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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
国境防衛編
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第125話 痴

 ウイスク陣営、設営の終わったテントの中で、3人の兵士が会話をしていた。


「ハレミアの奴ら、こちらの動きを察知して城まで築くなど、なかなかやるな」

「ふんっ、どうせ私たちにびびって慌てて準備したに違いないわっ!」


 腕を組み素直にハレミアを称賛する男に向かって、少女が噛み付く。


「……じゃが、あの魔法は何じゃろうな。少なくともAランクやBランクのギルドにはあのような魔法使いはおらぬようじゃが」


 もう1人の(よわい)70程の老将が、報告書をめくりながら口を開く。


「どうせ建築しか能のない魔法使いを召集しただけに決まってるわ、心配するだけ時間の無駄。私の部下が既に『潜入捜査蜘蛛(スパイダースパイ)』と『這い寄る毒牙(スニークスネーク)』で攻撃を開始している。すぐにあの城は棺桶になるわ」

「おい、バシア。どの部隊が先に攻めるかはコイントスで決めるはずだろ?」

「臆病者相手に貴方の特攻部隊が出る必要ないわ。私の暗殺部隊で十分」


 生意気な口調を崩さないバシアに、他の2名はやれやれと言った表情をする。


「じゃあオレは待機しておくぜ。こんな国境外れにある悪趣味な城よりも、敵の本拠地に全力を出したいからな」

「ワシは攻撃を始めるとするかのう。最近魔法を使っておらぬから、腕が鈍ってしまう」


「爺さん自ら攻撃すんのか? じゃあ寝る時間もなさそうだな、すぐ片付いちまう」

「ほっほっほ。このフィッチの『流星群』、まだまだ若いものには負けんよ」


 老将はそう言うと、ローブを引きずりながらテントを後にした。


*


「はあ、やっぱり温泉は最高だな……」


 オレは、フリードキャッスル内で温泉に浸かって疲れを取っていた。


 何故こんなところに温泉があるのかというと、水を確保するために全力で地下を掘っていたところ井戸水ではなく温泉が噴出したという訳だ。

 やはりオレは運がいい。少し離れたところに山があるとはいえ、平地で温泉を発見するとはな。


「ヴァレリーよ。お前にしてはおとなしいが、何か考えはあるのか?」


 温泉を満喫していると、同じく温泉に入っていたローズが話しかけてきた。

 全くひどい友人だ。オレが所かまわず暴れる男だと思っているようだ。


「ふっ、オレは心を入れ替えたのだ。戦争だからと言って無闇に暴れたりしない」

「そうか、では我が友人を信じるとしよう」

 そう素直に信用されると暴れにくくなってしまうな。こっそり暴れるとしよう。


「御主人様、大変ですっ!」

 ……やれやれ、またか。


 温泉の外からガラス越しにメイドが声をかけてくる。

 今度は何が起きたんだ、と言おうとしたところで、何が起きたかがオレにもわかった。


 大きな衝撃音とともに、黄金の城壁が形を変え始めていた。


*


「くそっ、入浴中に攻めてくるのはレギュレーション違反だろうが」

「何のレギュレーションですか!」


 オレは濡れた髪をタオルで拭きながら、ガラス越しに夜空を見上げる。

 オレが温泉を上がって体を拭いている間にも敵の攻撃は止まず、城壁はボロボロ、避難した居住用の建物も壁に穴が開き始めている。


「これは、フィッチ様の『流星群』……!」

「知っているのか、アルトちゃん」

「ええ、私が生まれた時から破壊部隊の隊長を勤めている方です。その名の通り、敵陣の破壊に長けた部隊です」


 このままではまずいな。所詮、黄金は黄金。勢いをつけて広範囲に降り注ぐ隕石には耐えられない。

 隕石がせいぜい拳ほどのサイズなのが幸いか。もっと大きければ、最悪衝撃波だけで全滅してたな。


「フリード・ヴァレリー! 何とかしろ!」

 ……何故オレに命令する。だが、オレにも守るべきものがあるので命令に従うとしよう。


 オレは自身の生み出した建物に手を触れる。その瞬間に建物と、それに連なる城壁までもがオレの支配下に落ちる。


「御主人様、もう建物が持ちそうにありません!」

「安心しろ、もう耐える必要はない」


 オレはこの城を建築した時のように再び金を生み出し、それと同時にボロボロになった建物も再度元通りに形作っていく。

 もともと大した強度の無い黄金で敵の攻撃を凌げるとは思っていない。だが、少々へこもうが、穴が開こうが、修復すればいいだけなのだ。


 オレがいる限り修復し続ける城。これが『錬金術』の真骨頂というわけだ。


「凄い、フリードさん! 城壁が元通りになっていくよ!」

「当然だ。相手の攻撃よりもこちらの修復速度が上回っているのだからな。もはや壊れる前に直り始めていると言っても過言ではないな」

「意味が分かりませんよ」


 隕石はまだ降り注ぎ続けているが、完全に迎撃態勢を取ったオレには通用しない。第一陣はオレたちの勝利と言ったところか。

 やがて、降り注いでいた隕石も勢いをなくし、ぱったりと止まってしまった。相手もこれが有効打にならないと悟ったようだな。


「御主人様、でもこのままだと、いたちごっこですよ」

「それはその通りだな。相手は何も被害を受けていないからな、また攻撃してくるだろう」


 手の塞がったオレの代わりにタオルでオレの髪をわしゃわしゃと拭きながら、エミリアが話しかけてくる。


「こちらから攻撃できれば少しは楽なのだがな。どう思う、第1ギルド殿?」

「……それはダメだ。あくまで我々は耐え続け、セシリア様のメルギス奪還を待つ」

「その通りだイェイ!」


 やれやれ、この惨状を見てもスタンスは崩すつもりは無いらしい。まあ、オレも情報が集まるまで無茶なことはするつもりは無いがな。


「……! フリード、何かに見られている!」


 一呼吸ついていると、突然デットが声を上げ、周りを見渡す。

 どうやら敵の攻撃はまだ終わっていなかったらしい、他の者も周囲を警戒する。


「うわぁー!? デカい蜘蛛! 気持ち悪いよ!」


 フラウが何かに反応し、オレの脇に隠れる。その方向を見ると、頭ほどの大きさの産毛の生えた蜘蛛がこちらに赤い目を向けていた。

 隕石で穴が一瞬空いた隙に侵入したのか?


「何だこの蜘蛛は? 見たことないが新種か?」

 この天才と言えども新種の生き物を見つけたのは初めてだ。捕まえて持ち帰れば、発見者として名付け親になれるかもしれない。

 だが、オレが捕まえようと鉄の籠を作っている途中で、デットがその蜘蛛を思い切り踏みつぶした。ぶちゃっと嫌な音がして、周囲に体液がぶちまけられる。


「うわぁぁぁ、グロいよ!」

「この蜘蛛は恐らく探知魔法だ。蜘蛛の視界だけでなく、この魔法の持ち主と思われる視界も見えた」

「……デット、凄いな」


 靴を履いていても虫を踏み潰すのは勇気がいるよな。この痴女、もはや女すら捨てている。

 だが、魔法と分かれば警戒をしないとな。魔法で生み出したものなら複数いてもおかしくない。


「私は城内で蜘蛛を発見次第潰すことにする」

「ああ、頼む。フラウも手伝ってやってくれ」

「無理無理無理! 僕、虫だけは本当に無理!」


「……私が手伝おう。私の魔法なら食虫植物も生み出せる」

 イヤイヤするフラウに変わり、ローズが名乗り出た。あんなでかい虫を食う植物なんてあるのか?

 まあ植物の専門家に任せるとしよう。デットに続いてローズも建物を出て、蜘蛛退治に向かっていった。


「……これで今日の所は攻撃は終わりか? それなら風呂に入り直したいが」

「もう、また呑気なことを言って……。痛っ!」

「ん? どうした、エミリア……!?」


 オレの後ろにいたエミリアが、突如苦痛で声を上げる。

 足を押さえてうずくまるエミリアの様子を見ると、ふくらはぎの辺りに蛇が噛み付いていた。


「エミリア!」

 ……くそ、まだ敵の攻撃は終わっていなかったのか。


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