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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
王位の行方編
142/198

第141話 つけ狙う者

 オレはブランディーニ総合病院に依頼して、気絶したギルドマスターを搬入して貰っていた。

 金はサービスするつもりは無いが、急を要する事もあって治療は優先的にしてくれたようだ。


「……凍傷だね、まるで氷水の中に漬け込まれたように全身に影響が出ていたよ。まあ僕の病院ならすぐに治るけどね」

「そうか、じゃあこれは今回は要らないな」


 オレの手元には、デットに持ってきてもらった紹介状がある。これがあれば死以外は治療できるようなので、もしもの時には使おうと思ったが、そこまでの事態ではなかったようだ。


「赤の他人にそれを使うつもりだったのか? 勿体ないと思わないのかい?」

「治療に使うものを大事に持っていてどうする。使える時に使うべきだろう」


「ふふん、優しいことだね。君は医者には向いていないけど、教師には向いていそうだね」

「……どっちにもなる気はないが」


 誉め言葉かどうかわからない話は聞き流すとして、容体を教えて欲しい所だな。


「それで、治療にはどのぐらいかかるんだ?」

「今回は僕の魔法は使わずに一般の治療をしよう。意識は明日にでも取り戻すと思うけど、完治は2週間ってところだね」

「そうか、よろしく頼む」


 こんな王都のど真ん中で襲われるなど大事件だ。意識がはっきりしたらお見舞いも兼ねて、何があったのか話を聞きに来るとしよう。

 今日の所はギルドホームに帰るとするか。


*


 その夜。


「ふう……。相変わらず軽犯罪者が多いなあ」


 王城の端にある部屋で、1人仕事をしながら独り言をつぶやくリセリルの姿があった。


 彼女は自身の魔法『嘘発見器』を活かして、犯罪者の管理を仕事としている。

 しかしながら、魔法が優秀過ぎるが故に他の仕事を任されることも多く、今日も本来の仕事に取り掛かる頃には夜遅くになってしまっていた。


「全く、こんなに働いても公務員だから給料増えないし……。親もお城で働いてたからこっちを選んだけど、やっぱりどっかのギルドに入っておくべきだったかな〜」


 背伸びをして体をほぐしつつ、1人愚痴る。そうしていると部屋の入り口からノックする音が聞こえたたため、、慌てて体制を元に戻す。


「リセリル、入るぞ」

「これは、大臣様」


 中に入ってきたのは、王子の側近の1人であった。手に持っていった蝋燭を部屋の脇に置き、リセリルに話しかける。


「……暗殺の依頼は問題ないのだろうな」

「はい、ギルド管理局と連携して、10ほどのギルドに話をしました」

「そうか、ご苦労」


 報告を聞き、満足そうにゆっくりと頷く。


「……ですが、その。どうやら顔見知りがいたようで、もしかしたら私のことがバレたかもしれません」

「なっ、何だと!? 個人的な知り合いか!?」


「いえ、以前裁判で裁かれた経験を持つ男です。まさかCランクのギルドマスターにそのようなものがいるとは…‥」

「馬鹿な……! 信頼できるものを見繕えとギルド管理局に頼んだというのに、前科者に依頼するなどと!」


 大臣は怒りにわなわなと震え、リセリルはその怒りが自分へと向かないように目をそらしている。


「その、心は読みましたし、決して王子に逆らうような男ではないかと……」

「黙れ! そんな言葉信用できるか、そこから足がついたらどうする!」


 リセリルは小さな声で進言するが、怒鳴り声でかき消されてしまう。びくっと肩をすくめ、また静かに俯き顔を合わせないようにしている。


「何としても消さねばならんな。その者の名は?」

「ギルド『ミスリルの坩堝』、フリード・ヴァレリーです」


 大臣は名前を覚えると、来た時よりもやや足音荒く部屋を後にした。


「……ムカつく! 何よ偉そうに、私の魔法を頼りにしたくせに!」


 完全に足音が消えたことを確認すると、リセリルは怒りの声を上げる。

 どうやら仕事をする気も削がれたようで、雑に机の上を片付けると、彼女もその場を後にした。


*


「どうだアルトちゃん、ギルドには慣れたか?」

「ええ、皆さん私と違って優しいので大分落ち着いてきましたよ」


 オレは昼下がり、アルトちゃんと夕食の買い出しに来ていた。


 午前中に病院に様子を見に行ったが、まだ意識ははっきりしておらず、悶々としながらも日常を過ごしている、と言ったところだ。

 オレはギルドマスターなのだから、他のギルドばかり気にしていないで、自分のギルドも向かなければな。


「……それで、あとは酒を買えばいいんだったな?」

「そんなことは聞いていませんが。あとは塩だけですね」


 手元にあるリストを見ながらアルトちゃんが答える。とっとと買い物を終わらせてゆっくりするか。


「……ん?」


 塩の売っている店へ向かっていると、何かが光を反射するのが見えたので、思わずそちらを向いてしまう。


「痛っ!? なんだ、矢か!?」


 顔を光った方向に向けた瞬間、額に痛みが走る。頭にどうやら矢が命中したようだ。

 鉄の矢じりはオレには通用しないが、衝撃は通用するので脳が揺れるような衝撃が頭を揺らす。


「さすがですね、ヴァレリー様。矢を額で受けるなんて凡人には思いつきませんよ」

「……矢を掴む方が凄いと思うが」


 どうやら矢はアルトちゃんの方も狙ったようだが、目の前でバシッと鷲掴みにされている。流石は元アサシンという事か。


「そこ……!」


 アルトちゃんは懐からなぜかフォークを取り出すと、矢の飛んできた方向へ向かって投げ放った。

 どうやら命中したようで、小さなうめき声が聞こえた。2人でそちらの方へ駆け寄る。


「おい、殺したのか?」

「まさか、かすり傷ですよ。毒が塗られていますので、すぐ動けなくなりますが」

「……フォークに毒を塗るのか。間違って食事の時に出すなよ」

「ご安心ください、経口摂取では効果がありませんから」


 ご安心はできなかったが、気を取り直して目の前のことに集中しよう。

 うめき声の聞こえた建物の陰を覗くと、男が1人倒れていた。見かけない顔だ。


「おい、何者だ? ミスリルよりも価値のあるオレの頭を狙って、死ぬ覚悟はできているのか?」

「ひいっ……! 助けてくれ、オレは頼まれただけで……」


 保身のためかくだらない命乞いをするが、頼まれただけで人を殺そうとするとはな。

 アルトちゃんだから奇跡的に無事だっただけで、これが他の者だったらと思うとぞっとする。


「はあ、殺してやりたいが、弱者は殺さないようにしているんでな」


 雑魚を絞っても何も出ないな。オレは近くの衛兵を呼び、そいつを連行して貰うことにした。


*


「やれやれ、とんだ災難だな」

「私の見た限りでは、大体いつも災難続きのようですが」

「……それは気のせいだ」


 無事、塩をゲットして、会話をしながら帰宅する。もやもやが残ってしまったが、こういう時は酒を飲んで忘れるに限るな。


「あっ、フリード! アルトさんも!」

「……ロゼリカ?」


 もうすぐ帰り着こうかというところで、後ろからロゼリカに声を掛けられた。振り返ると、デットも一緒のようだ。


「珍しい組み合わせだな?」

「昨日羽を貰っただろう? あれの質が良かったから、もう一回貰えないかと頼みに行ってたんだ」

「ぬいぐるみに詰めたらふわふわにならないかな〜っと思ってさ。今日は貰えなかったけど、また生え揃ったらくれるって!」


 ……平和なことだな。

 4人に増えた状態で再び歩き始めるが、何か話したい様で、デットがオレの真横に並び声をかけてきた。


「……さっき、街中で変な奴に襲われた。ずっと付けられている気配があっておかしいと思っていたら、弓で狙われたんだ」

「デットもか? オレたちも同じように襲われたぞ」


 どうやら全然平和ではなかったようだ。王都内で直接命を狙われるなど今までなかったはずだが。

 これは他のギルドにかまけている場合ではないな、何か対策を取らないとな。


「夕食後に緊急会議をしよう。オレたちはともかく、子供たちを守らないとな」


 デットの肩をポンと叩いてそう言い、ついでに塩の荷物持ちを任せると、視界に映り始めたギルドホームに向かう足を速めた。


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