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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
王位の行方編
139/198

第138話 溝

「お兄様! 今日は何の日だと思いますか?」


 特に働くこともなく過ごしていたある日、学園から帰ってきたばかりのステラが話しかけてきた。

 この天才に謎かけなど自殺行為だというのに、困ったちゃんだな、全く。


「今日はかぼちゃの日だ。学者がかぼちゃの量産に成功したためそう言われている」

「むー。そういう事じゃないです!」


 どうやらオレの答えはステラのお望みのものではなかったようだ。

 では、何の日だというのか。オレも馬鹿ではないので、何か誕生日とか、約束していたかなどは真っ先に考えたが思い当たる節は無かった。


「今日は定期試験の結果が帰ってくる日です! 見てください、お兄様!」


 そう言うとステラは後ろ手に隠していた紙を見せつけてくる。3枚の紙は、全て右上に100の文字が書き込まれていた。


「おお、全部満点とはな。流石は天才の妹という事か、よく頑張ったな」

「えへへ……」


 以前から凡ミスで惜しくも100点を逃がすことが多々あったが、今回はそれもなく見事完璧な成果を収めたようだ。

 オレがクシャクシャと頭を撫でてやると、嬉しそうにはにかむ。


「それで、その、何か……」

「何だ、御褒美でも欲しいのか? 金か?」

「明日、一日中お買い物に付き合ってほしいです!」


 なんだか歯切れが悪そうにしていたが、促してみるとどうやらただのショッピングのようだ。

 それぐらいなら大したことではない、それで喜ぶなら付き合ってやるとするか。


「いいだろう、疲れて歩けなくなるまで付き添ってやる。……そういう訳でエミリア、1000万ほどお金を持ってくぞ」

「何を買うつもりですか! 桁が2つは多いですよ!」


 ……悲しいな、怒られてしまった。オレはただ、妹の喜ぶ顔が見たかっただけなのに……。


*


「よし、ショッピングに行くぞ!」

「はい、お兄様!」


 翌朝、しっかり準備を終えたオレたちは手早く朝食を済ませ、いざ戦場へ向かおうとしていた。

 オレのポケットにはなけなしの10万ベルが入っている。これが鬼メイドの許してくれた金額だ。少々心もとないが13歳の少女を喜ばせるには十分だな。


「お兄様、ちょっと待ってください! むむむむ……!」


 ステラはそう言って力むとググっと2つに分かれ始め、やがて完全に分身し2人のステラが目の前に現れた。


 これはステラの分身魔法『二つの真実』だ。

 別に魔法を使うのに制限は無いわけだが、たった一つしかない切り札を見せびらかしてはダメだぞというオレの教育方針により、いざというときにしか使わないようにしている。


「今日はこれで、お兄様を2倍楽しみます!」

「楽しみます!」


 2人のステラはそう言うとオレの両側から腕に絡みつく。

 仕方ない、100点のご褒美だ。今日の所は許してやるとしよう。


*


「昼食のパスタ、美味しかったです!」

「私の食べたピザも最高でした!」


 時刻はお昼を回ったところだ。ついさっき昼食まで済ませ、2人のステラが口々に感想を言い合っている。


 2人いれば胃袋も2倍、美味しそうなメニューの数々に対してステラは、別々の食事を注文することで両方楽しむ作戦に出たようだ。

 どうやら後で合体すれば、ちゃんと両方の思い出も残るらしい。聞けば聞くほど頭のおかしくなりそうな魔法だ。


「それで、次はどこに行きたい? さっきからお店に入っても何も買っていないが」

「見てるだけで楽しいです!」

「次は観光がしたいです!」


 息ぴったりで交互に返事をしてくる。

 こういうウィンドウショッピングはいまだに何が面白いのかわからないが、過去にエミリアもロゼリカも楽しそうにしていたからな。みんな好きなんだろうな、多分。


 しかし、観光か……。こんな王都のど真ん中で観光と言っても、貴族が趣味でやっているような博物館や芸術館ぐらいしかないが、それも楽しめるのだろうか。


「……! そうだステラ。城の中に入ってみるか?」

「城の中! 面白そうです!」

「でも、入っても大丈夫なんですか?」


 どうやらオレの提案に興味を引かれたようだ。

 城は当然王族の持ち物だが、一族しか入れないわけでは無い。2階と3階にある居住エリア以外は、配下の者も自由に出入りが可能だ。

 特に1階は一般人も無許可で入れる。オレも裁判や奉仕活動の報告に訪れたことがあり、縁のある場所と言えるな。


「入っても問題ない。運が良ければ王子に会えるかもしれないぞ」

「はい……」


 おっさんには若干興味がないようだったが、とりあえずそこへ向かうことにした。


*


「わあ、立派な大理石です!」

「天井高いです!」


 王都の中心にそびえたつ城は、徒歩数分でたどり着くことができた。

 ステラは城を見て、なかなか渋いチョイスで褒めている。もっとこう、ステンドグラスとかシャンデリアとかは褒めないのだろうか。


「あっ」


 くるくると回りながら辺りを見上げるステラを眺めていると、どこかで聞いたことのある声が聞こえてくる。

 後ろを見ると、見覚えのある顔。王城に勤める女性、リセリルだ。


「これはこれは、リセリル殿。奇遇ですな、はっはっは」

「……お久しぶりでございます」

「いや、それは無理があるだろう」


 あくまでこの前の仮面を被った女は自分ではないと言いたいようだが、同じ反応をしてしまった後では通用しない。


「丁度いいな、少し話をしたい」

「ナンパですか? やめてください、久しぶりに会った、しかも以前一度お会いしただけの仲ですよ?」


 彼女は矢継ぎ早にそう言うとすたこらさっさと去っていった。ステラがいなければストーカーをしたが、今日は諦めておこう。


「お兄様、先ほどの女性は?」

「お兄様、先ほどの女性は?」

「同時に同じことを言うな。さっきのは嘘を見抜くことのできる魔法使いだ。その力でこの国を守っているわけだな」


 ……国は守ってもセシリアは守らないつもりらしいがな。

 とにかく、拷問でもしなければ彼女は口を割りそうにない。真実に近づくには別の相手を責める必要がありそうだな。


 それは置いておいて今日はステラの相手だ。さっきのことは頭の隅っこに押しやり、再び妹の相手をすることにした。


*


 そのころ、第1ギルドのギルドホームにて。

 執務室のテーブルの近くで、ギルドマスターであるセシリアと副ギルドマスターのフレデリックが話し込んでいた。


「セシリア様。城下では噂が流れているようです。次期国王には実力あるセシリア様の方がふさわしいと口々に言い合っておりました」

「……くだらない噂です。私は王位に興味はありません、兄がこの国を継ぐべきです」


 どうやら会話の内容は仕事ではなく、次期国王に関する話のようであった。

 フレデリックの話を、セシリアは興味ないと言わんばかりに聞き流している。


「ですが、一般人たちの噂も馬鹿にはできません。それはつまり、民意がそれを望んでいると……」

「フレデリック! ……2年連続で隣国との争いがあり、国は疲弊しています。ここで王位を争うことに何の意味があるというのですか。国民のことを思えばこそ、私は手を引くべきでしょう」

「……失礼しました」


 珍しく語気を強めたセシリアの反応に、フレデリックはそれ以上の言葉は無意味だと判断したようだ。

 頭を下げ執務室を後にする。


「……セシリア様が望んでおられずとも、国を導くには力が必要だ。力なき者が慣習というだけで王位につくなどありえぬ。……こうなれば、私が……」


 執務室の扉が完全に締まり切った後、セシリアには聞こえない声でフレデリックは呟いた。


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