


「……その、ギルドホームのことは大丈夫でしたか?」

「まったく大丈夫ではないが雨風は凌げている」


 現状、オレたちはルイーズの屋敷に住まわせてもらっている。あまり迷惑をかけたくないが、オレはともかくステラたちには流石に野宿させたくないからな。


「そうですか……。本当に申し訳ございません」

「済んだことはもういい。それよりも、王子とは話はできたのか?」


 王子が大臣を殴りつけた後、部外者のオレは消えるようにその場を去っていた。流石に王族の兄弟の話に立ち入るほど常識知らずではないからな。


「はい、兄上が王位を継ぎ、私は変わらずこのギルドを率いていくつもりです」

「そうか、それが良いな」


 権力争いなど一般人にとっては迷惑でしかない。落ち着くべきところに落ち着いたのならまずは一安心だな。


「……本題に入りましょうか。貴方も御存じだとは思いますが、竜の体を集めている者がいることに気付いていますね」

「ああ、知っている」


 雪国フーリオールでも、先の戦争でも各国に封印されていた竜の体が奪われていたという話だ。


「貴方は知らないと思いますが、先代のギルドマスターは未来を見通す魔法を持っていました。それで、竜の復活を……」

「ちょっと待て、未来を視る魔法……!? それは、『未来視』という魔法か?」

「先代のマスター、ワーグナー様を御存じなのですか!?」


 名前も知らない、オレの恩人。まさか、このギルドの関係者だったとはな。

 こんなところで繋がりを見つけるとは、なんだか複雑な気分だな。


*


「ふうん、竜の復活……。そこまで見えているとはな」

「はい、竜の体を集めているのも十中八九はそれの為でしょう」


 オレは、シャオフーの淹れてくれていた紅茶を飲みながら、詳しい話を聞いていた。

 かつて『世界を救う』と言われてもどこかぼんやりしていたが、はっきりとやるべきことが分かった気がするな。


 とりあえず、竜の復活を阻止する。それが恐らく世界を救うという事なのだろう。

 どうやら想像していたよりも、世界を救うのは単純だったな。殺せば勝ち、野蛮だがわかりやすい。


「遠くない未来にやるべきことは分かったが、直近ではどう動くべきなのだろうな?」

「……まもなく我が父、現国王が命を落とすでしょう。その時、亡骸は聖地に運ばれます。そこは歴代王と、竜の体も封印されています」


 セシリアは自分の父親が亡くなるというのに淡々と話す。兄弟仲は悪くないことが判明したが、親子仲は微妙なのか?


「聖地は、過去に創造型の魔法使いによって結界が張られています。その結界は、人も物も、魔法さえも通しません」

「へえ、今度試してみるか」

「……結界は、王族の血を引く者だけが一時的に解くことができます。竜の体を狙うのであれば、その時しかありえません」


 つまりは、そのタイミングだけ警戒すれば守り通すことができるという訳だ。


「わかった、オレも動くとしよう」

「対応してくれるのですか?」

「当然だ、オレは天才だからな」


 セシリアも王族として、しばらくは忙しいはずだ。ここはオレが一肌脱いでやるとしよう。

 この程度のこともやれないのでは、天才は名乗れないからな。


「報酬は新しいギルドホームで勘弁してやろう。紅茶、ご馳走様」


 上等な紅茶を飲み干すと、返事を聞かずにその場を後にして、工事現場に戻ることにした。


*


「くう〜! やはり肉体労働後のビールは最高だな!」

「フリード君、大変だね」

「全く、掘り起こしたばかりのお金でそんなもの買うなんて……」


 オレたちは一日中ガレキの片付けを行った後、ルイーズの家で夕食を摂っていた。

 まだルイーズの父エリオットもいる為、彼のおごりでホームレスの割に豪華な食事を食べることができている。……ビールは自腹だが。


「新しいお家を建てないといけないのに、お酒なんて買っている場合ではありませんよ?」

「安心しろ。今日セシリアと話をして、ギルドホームを建ててもらうことになった」


「ほっ、本当ですか!? 建物だけとはいえ、相当な金額ですよ!」

「そこはオレの交渉術の力という訳だな。代わりに1つ、仕事を貰ったが」


「仕事……」

「簡単な仕事だ。くたばった王様の死体を無事墓に送り届けるだけ。喋らないだけ、わがままお嬢様よりも楽だな」

「……それは誰のことを言っていますの?」


 お嬢様にジロリと睨みつけられるが、スルーだ。


 一時はどうなる事かと思ったが、住居の当てもできたし何とかなりそうだ。

 後は使えそうなものを掘り起こして、土地を更地にした後は成功報酬を待つばかりだな。


「本当にそれだけの仕事ですか? 何か裏がありそうですけど……」

「心配は不要だ。どんなに難しくてもこの天才が失敗するなどありえない。結果は見えているさ」

「……怪しいです」


 どうやら信用がないようだが、いつものことだ。結局最後にはオレのことを見直すだろう。


「まあそういう訳で、新しいホームの間取りでも考えようではないか」


 せっかく立て直すのだから、前よりも豪華にしてしまおう。金の出所は第1ギルド、つまりは無限だと考えていい。


「お兄様、一階にペットショップが欲しいです!」

「私は地下にお魚の養殖場が欲しいな」

「僕はやっぱり工房が欲しいな〜! 今度は鉄を溶かすための溶鉱炉も!」

「はっはっは、全部却下だ」


 心配をするエミリアをよそに、オレは全員の希望を盛り込んだ夢のマイホームに思いを馳せるのであった。


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