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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
王位の行方編
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第143話 崩落

 突然我が家にやってきてふざけた態度をとるフレデリック。

 優しき天才と言われたこのオレもそろそろ爆発しそうだ。


「貴様の『錬金術』……。所詮は金属を操るだけの穴だらけの魔法だろう? 電気にも弱ければ熱にも弱い。無論、冷気にもだ」

「誰でも知っている説明をありがとう。お陰様でまた賢くなったよ」

「……死ね!」


 フレデリックは怒りに任せ魔法を放ち始めた。冷気がさらに増し、壁まで凍り付き始める。

 割と高級な家具や壁紙が大変なことになってしまっている。誰の金だと思っているのだろうか。


「仕方ない、すぐに片をつけてやろう」


 ギルドホームの中であまり使いたくない技だが、ここは錬金術奥義・粉塵爆発で秒殺だ。

 じわじわ戦っていたら家全体が氷で大変なことになってしまう。損切が大事だな。


 オレはアルミ粉を周囲に散らせる。この狭い閉鎖空間だ、ちょっとの量でも良い火力が出るだろう。

 頃合いを見て、金属同士をこすり合わせ火花を散らす。


 カチカチと打ち合わせると、何度目かの火花がついに着火し、大事な大事なギルドホームごと部屋を吹き飛ばした。


*


「……やったか?」


 自分の身を守るために生み出していた金の壁を解除すると、煙の立ち込める部屋に目を凝らす。

 少々火力が強すぎたな。辛うじて部屋は残っているが、家具はバキバキ、壁はボロボロ、お気に入りのマグカップは粉々だ。


「やれやれ、だが少しは暖かくなったな」

「私の氷を破るほどではなかったが」

「……!」


 煙が少しずつ晴れて視界が鮮明になり始めた頃、氷の壁に包まれたフレデリックが現れた。

 オレの身を削る爆発攻撃が通用しなかったというのか? 大損ではないか。


「貴様の技は既に報告を受けている。残念だったな、折角の大技でも私の魔法の前では大した効果もない」

「……なるほどな」


 先の戦争でも、第1ギルドと行動を共にしていたからな、情報が漏れていたようだ。

 大技を使いまくったのは迂闊だったが、こんなにがっつりやり合うつもりは無かったから仕方ない。


「もう勝ち目はない、芯まで氷漬けにしてやろう」

「……ぐっ!」


 せっかく温めた部屋が再び凍り付いていく。更には遊びは終わりといった風に、今度はオレを目掛けて氷が襲い掛かる。

 盾を生み出し氷を防ぐが、冷気は防げない。触れていないと金属を操れない為、必然的に冷気もオレに伝わってくる。


 できる限り壁を分厚く生み出すが、そのほんのわずかの間にもオレの体を冷やし、手の平を鉄に張り付かせる。


「くそっ、もう一度暖めるか……?」


 寒さは思考力を奪うというのは本当のようだ、オレとしたことが次の手を思いつかない。

 そうしている間にも冷気は少しずつ鉄を伝ってオレに襲い掛かっている。


「うおっ、床が……!?」


 もう少し壁を分厚くしようとしたとき、地面が傾き、落下する感触が体に伝わってきた。


 周りの様子を見るために鉄を一旦解除すると、どうやら地下室に落ちてしまったようだ。

 爆発の影響で弱くなっていたところに、鉄の重みで止めを刺してしまったか。


「ふん、逃げるつもりか?」


 フレデリックはふざけたことにもう一つ大穴を開け、地下室へと降りてきた。

 ……だが、これは好都合だ。


「オレの家で逃げも隠れもしない。オレの魔法の真の力、見せてやるとしよう」


 オレは再びアルミ粉を生み出す。当然、もう一度粉塵爆発を狙うつもりだ。


「ふん、またそれか? 芸のない男だ」

「次はちゃんと驚かせてやるさ」


 確かに奴の言う通り、粉塵爆発は威力に欠ける。爆発と名前がついているものの、実際はものすごい勢いで燃え広がる炎でしかないからな。

 だが、次は本物だ。人のホームに土足で踏み込んだことを後悔させるとしよう。


 一回に比べて壁も分厚い、今度は手加減も必要ないだろう。


「……時間の無駄だ、今度こそ氷のオブジェになるがいい!」

「安心しろ、すぐに終わる」


 勝負は次がラストだ。体が凍り付き始めてもお構いなく粉を散らしていく。

 十分だと判断したとき、再び着火の為に火花を起こし始める。


*


「御主人様、大丈夫でしょうか……?」

「さっきの音、爆発じゃないのか? まさか、争っているとか……」


 ギルドホームから追い出されたエミリアたちは、少し離れたところから2人の話が終わるのを待っていた。

 だが、爆発音を聞いて、皆の表情に不安が浮かぶ。


「私、お兄様の様子を見てきます!」

「ちょっ、まずいってステラ! フリードに迷惑かけちゃうよ……」

「でも……」


 居ても立っても居られないステラを、ロゼリカが制止する。だが、心配なのはロゼリカも一緒のようだ。


「ちょっと貴女! シェレミーでしたわね。フリード様に何かありましたら、ただじゃ済みませんわよ!」

「分かっている。もし何かあれば……私も責任を取る」

「……! ふんっ、貴女で取れるほどの責任であればいいですわね!」


 ルイーズはシェレミーに突っかかるが、深刻そうな表情をしている彼女に少したじろぐ。

 もはや、待つだけの彼女たちのストレスはピークに達していた。


「……シェレミー様。そもそもフレデリック様は何の用事でいらっしゃったのですか?」

「フレデリック様は、セシリア様を暗殺しようとしている者がいることに気付いたが、正体まではたどり着けていない。だから、フリードのことも疑っている」


「……!? でも、御主人様はそんなことをするような人ではありません!」

「分かっている……。だが……」


 シェレミーが声を絞り出そうとしているとき、突如ひときわ大きな爆発音が響いた。


「きゃあっ! な、何ですの……?」

「うわっ、見て! ギルドホームが、揺れてる!」


 彼女たちが音をする方を見ると、ホームが音をたてながら揺れているのが見て取れた。立派な外壁には大きなひびが入り、自身のように周囲にも揺れを伝播させている。


 そして、ついに耐え切れなくなったのか、ガラガラとギルドホームが崩れ落ち始めた。


「御主人様!」


 エミリアの声を皮切りに、全員がギルドホームの側へと走り出した。


*


「ゲホゲホっ! ……ああくそっ、我が家が!」


 オレは、上にのしかかってきたガレキを蹴散らしながら、地上を目指していた。


 フレデリックを吹き飛ばすための作戦、そのカギは地下室に合った。

 フラウの工房になっているそこには、たくさんの工作機械と金属材料、そしてそれらを動かすための大量の燃料があったのだ。


「フラウの奴、燃料が無くなってきたとか言っておきながら、大量にあるじゃないか」


 最後のチャンスだと考え、出来るだけ爆発の威力を高めようとアルミ粉を生み出しまくったわけだが、それが過剰過ぎた。

 たった1年と半年オレたちを支えてくれたギルドホームは、無残にも爆死してしまったのだ。

 さようなら、オレの4億。


「うわっ! はあ、早く脱出しないと埋まってしまうな」


 悲しみに打ちひしがれていると、頭を目掛けてガレキが落ちてくる。

 オレの脳みその価値はプライスレスだ。ギルドホームは失ってもこれだけは失ってはならない。


 上を目指してガレキをはねのけていくと、やっと光が目に届き始めた。


「脱出成功だな、くそ野郎」

「ぐっ……! がはっ!」


 オレは左手で引きずっていたフレデリックを、力づくで外に投げ飛ばす。辛うじて息はあるようだな。


「御主人様!」

「うわーん、お兄様ぁ!」

「おっと、皆無事だったか」


 気付くとそばには他のギルドメンバーが駆け寄ってきていた。ステラがボディに突っ込んできたが、躱す気力もない。


「御無事で良かったです……!」

「御無事ではないがな。まあ、皆生きてる」


 生きているって素晴らしい。失ったものが多すぎるが、失ってはならないものだけは守りきれたようだな。


「さて、これからどうするか……。足場が崩れると危険だ、一旦ここを離れよう」

「これはどういうことですか?」


 ……どうやら今日は人生最悪の日のようだな。

 ガレキから降りると凛とした声が響き、目の前にはいつの間にかセシリアが立っていた。


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