第123話 築城
「ちょっとフリードさん! こちらから攻め込むってどういう事!?」
「そうだ、不可能に決まっている! 私たちは第1ギルドたちを合わせても、10人しかいないんだぞ!」
オレが口にしたウイスク侵攻作戦に、他のギルドメンバーが食って掛かってきた。
やれやれ、順番に説明してやるとするか。
「いいかよく聞け。第1ギルドがメルギスを奪えば勝利というのがそもそもオレたちの希望的観測でしかない。メルギスを守るためなら全軍そこを守らせておけばいいからな」
「確かにそうですけど……」
わざわざハレミアに攻め込む。今は理由が見当たらないが、何かが無ければ攻め込んでこない。
その何かが分からなければ、最悪永遠に耐え続ける羽目になる。
「でも、なぜそれが逆に攻め込むことに繋がることになるんですか!」
「兵士が勝手に攻め込んでくるはずがない、誰かの命令で動いているのは間違いないだろう。アルトちゃんに情報を聞いたが、ウイスクは王国だが、実質国政を握っているのはコロナ教らしい」
ウイスクはコロナ教の総本山がある国でもある。当然国民のほとんどが信者だ。
そのコロナ教の象徴である、聖女。彼女が花を欲しがれば、国中の花が採集されるとか。
その絶大な支持と権力を持つ者が命令してこの戦争が起きている。これがオレの予想だ。
「わかるか? オレたちは戦争が起きた理由探しをしている暇はない。戦いを終わらせたければ、オレたちが敗北するより先に頭を潰す、これが最短ルートだ」
「……絶対無理ですよ!」
「フリードの考え自体はわかったが、どうすればいいんだ? さっきも言ったが私たちは10人しかいないぞ」
「それはまだこれから考えることだ。耐えるにしても、逆に攻め込むにしても、まずは国境でオレたちの勝利が必要だからな」
「実質何もわかってないじゃないですか!」
エミリアが猛烈に反対してくる。まったく心配性なことだ、少しはこの天才を信用してほしいものだな。
「……私も不可能だと思いますよ。ウイスク国民は軍を含めほぼ全てがコロナ教信者です。ハレミアの手の者に聖女様が殺されたと知ったら、今より酷い全面戦争の引き金になりますよ」
アルトちゃんもついに口を開いた。当然と言えば当然の意見を言ってくる。
「それは殺し方次第だろう。安心しろ、そこまで何も考えずに殺すつもりもない」
「凡人の私では、貴方の作戦で戦争を終結させられるとは思えませんよ」
相変わらず、オレの作戦は受け入れられないようだな。
まあいい、不可能を可能にする、それが天才だ。今回もオレが天才だという事を教えてやるとしよう。
「まあまずは目先の勝利だな。反対を承知で他の奴らがいないうちに話したんだ、他の誰にも言うなよ?」
「うう、胃が痛いです……」
ギルドとして意思統一ができたので、発言した通りまずは国境での戦闘に勝利するとしよう。
オレは窓から風景を眺め、国境に思いを馳せることにした。
*
馬車を走らせること三日三晩、やっと国境へやってきた。
川や山のようにわかりやすい境界線があるわけでは無く、ただ単に平原が広がっており、地面に打ち込まれた小さな杭がやっと国境であることを教えてくれている。
目の前には真っ直ぐ平原、左右には山脈が広がり、ここ以外に平坦な地形で繋がっている国境はない。敵が攻めてくるならここを通るのは間違いないだろう。
「やっと着いたーっ! 戦争が起きるとは思えないくらい平和な場所だね!」
「まだ敵影は見えないみたいだな。特に監視されている気配もない」
馬車を下りると再び辺りを見回す。フラウは背伸びをしながら呑気なことを言い、デットは周囲を警戒している。
「ヴァレリーよ、今はまだ大丈夫のようだが、敵がいつ来るかもわからない状態だ。探知系魔法の2人が周囲を探っている間、テントの設営をしよう」
オレも背伸びをしていると、近づいてきたローズが話しかける。ローズの後方を見ると、第1ギルドのメンバーが周囲を見渡している。
「ふっ、ローズよ、テントのような小さいものではオレのような大きい男は収まりきらないぞ」
「……ではどうするつもりだ?」
「こうするんだ!」
オレは全力で腕から金を生み出す。以前、妖精島を落とした時の量を凌ぐほどの金を生み出すつもりだ。
金を生み出しながらも形を変えていく。オレが作ろうとしているものは、城。これぞ錬金術奥義・一夜城(純金ver.)だ。
「なっ!? こ、これは……!」
「フリード・ヴァレリー! いったいこれは何の真似だ!」
オレが生み出した金が広がり始めると、第1ギルドの連中も異変に気付き驚きの声を上げる。金はみるみる上に積み上がり、やがて城が完成した。
城壁が周囲を取り囲み、四隅には監視塔を模したとんがり屋根の塔が鎮座する。中心には3階建ての居住用の建物を作り上げる。まさに完璧な城だ。
「我が城へようこそ。王族より豪華な居城は少々不敬だったかな?」
決め台詞まで完璧。参ったな、オレは少しばかり凄すぎるようだ。
「ヴァレリーよ、素晴らしい出来だが、10人で守るには少々広すぎないか?」
「全て金だと中が暗そうですね。明かりが必要になりそうですよ」
くっ、何だこいつら。素直に度肝を抜かれて腰を抜かせばいいものを。
「……城のサイズは見直すとして、まずは中に馬車を格納しよう」
馬車を中に入れると城門を閉じ、改めて作戦会議をすることにした。
*
オレたちは城壁内の、中庭に当たる部分で会議をすることにした。ここなら太陽の光でちゃんと明るさが確保されている。
「フリード・ヴァレリー。作戦を話す前にまずは自己紹介をしよう、名前が分かっていないと色々不都合だ」
「……そうだな。オレは天才、フリードだ。隣のメイドはエミリア、その横の可愛いのはフラウ、更に横の痴女はデット、一番奥は特別参加のアルトちゃんだ」
「おい!」
「なるほど、よくわかった。出発前に名乗ったが、私はサレナだ。セシリア様直々に、この別動隊の指揮を任された」
サレナは真面目そうに名乗り、頭を下げた。魔法なのだろうが、先ほどから彼女の周りをボールがぐるぐる回っており、気になってしょうがない。
「次はオレだな! オレはサレナと同じ探知部隊の隊員、ヒューバートだ、イェイ!」
やや軽いノリで、横の男が名乗る。何故かギターを携え、髪はブラウンにピンクのメッシュが特徴的だ。
「……ヒューバート、真面目に名乗れ」
「これがオレの真面目だイェイェイ! ふーっ!」
ヒューバートは挑発するようにギターをかき鳴らすと、サレナに拳骨を貰っていた。
……本当にこいつらは第1ギルドか? まあ、気にしたら負けという奴だな。
「探知部隊という事は、シャオフーの部下なのか?」
「ああ、その通りだ。情報収集において、我々がウイスクの連中に後れを取ることは無い」
なかなかに自信があるようだ。オレたちとしても、探知系の魔法に乏しいしありがたい存在だな。
「じゃあ次は僕たちですね。僕はディーク、第1ギルドの建築部隊の隊長です。今日、貴方の魔法を見て、僕たちが派遣された意味が分かりました」
「わ、私はティーナです……。足を引っ張らないようにしますので、よ、よろしくお願いします……!」
探知兼漫才部隊の自己紹介が終わると、次に横の2人が立ち上がり話し始めた。
どうやら第1ギルドは建築部隊までいるらしい。まったくうらやましいことだ。
「建築部隊か。悪いな、仕事を取ってしまって」
「いえ、僕たちはこんなに大きなものは作れませんから。でも、貴方の弱点を補えるかと思います」
何だと? このオレに弱点? なかなか言ってくれるではないか。
「折角ですし、早速お見せしましょう、僕の魔法、『強化ガラス』を」
「『強化ガラス』……だと?」
いったいどんな魔法だというのか。まったく予想がつかないな。