第142話 襲撃
「はい注目ー。これから緊急会議を開きまーす」
夕食後、オレは予定通り緊急対策会議を開くことにした。
オレだけでなく他の者も狙われているのだ、緊急を要するのは間違いないだろう。
「御主人様、何でそんな変なしゃべり方なんですか?」
「止めてくれるなエミリア。こうでもして緊張をほぐさないと、怒りに理性が飲み込まれそうなのだよ」
「別に止めてはないですけど……」
全員が集合したのを見計らって、早速話を始めることにしよう。
今日の帰り道にオレとアルトちゃん、別の場所でもデットとロゼリカが襲われたことを、他の知らない者たちに伝える。
「そんなことが……!」
「街中で襲われるなど普通じゃありませんわ!」
計4人も襲われたとあって、全員に緊張感が走る。
「今までこんなことは無かったんだがな……」
「それで、どうするんですか?」
「外出の時はできるだけオレもついて行こう。どうしてもオレがいないときはデットかアルトちゃんがついてやってくれ」
戦闘に向いている魔法使いがほとんどいないが、できる限りの対策をしておこう。
2人にも頷いてくれたので、ひとまずはこれで様子見だな。
「犯人についてだが、心当たりはあるが具体的な人物までたどり着いていない。まあ、オレが自ら探し出して、落とし前をつけさせるとしよう」
「……ちなみに心当たりとは?」
「秘密だ」
オレがセシリア暗殺の依頼を受けていることはエミリア以外は知らない。十中八九それが原因なのだが、まだいうべきではないだろう。
「いつまで警戒を続けるつもりですの?」
「最長は現国王が死ぬまでだな。次の国王が決まれば自体は終結する、言うなればオレたちは政争に巻き込まれているのだからな」
確認すべきところはこのぐらいか。偉い奴らが勝手に暗躍するのは結構だが、巻き込む相手を間違えたことを教えてやるとしよう。
*
翌日。
緊急会議のせいで皆も警戒しているのか、今日はほとんど外出しているものがいない。
……そうは言っても食事の準備等があるので、誰かが一度はお使いに行かなければならないな。
「フリードさん、ちょっと燃料が足りなくなってきたんだけど……」
「私も新しい布地が欲しいな」
「我慢しなさい。しばらくは警戒態勢だ」
頭では理解していても、やはりストレスは溜まるものだ。子供たちの不満をどこかで解消したいと思いつつ、頬杖をついてボーっとする。
いつもより遅く過ぎていく時間を過ごしていると、不意に呼び鈴の音が聞こえた。
「お客様でしょうか? ちょっと出ますね」
「待てエミリア。オレたちを狙うものが家まで押しかけてきたのかもしれない。逆にこちらから先制攻撃しよう」
呼んでもない客などどうせろくなものではない。扉を蹴破り、鎖で吹き飛ばしてやろう。
オレ自ら玄関に行き、念のため声をかける。
「……どこの馬の骨だ?」
「何だその言い草は! 第1ギルドのシェレミーだ、開けてくれ」
……第1ギルドか。鎖で吹き飛ばすべきか迷う奴が現れたな。
穏健派として話ぐらいは聞いておくべきか。とりあえず、玄関を開けてやるとしよう。
「うおっ、お前もいたのか」
「……入るぞ」
玄関を開けると、シェレミーのほかにもう1人、副ギルドマスターのフレデリックが立っていた。
相変わらずふざけた態度だ。やはり先制攻撃しておくべきだったな。
何しに来たのかわからないが、話を聞いたらとっとと追い出すとしよう。
「皆さん、招かざる客2名のご入場です」
仕方なしに中に入れてやると、来客用の席に案内する。
「……何かお飲み物でも準備しましょうか? コーヒーならすぐ準備できますが」
「はっはっは、コーヒーなんて勿体ないですよメイドさん。泥水でも問題ありませんぞ」
「なんでお前が答えるんだ。……長く居るつもりはありませんので、遠慮させていただく」
結局、オレの分だけコーヒーが準備される。これを飲み終えるまでには帰っていただきたいものだな。
「それで、話ってなんだ?」
「……シェレミー」
「はい、フレデリック様。エミリアさん、他の者も、申し訳ないが彼ら2人きりにしてもらえないか」
オレの問いかけを無視しつつ、シェレミーに目配せをする。
どうやら2人だけで話をしたいようだ。まずは精神攻撃という事だな。
こちらを心配そうに見るエミリアに目で返事すると、ギルドメンバーたちを一旦外に追い出すことにした。
「ほら、満足か? 寒空の下で子供たちが可哀想だ、早く話をしよう」
「1つだけ答えろ。セシリア様の暗殺を依頼されたな?」
相変わらず一方的に物を言う奴だ。だがこの質問、どこかで情報を入手してきたようだな。
「話を聞いただけで受けたつもりは無いが。お前がオレをどう思っているかは知らないが、こう見えても常識人なんでね」
「ふん。もう1つ聞こう、暗殺を依頼したのは誰だ?」
最初に1つと言っておきながらのこの態度。
もうちょっと、もうちょっとと言いながらズルズル居座るタイプだな、こいつは。
「それをお前に言う必要性を感じないが」
「その反応、依頼者のことを知っているという事だな?」
「いくつ質問する気だ? もうサービスは終了だ、これ以上は相談料を取るぞ?」
「……」
オレの言葉に、フレデリックは無言でこちらを睨みつける。まさかオレが言うまで帰らないつもりか?
ドジっ娘の部下が駄々っ子とはな。実はコスプレ部隊が一番まともなのかもしれない。
「黙っていてもこれ以上は答えないぞ。お金がないならセシリアちゃんにお小遣いでも貰ってくるんだな」
「一般人ごときがっ……! セシリア様を、語るなぁぁぁっ!」
「なっ……!」
一向に帰らないので挑発をしたところ、突然フレデリックが怒りを露わにする。
どうやら魔法を発動したようで、彼を中心に冷気が巻き起こり周囲を氷漬けにした。
「うおおっ、氷の魔法!?」
「最初からこうするべきだった。第1ギルドに逆らう有象無象など、国には必要ない! 力のある者が国を導くべきだというのに、貴様らのようなクズどもが我らの足を引っ張るのだ!」
どうやらこいつは本気のようだ。自分が正しい、偉いと信じて疑わない困ったちゃん。
要するにセシリアを守るためにここに来たという事なのだろう。
だが、気にかかるのはこの氷魔法だ。ここ最近、氷魔法による被害を見たばかりだ。
「お前、他のギルドも襲ったのか?」
「ふん、素直にセシリア様を狙った犯人を教えればいいものを、下らぬ守秘義務を優先した男の事か?」
「……忠告しておくが、第1ギルドが世界の中心だと思わないことだ」
やはりこいつが『ハンサムボディ』のギルドマスターを襲ったようだ。今まで態度が悪いだけの偉そうな男だと思っていたが、ガチガチの武闘派だったようだな。
「私の問いかけに答えるなら命だけは助けてやるぞ?」
「答えなくても命は助かるだろうがな」
「ほざけ、『錬金術師』! 貴様の能力など既に底が知れている。私の『氷獄召喚』には勝てん!」
フレデリックはそう言うと、更に冷気を強める。周囲がパキパキと凍り付いていき、さっきまで湯気を放っていたコーヒーも氷と化している。
「このまま貴様も氷漬けにしてやろう」
「最も冷やすべきはお前の頭だと思うがな」
非常に面倒だが、降りかかる火の粉は払わねばならない。……氷魔法に"火の粉"という表現が合っているかは別としてな。