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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
国境防衛編
135/198

第134話 お家に帰ろう

 オレは勘違いで殺されかけてしまったが(1年ぶり2回目)、聖女の魔法で一命をとりとめていた。


「……お二人とも、治療は終わりました」

「ああ、助かった。……顔色が悪いが大丈夫か?」

「はい、お気遣い感謝します……」


 自分で聞いておいてなんだが、どう見ても大丈夫そうではないな。顔は真っ青で生気がなく、放っておくと消えてしまいそうな雰囲気だ。

 横を見ると、サレナも生きていたようだ。オレがミスリルありで死にかけたのに直撃を受けたサレナが無事という事は、手加減して貰ったという事か。


「お互い無事でよかったな」

「……まったく、お前のせいでひどい目に遭ったぞ」

「おいおい、ひどい目に遭わせたのはここにいるおっさんだろうが」

「……本当に済まなかった」


 おっさんことセルジュークに罪をなすり付けつつ、治療の終わった体の様子を確かめるため立ち上がり、背伸びをする。もう完全に元通りのようだ、素晴らしい魔法だな。


「さて、パトリシア様。私はハレミア第1ギルドのサレナと申します。よしければ、少し話をさせていただけませんか」

「……はい、わかりました」


 話とは、恐らく戦争の原因、竜を復活させようとする者についてだろう。オレもハレミアを代表する天才として話を聞いておくとしよう。

 割れたガラスを踏まないようにしながら、聖女に先導され教会奥の部屋へと足を踏み入れた。


*


 オレたちは時間をかけ、情報交換を行った。聖女様は後ろめたさからか、聞いたことは大体何でも答えてくれたが、肝心の怪しい吟遊詩人の素性は知らない様だった。


「やれやれ、本人が死んでしまったし、死人に口なしだな」

「フリード・ヴァレリー、お前のせいだぞ」

「そう言うな、恐ろしい魔法使いは生け捕りなど不可能だという事ぐらい知っているだろう?」


 まあ、十分に情報は得られたな。オレたちは所詮招かれざる客、長居する必要はないだろう。


「……私はすぐに終戦の宣言をします。今更こんな言葉では何にもなりませんが……」

「そうですね、我々も撤退の準備をしたいと思います」


 この様子だと、すぐに戦争も終結するだろう。長かったが、やっとホームに帰れそうだな。


「やっと帰れるな、フラウ」

「うう、疲れた……」

「すぐに馬車を用意いたします。本当にありがとうございました。助けていただいて……」


「助けられたのはお互い様だ。そう気を落とさない方が良いぞ、必要なのは謝罪ではなく救いだ。折角良い魔法を持っているのだからな」

「はい、ありがとうございます……」


 さっきまで殺し合っていた同士なのでやや気まずい空気のまま、馬車が来るのを待ち続けた。


*


 豪華な馬車はオレたち3人を乗せて、約一週間かけて王都まで運んでいった。


「……ぐっ! しまった、お土産を買うのを忘れていた!」

「もう、戦争後なのにそんな余裕ないよ」

「……噂には聞いていたが、お前たちは変な奴らだな」


 オレたちのやり取りを見て、サレナがため息をつく。


「お、お前たちって……!」

「誰だ、変なやつとか言ったのは? シャオフーか? うさ耳か?」

「……セシリア様だ」


「ふん、今度抗議に行くとしよう。可愛いうちの子たちを馬鹿にするなってな」

「多分お前が変な奴の中心だと思うが」


 くだらないやり取りをしていると、ついに懐かしい街が見えてきた。言葉にならない気持ちが胸の中にこみあげる。


「やっと帰ってきた〜! 僕たちの街!」

「……もう完全にハレミアに染まっているな」


 懐かしい城壁はだんだんと近づき、中に侵入し、やがて町の中心で動きを止めた。久しぶりに地面を自らの足で踏みしめると、体がジーンと熱くなる。


「お疲れ様だな、サレナ。セシリア、シャオフーその他諸々にもよろしく」

「……お前はご近所さんか」


 サレナは最後まで連れない口ぶりで、頭を一度だけ下げると去っていった。

 オレとフラウもギルドホームへと歩き始める。


「おい、フラウ。オレが殺されかけたことはエミリアたちに内緒だぞ。怒られちゃうからな」

「僕は一回怒られた方が良いと思うな」

「そう言うな。……仕方ない、賄賂としてこの指輪をやろう、世にも珍しいミスリルだ」

「そんなんじゃ騙されないよ。そんなものより大切なものがあるしね」


 内通に失敗したため、ありのままで帰宅するしかない。玄関の呼び鈴を鳴らし、扉を開け放つと、走り寄ってくる足音が聞こえた。


「お兄様ーっ! 御無事でよかったです!」

「おっと。……元気そうだな、ステラ」


 両手を上げて突進してきたステラの脇に腕を突っ込むと、高い高いの要領で抱き上げる。そのまま上半身を顔ごとハグされてしまったので息が苦しい。


「御主人様っ!」

「フリード様、御無事で何よりですわ……!」

「おいおい、こんなに玄関に集まって。ゆっくりしたいからまずは中に入れてくれ」


 一同揃ってわらわらと玄関を占領し始めたので、まとめてぐいぐいと中に押し込む。


「ねえ聞いてよエミリアさん。フリードさんがまた無茶をして……」


 一瞬目を離したすきに、フラウがエミリアに告げ口している。まったく、オレはそんな子に育てた覚えはないのだが?


「おいおいフラウ君。何を証拠にそんな事を言うんだい? オレの体は傷1つないじゃないか。嘘をつくなんて、お兄さん悲しいなぁ」

「なっ! 何その口調! 怪しさ満点でしょ!」


「大人の世界では証拠が全てだ。どれだけ必死に訴えても、エミリアにはどちらが正しいかわかっているさ」

「御主人様、また無茶をしたんですね……」

 わお、全く通用していないぞ。戦争から帰ってきたばかりのオレを労ろうという気持ちはないのか?


「お兄様、私はお兄様を信じます!」

「そうか、いい子だな。でも息苦しいからそろそろ降りて貰っていいか?」


 顔に張り付いたステラをビリビリと引きはがすと、やっと椅子に座って休むことができた。


「フリード、戦争はどうだった? 大丈夫だった?」

「お兄様、私も色々聞きたいです!」


 ……こんな時でも子供たちは元気だな。

 今回も苦労したが、守りたいものを守れて良かったな。


 オレは夕食まで、皆にオレの武勇伝を聞かせることにした。


*


 翌日、オレはギルド管理局へ来ていた。

 命を懸けて戦争に行ったのだから、しっかり報告をして金をせしめないとな。


「おはよう、アネットちゃん」

「おはようございます、ヴァレリーさん〜」


 おっとりとした受付嬢に、戦争の報告を行う。急いで書類を作ってくれているが、アルトちゃんと比べると少しもたついているな。

 そのアルトちゃんはというと、戦争後も受付嬢として戻ってきてはおらず、空っぽの窓口が1つ残っているだけだ。


「はい、受付完了です〜」

「ああ、ありがとう。やっぱり2人だと大変そうだな」

「そうなんですよ〜! ああ、早く新しい人が入ってきて欲しいです」


 軽く雑談をし、報酬を受け取る。ずっしりとしたそれを懐にしまっていると、最後にまた言葉を発してきた。


「その、アルトのこと……」

「ああ、安心してくれ」


 ただ一言だけ言葉を交わすと、ホームへと帰ることにした。


 ゆっくりと帰り着き玄関のドアに手をかけると、美味しそうな匂いが漂っていることに気付いた。

 これは、優秀なメイドが昼食の準備を始めているに違いない。


 無言でホームに入っていくと、玄関には2人のメイドが見えた。

 1人は鍋をかき混ぜ、もう1人はガリガリと岩塩を削っている。


「あっ御主人様! お帰りなさいませ、もうすぐ食事ができますよ!」

「ヴァレリー様、お帰りなさいませ」


 1人は見慣れた顔、そしてもう1人は……元・敏腕受付嬢、アルトちゃんだ。


「こんな重労働を女性にさせるなんて、人使いの荒い方ですね」

「岩塩を削るのは得意だろう?」

「……お陰様で」

 やれやれ、アルトちゃんは相変わらずの態度だな。


 ……アルトちゃんは今、国の判断待ちだ。スパイであることは揺るぎようのない事実だが、オレが第1ギルドを通して、戦争で貢献したことを伝えてある。

 恐らく十中八九、無罪放免だろう。この国には恩赦制度もあるからな。戦勝という大きな出来事は、オレの予想通りに事を進めてくれると思う。


 だが、流石に公務員に元スパイを入れるわけにはいかない。そこで無職のアルトちゃんをギルドに誘ったわけだ。

 アルトちゃんはオレの誘いの言葉にただ一言、わかりました、と答えた。


 ……そして今に至る。


「それにしてもメイドが増えて大助かりだな。これからよろしく頼むぞ」

「……はあ、エミリア様も大変ですね」

「そうなんですよ、本当に! この前だって……」


 会話の内容はともかく、メイドが増えたことでエミリアも話し相手ができたようだ。

 どんどん賑やかになっていくギルド、苦労と同じぐらい楽しさも増えるというものだ。


 オレに対する可愛い愚痴を聞きながら、昼食までゆっくりと過ごすことにしよう。


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