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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
国境防衛編
134/198

第133話 魔軍大将セルジューク

 ステンドグラスを破りながらド派手な侵入をしたオレたちは、聖女にあらぬ疑いをかけられていた。


 まずは話を整理しよう。ハレミアの第1ギルドは竜の復活を目論む者を追っているが、聖女様はその犯人が我々ハレミアだと思っているわけだ。

 ……明らかに彼女が間違っていると思うのだが、何故そのような勘違いをしているのだろうか。


「おい、何故オレたちが竜を復活させようとしていると思ったんだ? 証拠でもあるのか?」

「私の部下からの進言です、人を信じるのが私の役目ですから」

「……話にならないな」


 要するに、部下から言われたから信じたという訳か。自分の影響力を理解していない奴が上に立つと恐ろしいな。


「聖女様、何かありましたか!」


 どうやら騒ぎを聞きつけて別の人間が来たようだ。兵士だと面倒だと思ったが、そうではない様だ。


「吟遊詩人……?」


 やってきたのはこの場に似つかわない、怪しげな男であった。まさかこの国の司祭はこんな格好をしているわけじゃないだろうな。


「ピエーリオ! この者たちは貴方の言っていた、邪竜復活を目論むハレミアの手のものです!」

「なっ!? そ、そんな馬鹿な! どうしてここにハレミアの人間が!?」

「へえ、お前が証拠もなくオレたちを犯人扱いしたわけか」


 聖女はどこまでもおとぼけのようだ、まさか張本人を教えてくれるとは。こっちを尋問した方が早そうだな。


 捕えるために近づこうとすると、サレナに手で制された。どうやら魔法を使っているようで、彼女の周囲を回っている光球が、半径を広げ男の体をすり抜けている。


「なんだい、この魔法は? 光の玉?」

「気をつけろ、フリード・ヴァレリー。こいつの魔法は、『改竄(ブラックプロパガンダ)』。得体が知れない……!」

「……! へえ、これは探知魔法かい」


 怪しい男は一瞬表情を強張らせるが、すぐに微笑みを浮かべる。なかなか肝が据わっているようだ。


「聖女様、こいつらはあなたの口封じに来たのでしょう! ここは僕に任せ、今すぐお逃げなさ……え?」

「なっ、ピエーリオ!」

「うわあ、フリードさん! なっ、何してるの!?」


 オレは怪しい男が言葉を紡ぎきる前に、心臓を剣で貫いていた。

 時間の無駄だ。得体が知れないなら殺してしまえばいい。聖女さえ生き残っていれば何とでもなるからな。


「ぐああ、馬鹿な、この僕が……! パトリシアぁっ! 『女神の加護』で早くこの傷を治せぇっ!」

「ピエーリオ!? わ、わかりました!」


 流石に心臓を貫かれて余裕の表情とはいかないようだ。聖女の名を呼びすてにし、治療を請う。

 どうやらこの聖女様の魔法は治療魔法らしい。エミリアの魔法と違い、杖をかざすだけでみるみる傷が塞がっていく。


「はあ、はあ……。くっ、まだ感触が残っているよ……!」

「なるほど、素晴らしい魔法だな。聖女の事じゃないぞ、お前の洗脳魔法だ」

「なっ、何故それを!?」


 昔、本で読んだことがある。話しかけるだけで他人を操る干渉型の魔法を使い、国を支配しかけた男の伝説だ。

 根拠のない戦争、指導者が洗脳されていることを考慮に入れておくのも当然といえよう。


 聖女が正気っぽかったので最初は考えすぎかと思ったが、話して分かる支離滅裂さ。やはり何かしらの魔法を受けていると考えていたところにこの怪しい男の登場。鎌をかけて正解だったな。


「くっ!」


 吟遊詩人風の男は、オレに背を向け逃げ出した。ネタバレすれば何もできない、これが干渉型の魔法の弱さだな。

 オレは鉄のスプリングを生み出し一足飛びで追いつくと、そのまま首を叩き落した。


「がっ……!」

「ふう、一件落着だな」


 こうなっては詩人と言えども、言葉を発することはできないな。


「ふ、フリード・ヴァレリー! なんてことをしてくれる! 敵地でこんなことをして、無事では済まないぞ!」

「そうだよ! ああ、お姉ちゃん。僕、生きて帰れないかも……!」


 折角オレが元凶を切り捨てたというのに、2人はこの世の終わりのような表情をしている。


「おいおい、何の為に人質を残したと思っているんだ? そこにいる聖女さえいれば……」

「うわあああぁぁぁぁっ! 私、私はっ……!」


 聖女を指差して撤退方法を口にしようとしたところ、突然彼女が発狂したように叫び声をあげる。


 ……これは、洗脳が解けたに違いない。干渉型の魔法は、魔法使いが死ぬと魔法自体も消えてしまう。

 自分自身の罪に気付いたという事か。


「うっうっ……。私が、戦争を……! 国民を、命を……!」


 まずいな、精神が崩壊しかけている。バシアから聞いた、争いを好まないという聖女。その言葉は想像以上に彼女を現していたようだ。


「聖女様、お気を確かに」


 頭を押さえうずくまる聖女にサレナが声をかける。そのまま近づいて様子を伺おうとしたところ、突然サレナが爆撃を受けたかのように吹き飛んだ。


「お、おい、サレナ!?」

「……お前たち、許さん。必ず殺す」


 いつの間に移動してきたのか、吹き飛んだサレナがさっきまで居たところに、見知らぬ男が立っていた。

 ……いや、オレはこの顔に見覚えがある。アルトちゃんが教えてくれた情報。ウイスクの兵士を束ねる魔軍大将、セルジューク。


 前線にいるはずなのになぜこの場にいるのか。そんなことはどうでもいい、フラウを守らなければ。

 オレは鉄の壁を作り出すが、その隙を許さず一瞬で間合いを詰め、光を放つ槍をオレに突き立ててきた。


「ぐああっ!」

「嫌っ、フリードさん!」


 槍がオレの体に触れた瞬間、爆発的な雷撃が体を巡り、目の前を白くさせる。後方に吹き飛ばされるが、幸いフラウには雷撃は届かなかったようだ。


「……? 確実に死ぬ一撃のつもりだったが。まあいい、数秒の延命だ」

「くそ、フラウ、逃げろ……」

「そっ、そんなことできないよ! うううっ!」


 フラウは目に涙を浮かべながらオレを引きずって逃げようとする。だが、フラウの小さな体ではろくに動かすこともできていない。


「パットに手をかけた罪、地獄で償え……」


 セルジュークは再び槍を構えると、その槍が先ほどの様にバチバチと光を放つ。


「止めて、セルジューク! 私が……! 私が、全て悪いのです……!」

「……! パット……?」


 聖女の叫びに、槍の動きが止まる。そのまま槍を下げると、パットの下へ走り去っていった。


「はあっ、はあっ、くそっ! 久しぶりに死ぬかと思った……!」

「う、う、う……うわーん、フリードさん! 怖かったよう!」


 フラウは人目も気にせず、オレの胸の上で声を上げて泣き始めた。


*


「はあ、だいぶ良くなった……」

「本当に申し訳ありません、ハレミアの使者殿」


 オレとサレナは、聖女の魔法による治療を受けていた。まだ立ち上がる気力は無く、2人で床に座り込んでいる。


「本当に済まなかった。私は、貴殿らが聖女を狙う暗殺者だとばかり……」

「もういい。命は無事だし、聖女様直々に治療をしてもらっているからな」


 セルジュークは何と、オレたちの目の前で土下座をしている。先ほどオレを殺しかけた時と打って変わって、申し訳ないオーラがにじみ出ているな。

 それにしても良かった、聖女の暗殺を撤回しておいて。ああ、本当に良かった。


「うう、もう絶対に死んじゃったと思ったよ……」


 まだ目の赤いフラウが、オレの傍で声をかける。大分心配をかけてしまったようだ。


「ああ、オレもそう思ったよ。だけど運が良かったようだな」

「……それは?」


 オレは胸の内ポケットをまさぐると、中に入っていたものを手の上に広げる。そこには、出発前にロゼリカとルイーズがくれたお守りと、小さなミスリルの指輪が入っていた。


「えっ、それ、ミスリル……? す、凄いじゃん!」


 流石はハーフドワーフと言ったところか。一瞬でこれが何かを見抜いたようだ。

 こいつは以前妖精島で女王に貰ったやつだ。妖精サイズのせいで指に入らなかったため、内ポケットに入れっぱなしだった。


「その魔法を防ぐ宝石がダメージを吸収してくれたんだね!」

「いや、もしかしたらこっちのお守りが守ってくれたのかもしれないぞ」

「……うん、そうかもね」


 ロゼリカのお守りぬいぐるみを指でつまみ上げる。おっと、少し焦げてしまっているな。よく見るとルイーズのブローチも壊れている。こいつは帰ったらみんなに怒られそうだな。


 ……まあ、怒られても仕方ないな、今回ばかりは。


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